第6話 仕事に本気の由奈
――翌日。
今日は土曜日だ。だが、俺にはやることがある。
スマホを手に取り、ある人物に電話をかける。
「お、翔也、起きてたか?」
『ん、ああ、さっき起きたとこ。どうかしたか?』
翔也に電話をかけるとワンコール目で出てくれた。まだ少しばかり眠そうな声ではある。
「今日暇だったりする?」
『なんか頼み事でもあるのか?』
「良く分かったな。そういうこと」
『いいよ。頼みごと聞くよ』
「ありがとう。俺の家のベッドを別の部屋に移動させたいんだけど、一人じゃ大変だから手伝ってほしい」
『そんなことか。全然良いよ。準備したらすぐ向かうよ』
「お、助かる。ありがとな」
『おう!』
翔也はすぐに俺の頼みを承諾してくれた。
準備を終えたらすぐにこっちに向かってくれるらしい。翔也は俺の家に入ったことは無いが、場所は教えたことがある。だから、俺の家の場所を聞かなかったのだろう。
以前、教えた時は軽く教えただけだったが、覚えてくれていたようだ。
「由奈~」
「なに~?」
リビングで自分が出演したドラマでの自分の芝居を見直している由奈に声を掛けた。休みの日までこうして仕事のことを考えているのは本当に偉いと思う。
「今から翔也が来てくれるってさ」
「ベッドの移動させてくれるんだったよね?」
「うん、そう」
「本当に私は手伝わないでいいの?」
「本当に大丈夫だから由奈はゆっくりしといて」
「わかった」
由奈は申し訳なさそうな表情をしているが、本当に由奈にはゆっくり休んでもらいたい。最近大きい仕事を終えたとは言っても仕事がなくなった訳ではないのだ。なので、怪我をされたら色々な人が困るだろう。
だから、由奈には休んでおいてもらうことにした。
気持ちだけ受け取っておくことにするよ。
「それって」
俺はあることに気が付いた。
由奈が今、芝居の確認も兼ねて視聴しているドラマは俺がつい最近見たものだった。
「俺がこの前観たやつだ」
「そう。このシーンの私の芝居、どう思う?」
突然、由奈はそう尋ねてきた。
俳優業界のことを何も知らない素人の俺に聞いて得るものはあるのだろうか。いや、一般的な意見が聞きたいのかもしれないな。
由奈が話しているシーンと言うのは、由奈の演じる主人公の姉が事故にあってしまったことを知るシーンだ。しかも、その事故を起こした犯人が主人公の親友ということも同時に知ってしまうというシーンになっている。
このシーンは俺も初めてみた時は号泣してしまったものだ。
事故を起こした犯人がいつも一緒にいた親友だとは予想していなかったからなぁ。
とりあえず、そのシーンを見て俺が素直に思ったことを言えばいいか。
「そのシーンはかなり予想外だったよ。まさか親友が事故を起こした犯人だったとはね」
俺がそう答えると、由奈は少し不満そうな表情をした。
何か間違った回答をしてしまったのだろうか。
「そうじゃなくて、このシーンの私の芝居についてだよ」
なるほど、そういうことだったか。そっか、芝居について聞いてたもんな。俺は何故か作品のストーリーの感想を話してしまっていたな。
そりゃ不満そうな表情にもなる。
このシーンの由奈の芝居について、か。このシーンで由奈は真実を知ってしまった瞬間に膝から崩れ落ち、大声で泣き叫ぶのだ。
だけど、あくまで個人的な感想にはなるが、普段のこの主人公の性格的にすぐ号泣するというよりは理解できずにその場に立ち尽くす、というような反応をすると思っていた。だからこそ、泣き叫ぶシーンは意外だったし、驚いた。
だが、これを言ってしまってもいいのだろうか。
この意見は由奈の芝居を否定していることにならないか?
……いや、でも、由奈は素直な俺の意見を知りたいはずだ。それなら、曖昧な答え方をするより、そのままの意見を伝えるべきだろう。
そう思った俺は、思ったことをそのまま伝える。
「由奈の演じた主人公の普段のキャラ的にこのシーンですぐに声を上げて泣き出したのは少しビックリしたかも。状況が理解出来ずにその場に立ち尽くしてしまう、みたいな反応をすると思ってたんだよね」
「やっぱりそうだよね」
「あ、でも、これはあくまで俺の意見だし、すぐ泣いたからこそ良いシーンにもなったかもしれないし」
「いや、私も今、見返してて夕貴と同じような考えになったんだよね。このシーンを演じた時は監督もOKを出してくれてこれでいいんだと思ったけど、改めて見返すと良くないとこが見えてきたよ」
由奈自身も何か引っかかっていたから俺の意見も求めてきたってことか。
そうだとしたら、俺は自分の意見をそのまま伝えたのは正解だったのかもしれないな。
「でも結果的にこのドラマは成功したでしょ?」
「そうだけど、もっと良くできたよねぇって思っちゃうんだよね。というか、夕貴は俳優向いてそうな考え方してるね」
「え、そう?」
「うん。私とか他の有名な俳優さんたちと考え方が似てる気がする」
「由奈といつも一緒にいるからじゃないかな」
「ふふっ、そうかもね」
由奈は俺の意見を聞けたことでどこかすっきりしたような表情になっていた。
俺が出来ることならこれからも由奈の支えになってあげたいと思った。
そんなことを考えていると、家のインターホンが鳴った。
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