第2話 お風呂突撃
「気持ちよかった~」
風呂から上がった由奈がバスタオルを体に巻いた状態で出てきた。
着替えてから出てくるものだとばかり思っていた俺は一瞬で反対方向に顔を向けた。
いつもなら着替えてから出てくるのに、今日はなんで着替えてから出てこないんだ!?
もしかして、着替えを持っていくのを忘れたのかな。たぶん、そういうことだろう。
「お湯ためてあるから、ぬるくなる前に入ってね~」
「お、おう」
顔が真っ赤になっている状態の今の俺を見られるわけにはいかないと思い、俺は急いで風呂場へと向かった。
♢
「ふぅ、気持ちいい~」
頭と体を洗い終えた俺は湯船に浸かった。
毎度思うことなのだが、湯船に浸かる瞬間ってその日の疲れが一気に吹き飛ぶような感覚があるんだよな。
それに、風呂場はリラックスするのに最適な場所だからな。
と、そんなことを思っていた俺だったが、実際はリラックスできる場所ではなかったのかもしれない。
「入るよ~」
「っ!?」
なんと由奈が突然風呂場に突入してきたのだ。
大事な部分はバスタオルで隠されているから大丈夫か。いや、全然大丈夫じゃないって! 主に俺の理性が!
慌てふためいているのは俺だけかと思っていたが、少し冷静になって由奈の顔を見てみると、湯気で分かりづらくはなっているが、明らかに顔を赤くしている。
俺をからかうためにそこまで覚悟を決めていたのか。
「ど、どう、かな? ドキドキした?」
恥ずかしそうに俺から視線を外しながら由奈はそう言った。
なんなんだろうこの可愛い生き物。
恥ずかしさが限界に達する寸前なのか由奈は顔を赤くしたままその場から一歩も動かない。
恥ずかしがっている姿さえ、まるで映画のワンシーンのように美しいんだよな。さすがは由奈って感じだ。
このままだと俺も由奈ものぼせてしまう。
そうなってしまう前に早くここから出よう。このままでは俺の理性も保てるか分からないぞ。
だが、由奈が先に出てくれないと俺も出れない。
「もう上がるから先に出れる?」
「う、うん。わかった」
由奈は先に風呂場から出てくれた。
俺は近くに置いてあるバスタオルを手に取り、体に巻いた。
「焦ったなぁ」
そんなことを言いながら風呂場を出た瞬間。
何故か未だにバスタオルを巻いた状態の由奈がそこにいた。さらに、その状態のまま俺の背後に回り込み、抱き着いてきた。
背中に柔らかい感触を感じる。
まずい、このままでは俺の理性が……。
「て、照れてる?」
由奈は俺の耳元で囁いた。
だけど、声色から伝わってくる。
照れているのは由奈も同じだろ。
ここで俺だけが照れていると思われたら、負けた感じがしてちょっと嫌だな。
よし、今度はこっちのターンだ。
俺は軽く由奈のほうに顔を向けてから、囁く。
「由奈も照れてるんじゃない?」
あえて少し色っぽい声色で囁いた。
内心めっちゃ恥ずかしい! だけど、それをバレないように装う。
「…………」
少しすると、由奈が俺から離れた。
だが、何も言ってこない。
振り返って由奈の顔を見て、その原因が分かった。
由奈は下を見ながら手で顔を覆い隠しながら照れているようだった。
今にもプシューと頭から煙が出てきそうなほどに照れているようだった。
「……着替えよっか」
「……う、うん」
俺たちはお互いの部屋で着替えてからリビングに戻った。
由奈は顔を赤くしていたが、多分俺も顔を真っ赤にしていたと思う。だって、ずっと心臓の音が鳴りやまないのだから。
寝る前に体力を消費してしまったような気がする。
思いっきり運動した後のような疲労感だ。
おかしいな。
風呂はリラックスできる時間だと思っていたんだけど。
まあ、こんな時間も結構好きだったりする。
だって、あんなに可愛い由奈の姿を見られるのだから。その分、俺自身も精神的にダメージを負うこともあるんだけどね。
「なんか自分からやっておいて言うことじゃないかもしれないけど、疲れた気がする。精神的に」
「こんなにリラックスできない風呂は初めてだよ」
「あははっ、ごめん~」
「ちょっと楽しかったから良いよ」
「私も心臓爆発寸前までいったけど、楽しかったよ」
先ほどまでは照れて言葉を発せなくなっていた由奈だったが、時間が経つといつも通りの由奈に戻っていた。
「もうこんな時間か」
「そうだね。早く寝ないと起きれなくなっちゃうね」
いつの間にかかなりの時間が過ぎていたようで、すぐに寝なければ寝坊してしまうかもしれないな。
本当はもう少し起きていたかったんだけど、こればかりは仕方ない。
「本当は録画してあるドラマの続きを観たかったけど明日にするかぁ」
「私が出てるやつ?」
「そう。まだ観てなかったからさ」
「ふふっ、いつも見てくれてありがとね」
「由奈の芝居、好きだからね」
俺は今まで由奈が出演した映画やドラマをすべて観ている。それは、由奈が幼馴染だからというだけでなく、単純に由奈の芝居が好きだからだ。
そんなことを考えながら俺は寝る準備をした。
分かっているかもしれないが、さすがに寝室は一緒じゃないからな。
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