第26話

 界くんを壊すことになっても、やることは一つ。

 そう、お金稼ぎである。


 お金稼ぎと言ってもやることはいつも通り。

 あたしが下層地区の警備隊長になったくらいかな。一般人には危険な仕事なだけあって儲かる。

 まあみんながやってるのは日々の暮らしの維持。

 お金稼ぎはあれっすよ、あれ。

 メ・イ・ス(音符)

 まだまだ持ってるからね。上級層に販売するのよ。最初は安くしておいてだんだんと高くしてね。


「合成麻薬は脳内汚染が酷すぎて強い性能のブツはないみたいだし。あたしのはナノマシン溶液が最後に脳内を洗い流すから強くても依存性は低い。うしし、売るぞ売るぞ」


 儲かるー。特にこのシティは麻薬が普通に販売されているので、犯罪でもなくあたしも販売できる。

 やっぱり一番強力なのはあたしのだと思う。この星のナノマシン生命体は性能が制限されている。

 あたしのナノマシン溶液を混ぜたメイスを超えるブツを作るのは、不可能でしょう。


 ゆうて個人で売るのは限界があるので、麻薬製造販売会社にメイスを全部売却。

 在庫を売るだけなのでさほど高額にはならなかったけど、それでも困らないほどのゼニを入手。

 軍事シティであるウェイサム。そこにあるハレルヤの地下工場で、効率の良い旋回機構を購入することが出来るでっしゃろ。

 さくっと行って帰ってぬるぬるの旋回機構をゲット。魔導を使うんだってさ。銀さんもナノマシン魔導機械だからね。通常時でも魔導使ってるもんね。


「これで剛田さんにも弾が当たります! やったー!」

「剛田並みの機動が出来るやつもそんなにいないけどね。さってフィニッシャーにも界くんの情報は無いみたいだし次のシティ行きますか」


 あ。ナノマシンの泉にダイブすること忘れてた。行こう行こう。

 シティの中心部にある地下の池、地底湖がナノマシンの泉になっているそうな。

 見学できるので見学通路を通って地下へと降りる。


「おおー、広大な泉がある。え、泉で泳げるって書いてあるよ」


 ならさっそくと泉へ入ろうとして入浴税を取られる。このシティは超高級シティなので入浴税も高い。今日はモヤスン料理を食べる羽目になりそうだ。

 そして辺りを眺める。整備されていて泉というよりはプールという感じがするね。泉の温度は大体どこも三十五度くらい、ノンビリするには最適だ。

 などと考えながら入浴。ナノマシン溶液で水着を作り、着替えてざっぱーんと飛び込む! 飛び込むなと怒られた。ションボリ。


「はぁ……。やっぱ泉は良いね。全てが修復されていく感覚があるよ。あと、一体化感が凄い。この泉はあたし、あたしは泉」


 ぽけーと浮かんでいたが、はっとして排水口のある方へと泳いでいく。

 あたしはナノマシンを相当使い込んでいたからかなり黒い汚れが出るはずだ、ここには普通にプールとして楽しんでいる人もいる。

 黒い汚れを垂れ流すのはまずいだろう。下流の方で処分しなければ。

 下流に行くと案の定黒いナノマシンが放出され始める。危ないところだった。

 さあて、ぽけーっとしますか。


「ぽけー」


 ばしゃばしゃと似合わないビキニを着た人が泳いでくる。君はおこちゃまワンピースの方が似合うんだよ。


「水着似合ってないよ」

「接近して一言めがそれ!? 私にほかにいうことはないの?」

「よくぞ泉の中までこれたね。くらい?」

「こんこんさまと分離したし、私も少しはナノマシンとして成長するのよ。それよりビッグニュースが届いたわよ」

「なんすか」


 桜ちゃんはすーっと息を吸って静かに話す。


「フィニッシャーからの情報によると、この先の国家『バルサラサム』で、極めて珍しい軍服を着たナノマシン生命体を見かけたらしいわよ。今の時代の軍服じゃないそう。多分かなり古い――」

「――日本銀河帝国製の軍服、つまりそれを再現できるのは界くんってことか。泉から出たらすぐに行ってみよう」


 一日二日遅れたところでどうにもならないので泉には数日浸かったよ。

 思ったけど、このシティは内部から砂漠の砂、つまり死んだナノマシンを再起動しているようだ。

 これなら生き返ったナノマシンが風で飛ぶこともないし、色々と捗るのかもしれない。

 日本銀河帝国も試行錯誤してるね。


「さて、元気になったし行きますか、バルサラサムへ」

「今まで旅して国家って初めてだにゃ。どんなどころなんだろにゃ」

「どーなんだろねえ。さあ、銀さん。航空機形態になってぴゅぴゅっと」

「や」


 拒否られたでござる。


「そういわずにー。空の方が速く着くしさ」

「いやです。私は車なんです」

「うるせーお前はナノマシン魔導機械だるぉ! 車でも航空機でも関係ねぇんだよ!」

「いやなもんはいやなんです!」


 むきー!


「ならば融合して無理やりにでも」

「落ち着くにゃバカ太郎。銀さんが嫌って言っているんだから空の選択肢はないんだにゃ」

「でもでも空の方が全てにおいて上回っているし」

「地上の旅も風情があっていいにゃ。ほらほら、銀さんに乗り込むんだにゃ。歩兵戦闘車になって待っているにゃ。これだって時速六百キロメートルは出るんだにゃ」

「空は時速二千キロは出るんですけどね……。まあいいか! んじゃあ乗り込んで出発しよう! いくぞ銀さん!」

「まいりましょう! 地上なら任せてください!」


 さあいかんバルサラサムへ!


「って、道が繋がっていにゃいんだけど、どこに向かえば良いのかにゃ」

「偵察ドローン出すよ。上空から見ればきっと道くらいは発見できるでしょう」


 そんなわけであたしだけ異次元空間から外に出て、偵察ドローンを飛ばす体制に移る。


「バカを動かすのは楽ちんにゃー」


 なんて言葉が後ろから聞こえてきたんだが。

 録音してあるし、あとで尻尾むしろう。

 最近わかったけど、本当にくっついているわけじゃないからとれるんだ。

 妖術ってすげぇな。

 でもあの尻尾こんこんさまの尻尾だよね。原理どうなっているんだろう。

 妖術ってすげえな。

 二万機の偵察ドローンを空高く上昇させ、ぶわっと飛び散らせていく。

 やり過ぎと桜ちゃん、いいえ、バカにゃ太郎に言われたけど、今のあたしなら二億二兆はどんなドローンでも展開できるからね。

 ナノマシンの泉はナノマシンを吸収するとともに力を上昇してくれる。

「お。見つけたらしい。ここから北北東だそうだ。それでは北北東に進路を取れ!」


 砂を蹴りながら銀さんが進んでいく。本当にさらさらしている砂なのでタイヤじゃ進めない。履帯じゃないとね。

 銀さんいなかったらここまでたどり着けなかっただろうなあ。


 異次元空間の中で桜ちゃんを捕まえる。逃げようとジタバタしているが身長差で足が届かない。か、かわいい……。


「さーて、さっき暴言吐いたきつねをお仕置きしようかなー」

「し、しらないにゃ! そのきつねはなんていったのかなー?」


 録音したデータを流して追い込む。


「この声を解析したところ、桜バカ太郎の声と結果が出ました」

「バカ太郎はにゃじゃなくて完ちゃんのほうだにゃ」

「んにゃろてめぇ」

「はにゃにゃにゃ、尻尾抜いちゃらめぇ……」


 この後一般ナノマシン生命体になった桜ちゃんに懇々こんこんと説法を説いたのでした。


 さて、道も見つかったし次の冒険に向かいましょうかね。界くん、待っててよ。

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