第29話

 斬撃の発射スピードが速すぎて剛田では前進が難しくなり、私単体で進むことになった。


 防御全開で進む。エーテルパーフェクトガード吸い取れれば楽だったのになあ。赤い所長からは吸い取れなかった。

 界くんは不思議と立ち位置を変えない。接近すること自体は容易だった。


「界くん」

「よう化け物。やっと俺様の前に来たか」


 端整な顔立ちの界くん。その顔が歪む。


「げっひゃっひゃ。この国へ呼ばれてきたんだが、お前が来るのが遅すぎてうっかり都市一つを皆殺しにしちまったぜ」

「アレはやっぱり界くんの仕業か。逃げる市民を追いかけてまで殺したんだろうね」

「なんだ、説教かぁ。この星を破壊したお前が言える立場じゃねえだろ」

「どうやらそれは違うみたいなのよ。完成した私を引き取りに来た日本銀河帝国軍が、この星に残りたいとぐずっている私と戦闘になったみたいで」

「ほうほう、偽りの記憶をどうも」

「まあそっか。続けるけど、んで、軍が敗北寸前になった際に、エーテル・ナノ・ストライクを星が壊れるくらいに撃ったみたいでね」

「つまらねー嘘だな」

「界くんは騒乱の後作られているから当時の記憶もないしね。作られた記憶だからね」


 界くんが物干し竿を構える。三メートルもある刀、それを軽々と振り回せる、そして炎を自由に操れるのを主体に作られたナノマシン生命体だ。

 魔導がないのでこの国で最新型に改良することも出来ただろう、多分。

 国レベルの集まりなら宇宙へ飛べる力があるし、宇宙へ行けば最新型の技術に触れることが出来る。

 だからここへ来たんだ、界くんは。


 私は多元宇宙バッグから刀を一本取り出し構える。

 そうだ、刀で斬り合いをしようというのだ。


「そうかいそうかい、俺様と斬り合おうってのかい。舐められたもんだ」


 そういって界くんは私の方へステップイン。

 次の瞬間には刀ごとあたしは横にスライスされていた。


 ほぼ見えない。


 瞬時にナノマシンを放出して身体を保つ。

 意識が残らなかった方の身体は崩れてさらさらの砂になる。


「げひゃひゃ。敵わねえよ、敵うもんか。俺様の物干し竿は何でも切れる」


 そんなことを言っている間に刀にあたしのナノマシンを通して修復する。


「そんな一時しのぎで俺様の一撃が耐えられるわけないだろ! ――切れ、ない、だと」


 そう、あたしのナノマシン部分の刀は切れなかった。


「どうしたの、切れるんじゃなかったの?」

「うるせぇ! おらおらおらぁ!」


 でたらめな量の剣閃が飛んでくる。

 ただ、切れない。


「どうなってるんだ貴様の刀! 物干し竿に切れないものはないんだ!」

「ネタばらしすると、あたし自身が操れる超密度のナノマシン、それが刀を形成しているから物干し竿より密度が高いのよ。その状態でナノマシン魔導融合装甲球の硬さにすれば、まあ切れないんじゃない? 防御一辺倒だけど」

「俺の物干し竿を舐めるなあ!」


 界くんの猛攻撃が始まる

 致命傷を防ぐのに精一杯で、身体がどんどん切り取られていく。そのたびに修復する。

 でも、死なない。身体が保持できなくなるまで粉みじんになることはない。

 いや、粉みじんになっても復活するだろう。

 それくらいの域に達しているのだ、あたしの能力は。


「おかしいねえ、あたしまだ死んでないよ」

「もうすぐ殺してやるよ!」


 物干し竿を振り回す界くん。あたしはもう一本刀を取り出して二刀流にして振り回す。

 そうやって刀を合わせていると――。


 ――ポキリと、物干し竿が折れた。


「な、なんだと」

「まあね、あたしの刀はいくらでも補充できるから折れないけど、物干し竿はそれができないもんね。これだけ高速高威力で刀を合わせていたらいつかは疲労骨折して折れるよ」

「まだ半分しか折れてねえ。こっちの方がやりやすいくらいだ!」


 完全に血に頭が昇っていて、炎を使いながら攻撃するという選択肢がない界くん。ざぁこざぁこ。

 しかしもの凄い勢いで刀を振り回す。切り取られる量が多くなる。


「姐御!」


 剛田が割って入ってくる。


「界殿のには悪いが白兵戦はあっしの方が得意なんですぜ!」


 そういって暴れ始める。私のナノマシンが詰まった刀を一本借りてね。


「おらおらおらおらぁ!」

「くそ、なんだこいつは!?」

「世界最強の白兵戦ロボットだよ」


 剛田の方が数段速い剣さばき。

 界くんも地獄の業火を発射しているが絶対拒絶結界こっちくんにゃを破れない。

 後退していく界くん。あとはもう少しちりばめれば。


「糞、こんなはずでは」


 大きく飛び退いて戦場から逃れようとする界くん。

 悪手だ。


「逃がすかぁ!」


 剛田の飛び込みで一気に距離を詰められる。

 後退する界くんと突っ込む剛田では刀の勢いが違う。


 物干し竿は根元からポッキリ折れた。


「姐御!」

「準備は出来ている。フェムトワイヤー」


 するすると剛田の刀から見えない糸が飛び出して界くんを縛る。

 剛田の刀が折れなかったのはフェムトワイヤーで常にナノマシンを供給していたからなのだ。ごめんね、チートしちゃって。


「な、なんだ?」

「致命的なミスを犯したな。さーて、ここからはあたしの番だ。一気に終わらせるんだけどね」

「こんな拘束、燃やしてやらぁ!」


 自分の全身を燃やしてフェムトワイヤーを燃やし尽くそうとする界くん。

 ごめんな、それもあたしの一部だから燃やせねえんだ。界くんの火力じゃ無理なんだ。


「くそ! くそ! くそ! お前を殺すために生まれてきたのに、お前が俺様を圧倒してるじゃねえか!」

「まあなあ。再起動してからずっと成長し続けたしなあ。でも、界くんの装甲は今のところあたしじゃ破れないんだよ」


 界くんはくっくっくと笑い。


「じゃあどうするんだよ、この状況。俺様の最大火力ならこの国くらいなら焼き尽くせるぜ」

「脅してるつもり? じゃあ始めますか。最後の儀式を」


 あたしは界くんを横に転がし、そこにまたがる。


「そして、砂になったあたしよ、来い!」


 すると、切り刻まれて砂になったあたしのナノマシンが集まって、あたしたちをぴったりと覆うドームになった。


「何をするつもりだ」

「消え去って貰おうかなって。真っ黒の全方位バリアフル展開。さっさと終わらせるから」

「だから何するんだよ! 俺様は無敵なんだぞ!」


「だめにゃああああ!! それはやっちゃ駄目にゃああああ!!」


 何をするか察した桜ちゃんが止めに入る。ごめんな、これしか方法がないんだ。

 センサーで界くんのナノマシン的弱点は見抜いてある。そこに手を添える。


「いくよー! エーテル! ナノ! ストライク! みんなごめん!」


 ドーム内部が緑色の光に包まれる。

 光とともに崩れていくナノマシンたち。もちろん、界くんもあたしも。

 ドームは真っ黒の全方位バリアは時間稼ぎ。撃ち終わるまで光を外に出しちゃいけない。

 どんどん崩れていく。


「ふざけんな、ふざけんな、砂になっていく。こんな終わり方あってたまるか」

「まあ、私を処分するという目的は達成するんだ。それでいいじゃないか」

「お前を壊して俺様が世界を制するはずが。くそおおお……ぉぉ……ぉ……」


 界くんはもだえ苦しんだあと砂になった。

 これで死んだ人たちのカタキはとれたかな。

 あたしも砂になっていく。エーテル・ナノ・ストライクは発動したらなかなか止まらないんだよね。

 あと二人刺客がいるけど、あたしが砂になれば使命も終わって宇宙に帰るんじゃなかろうか。

 なんか日本銀河帝国の刺客っぽかったし。界くんは最高の戦闘ナノマシン生命体だったしなあ。

 戦闘できないナノマシン生命体じゃあ剛田が処分できるっしょ。


 もうすぐ終わる。あたしが全て消えちゃうと全方位バリアが消えちゃうから光が外に漏れる。

 おいなりさま、願わくばエーテル・ナノ・ストライクが終わるまではあたしを生かしてください。


 ――桜ちゃんに光を当てずに、あたしは砂になれた。

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