第4話 寄り道がしたい

 学校を終えた俺と由奈は一緒に教室を出た。

 その際、背後から声を掛けられる。


「二人ともまた明日な」

「おう、また明日な」


 声を掛けてきたのは翔也だった。

 そして由奈は返答するのかを見ていたら、小さな声でボソッと「また明日」と呟いていた。その時に少しだけニコリと笑顔を見せていたようだった。


 そんな由奈の姿を見て、嬉しい気持ちになる。

 俺以外の人にも少しではあるがちゃんと返答した。それに、笑顔も見せた。


 ボソッと呟いただけではあったが翔也は聞き取れたようで「うん、また明日!」と爽やかなイケメンスマイルを作りながら部活へと向かって行った。


「ちゃんと話せたね」

「うん。でも、少し声が小さくなってたかも」

「それでも、翔也には聞こえてたみたいだから大丈夫だよ」

「そうだといいなぁ」


 由奈は本当によく頑張ったと思う。

 素を出せない相手に対してはいつも冷たい対応をとってしまう由奈が翔也に小さい声ではあったが、ちゃんと返答したのだ。笑顔まで作って。


 そんな由奈には何かご褒美になるものをあげたいな。

 でも、何が良いだろう。


 ネックレスとか指輪だと、さすがに重すぎるよな。まだ付き合ってもいないのに。

 となると、食べ物系か?

 それか、由奈の行きたい場所に一緒に行くとか?


 とりあえず、どこか行きたい場所とか食べたいものがあるか聞いてみることにする。


「由奈は今行きたい場所とか食べたいものってある?」

「今?」

「うん、今」


 由奈は頬をさすりながら頭を悩ませる。

 だが、すぐに答えは出たようだ。


「喫茶店行きたい! そこで甘いものが食べたいかも」

「喫茶店でいいの?」

「うん、喫茶店が良いの」

「分かった。それじゃあ、行こうか」

「連れて行ってくれるの?」

「由奈は頑張ってみたいだからそのご褒美としてね」

「やった! ありがとう夕貴!」


 喫茶店なら学校の近くにあるし、行きやすくて助かったかもしれない。

 由奈が行きたいと言った場所ならどこであっても連れて行く覚悟はしていたが、遠くにならずに住んで良かった。


 それに、俺も少し甘いものが食べたい気分なのでちょうど良い。

 喫茶店は帰り道に寄る場所として俺たちの学校の生徒なら定番なので急いで向かうことにした。満席だったら由奈が悲しんでしまうかもしれないからな。


 ♢


 喫茶店に着くと、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。

 喫茶店の好きなとこはこういうとこなんだよね。もし、初めて訪れた喫茶店であっても何故か懐かしさを感じるんだよね。

 そういうところが皆に愛される理由なのかもしれないな。


 そう思いながら、俺たちは店内へと足を踏み入れる。


 静かな曲と香りの良いコーヒーの香りが漂う落ち着いた雰囲気が漂っており、他の場所では味わえないゆったりとした時間が過ごせそうだ。


 幸いにもまだ空いている席はあった。


「凄いリラックスできそうな雰囲気だよね」

「そうだね。俺はこの雰囲気好きなんだよね」

「うん、私も。早速何か頼もう」

「そうだね」


 机の端のほうに置かれているメニューを広げる。

 そこには、美味しそうなスイーツの写真が多く並んでいる。どれも美味しそうで悩んでしまいそうだが、俺は決めた。


「よし、俺は決めたよ」

「私も一応決まった。結構悩んだけどね」

「それじゃ、頼もうか」

「うんっ!」


 俺たちは店主を呼び、注文を行う。


「えーっと、ショートケーキとコーヒー、それと……」

「私は、ストロベリータルトをください」


 俺は、ショートケーキとコーヒーを注文した。

 ショートケーキは俺の好物なのでこれは外せない。そして、甘いものに合うのはやはりコーヒーだろう。この店特製のコーヒー。

 喫茶店によってコーヒーの味は異なるので、その違いを楽しめるのも喫茶店の良いところだと言える。


 由奈のほうは、ストロベリータルトというこの店の看板商品になっているものを注文していた。かなりのサイズあったはずだけど、食べきれるのかな。そんな心配をしながらも注文し終えたにもかかわらずずっとメニューのストロベリータルトを眺めている由奈を見て自然と笑みを浮かべた。


 このような由奈の姿を見ると毎度思うことだが、由奈の幼馴染で本当に良かった。


 待つこと約十分。

 俺たちの机の上に、注文したものが運ばれてきた。


「わああっ! 凄い! タルトが苺で埋め尽くされてキラキラしてるよ!」

「本当だ、美味しそうだね。早速食べようか」

「うんっ!」


 フォークを手に取り、俺たちはお互いの注文したスイーツを食べ始める。

 このふわふわな触感にクリームの甘さが完璧にマッチしていて、その後に来る苺のわずかな酸味。これがくせになる味をしている。

 とまあ、食レポっぽいものを心の中でしながらショートケーキを味わっていた。


 そして、このコーヒーも苦みが控えめで普段飲まない人でも飲みやすく仕上がっていて、俺は大満足だった。


「んまっ!」


 由奈のほうを見てみると、由奈もストロベリータルトを幸せそうな表情で食べていた。こんな表情で食べてもらえたら作った人嬉しいだろうな。

 そんなことを考えていると、由奈は俺が見ていることに気づいたようだった。


「夕貴、一口あげるよ」

「えっ?」

「はい、あーん」


 これはまさかの展開。

 由奈はフォークですくい取った一口分のストロベリータルトを俺の顔の前に差し出した。恥ずかしい。だけど、拒むことは絶対に出来ない。というか、世界中の全男子はこの状況で拒むことは出来ないだろう。


 俺は差し出された一口分のストロベリータルトを食べた。

 口に入った瞬間苺の甘さが広がっていく感覚。めちゃくちゃ美味い。これは次に来たときは俺も頼んでみよう。


「どう? おいしい?」

「うん、美味しい」

「良かった!」


 だが、俺だけがしてもらうのは申し訳ないだろう。

 俺も自分のショートケーキを一口分、由奈の顔の前に差し出す。


「はい、由奈にもあげるよ。あーん」

「えっ!? わ、私も!?」

「うん」

「あ、あーん」


 由奈は自分がされたことでようやく自分が何をしたのかに気づき、顔が真っ赤になっていた。


「おいしい?」

「うん。凄く……甘い……」


 その後、ちゃんと全部食べきった。よくその細い体にあのサイズのストロベリータルトが入るなぁと俺は感心した。

 今回は由奈へのご褒美なので、俺が由奈の文の代金も支払ってから店を出た。


「本当に良かったの?」

「何が?」

「私の分まで払ってくれたじゃん」

「いいんだよ。由奈の幸せな表情も見れたし」

「どういう意味?」

「由奈の笑顔は代金以上の価値があるってこと」

「っ!? 急に恥ずかしいこと言うじゃん」

「たしかに。そんなことは置いといて、また行こうな」

「うん! 一緒に行こうね」


 俺たちは幸せな気分のまま帰路についた。

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