第5話 同じ部屋で寝たい
その日、俺と由奈の夕飯は軽く済ませた。
理由は単純。あまりお腹が空いていなかったから。
喫茶店で食べたスイーツたちが胃に残り続けていたせいだろう。俺は、ショートケーキとコーヒーなのでそこまで重くなかったが、由奈はかなりのサイズのストロベリータルトを食べていたからな。
そんなわけで俺は今、自分の寝室で眠りつこうとしていた。
目を閉じ、夢の世界へと行きかけた時だった。俺はある異変を感じて目を開けた。周りを見回すが特に異変は見られない。
「勘違いか」
そう呟き、再び横になろうとすると、布団の中に何かがいる感触があった。
「何だ?!」
慌てて布団の中を確認する。
すると、そこには何故か由奈がいた。一体ここで何をしているんだ。由奈の寝室はここじゃないだろ。
そう思いながらも俺は由奈を拒むことはしない。というか、できない。
「由奈、なんで俺の布団の中にいるの?」
「寝たいから」
「由奈の寝室はここじゃないでしょ」
「んー、それに関して考えたんだけど、寝室一緒で良くない?」
「はい?」
由奈は突然おかしなことを言い始めた。
俺と由奈の寝室でいいのではないか、と。たしかに、俺としては同じ寝室だったらかなり嬉しい。だけど、由奈はそれでいいのか?
もしかしたら、由奈は寝ぼけているんじゃないか。
「もしかして寝ぼけてる?」
「いや、まだ寝てないからまったく寝ぼけてないよ」
うーん、どうやら寝ぼけていないらしい。
だとすると、本当に由奈は同じ寝室にしたいと思っているってことなのか。
「本当に同じ寝室にしたいの?」
「うん。だって、寝る直前まで夕貴と話していたいんだもん。寝室が別だからいつも寝る前は寂しいの」
「そ、そう、だよな」
由奈は時々こういう発言をするから俺はドキッとさせられてしまう。
だけど、こういう時は狙って言っているわけではなく、本当に思っていることを自然と言っていることが多い。
そうなると、俺も無理とは言えない。俺も少なからず寝る前は由奈と話せなくて寂しい気持ちになる。
仕方ない。
寝室を一緒にするか。
だが、同じベッドで寝るわけにはいかない。
こればかりは譲れない。俺の理性を抑えるためにも。
かといって、俺と由奈だけでは由奈のベッドを俺の寝室まで運んでくることは難しい。そもそも由奈には力仕事をさせるつもりはない。
俺以外にもう一人男がいれば何とかなるとは思う。
そうなると、あいつに頼むしかないな。
「由奈、今日までは我慢できる?」
「明日からは一緒の寝室で寝てもいいってこと?」
「うん。だけど、由奈のベッドをこの部屋に移動させるために翔也に手伝ってもらおうと思うんだけど、この家に呼んでもいいかな?」
「うーん、分かった。それで一緒の寝室になるんだったらいいよ。それに、私も手伝うよ?」
「いや、由奈が怪我したらいけないから俺と翔也で移動させるよ。だから、今日までは我慢してね」
「うん、わかった」
由奈は翔也をこの家に入れることを渋々許可してくれた。素をみせれない相手を家に入れるのはかなり不安だろう。それでも、許可をしてくれたのはありがたい。
俺が仲良くしている友達だからだろうな。
だが、翔也は俺と由奈が一緒に暮らしていることを知らないんだよな。
まあ、いずれは教えることになっていたかもしれないし、別にいいか。由奈も許可してくれたということは隠す必要はないということなんだろうしな。
とりあえず細かいことは明日考えよう。
翔也が頼みを受けてくれるのかも分からないし。
「もう遅いから由奈も自分の寝室で寝ておいで」
「そうだね、寝てくる。けど、その前に」
「ん?」
由奈は突然俺の前で腕を広げた。
俺が困惑していると、由奈は「寂しいから一回だけハグしてほしい」と上目遣いで言ってきた。そんな言い方されたら断れないのが男ってものだ。
俺は由奈の要望通り、抱きしめてあげた。
心臓の音がうるさいが、由奈には聞こえていないことを祈ろう。
由奈は満足すると、自分の寝室へとスキップで戻っていった。
「一緒の寝室、か。耐えてくれよ、俺の理性」
一人でそう呟いた。
同じベッドではないにしても、同じ部屋で寝るとなるとどうしても緊張はする。できるだけ、自然にいられるようにしないとな。
「俺も寝るか」
俺は明日に備えて、すぐに寝ることにした。
だが、心臓の音が鳴りやまず、結局あまり眠ることが出来なかった。
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