テレビでは無愛想な幼馴染の大人気女優が俺の前ではめちゃくちゃデレる。
夜兎ましろ
第1話 幼馴染は大人気女優
学校を終え、帰宅した俺――
そのテレビ番組は、お笑い芸人の人たちが多く出演しているバラエティ番組でゲストには数人の人気女優たちが出演しているようだった。
ほとんどの女優は楽しげな笑顔で常に映っているが、一人だけ他とは違う雰囲気を漂わせていた。
それは、
MCを務めるお笑い芸人が質問を投げかけても不愛想な表情でこくり、と頷くだけ。答えたとしても「はい、そうですね」といった簡単な返答のみ。
それでももう少しちゃんと会話をしたいと思った他の出演者がしつこく彼女に質問を投げかけると、「私に聞くより他の人に聞いてください」と少し怒りの混じった声色で言い放つのだ。
そんな彼女だが、彼女の芝居は圧倒的で、同世代の女優では彼女に敵う者はいないと言われている。それほどまでに素晴らしく引き込まれるような芝居をするのだ。
俺もそんな彼女の芝居が大好きだ。
それに、俺は彼女のことをよく知っている。
どういうことかと言うと――
「たっだいまぁ!!!」
「おう、おかえり」
彼女は、俺の幼馴染で、高校へ進学した約二か月前からどういうわけか一緒に暮らしている。両親によると由奈の要望らしいが。
まあ、由奈と一緒にいる時間は好きだし、楽しいので特に問題はない。
由奈はテレビだと先ほどのように不愛想なのだが、俺の前だとずっと元気で明るいのだ。だからこそ、俺は初めて由奈が出演しているテレビ番組を見た時はその違いに戸惑ったものだ。
「あ、そういえば明日は学校行けるよ~」
「そうなんだ。じゃあ、一緒に行こうか」
「うん!」
由奈は人気女優ということもあって基本的には忙しい。そのため、高校に入学してからの約二か月間、あまり学校には行けていない。
もちろん、仕事が休みの日には学校に行っているのだが、それでもその日数はかなり少ない。
あ、そういえば、今日の仕事が終われば大きい仕事は当分ないから学校に行けるようになりそうって言っていたような気がする。そうだったら、嬉しい。俺は今の生活も十分に満足しているが、由奈と一緒に高校に通えたらもっと楽しいんだろうなぁとよく考えることがあるのだ。
「そういえば、由奈」
「ん?」
「今日の仕事が終わったら当分大きい仕事がないって言ってなかった?」
「そう! そうなんだよ! これで夕貴と一緒に学生生活を謳歌できるよ!」
「俺も楽しみだよ」
「だよねっ! 仕事量減らしてほしいってマネージャーに言って良かったぁ」
どうやらマネージャーに仕事量を減らしたいと頼んでいたようだ。
そういうことだったのか。
たしかに、大きい仕事が一つ終わったとしても由奈ほどの大人気女優ならすぐにまた大きい仕事が入って忙しくなるよな。そうならないために、事前にマネージャーに頼んでいたんだな。
「これからは毎日学校に通えるのか?」
「毎日かどうかは分からないけど、ほぼ毎日通えると思う!」
「そっか。それはよかったよ」
「安心して。仕事よりも夕貴と過ごす時間の方が大切だから! もし、どちらか片方だけを選べって言われたら夕貴を選ぶよ!」
「そ、そっか」
不意にドキッとさせられてしまった。
恐らく狙ってそういう発言をしたわけではないと思うが、俺は時々由奈にドキッとさせられることがある。
俺が由奈との時間を大切にするように、由奈も俺との時間を大切にしてくれていることを知れて俺は少し嬉しい気持ちになった。いや、少しじゃないかもしれないな。
その後、俺と由奈は一緒に夕飯を済ませてから風呂に入る準備を始める。もちろん、一緒に入るわけじゃないよ。
まあ、一緒に入りたい気がないわけではないが。これは、男なら当然思うことなので、仕方のないことだ。
「本当に先に入っていいの?」
「由奈は仕事終わりで疲れてるんだから遠慮しないでいいよ」
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうね~。あ、覗きに来てもいいんだよ?」
「なっ、変なこと言ってないでさっさとは入れよ!」
「あはっ、は~い」
由奈はこういう風に俺のことをからかってくることがよくある。
だが、俺が冗談で「じゃあ、覗こうかな~」と言うと、「えっ、あ、本当に? まだ、心の準備が……」とあからさまに戸惑うのだ。そんな姿も可愛かったりする。
そんな日常の掛け合いをしている時間は本当に楽しい時間だ。
テレビでの由奈しか知らない人たちは、由奈がこんなことをするなんて知らないんだよなぁと思うと、少しばかり優越感を感じる。
これは、幼馴染の特権なんだ。許してくれ。
そんなことを考えながら由奈が風呂を出るまでの間、由奈の出演しているドラマの録画を観ながら待つのだった。
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