第25話

 爆破した研究所の近くで、砂漠に座ってお茶を飲んでいる。桜とともに。


「はあ、砂漠にお茶は似合うですのう桜さんや」

「全然似合わないのにゃ」


 砂漠の砂を調べたところ、ナノマシンの残骸らしき物体であることが推測された。

 多分あの映像は本物で、エーテル・ナノ・ストライクでこの星に浮かんでいたナノマシンを全て焼き払ったんだろう。

 焼き払えるんだろう、暴走したあたしのエーテル・ナノ・ストライクは。


「なあ桜さんや」

「にゃ」

「この砂漠はあたしが作ったんだろう? 空中にあったナノマシンが死骸となって砂と化したんだ」

「なんか見たのね」


 気がつくと桜さんは三本尻尾で耳の大きな、大人の狐女性と変化していた。袴姿で綺麗。


「あらお綺麗。記憶にはないけど心にはあるかもしれない」

「それなら私の行為は無駄にならなかったってことね。私はこの世最強の妖怪『おいなりさん』の眷属なのよ」

「へえ、それは知らなかった。じゃあ初号機じゃないのかい。ナノマシン生命体じゃないのかい」

「ごめんなさいね、ナノマシン生命体じゃないわ。普段は化けているからほとんどナノマシン生命体だけども」

「そっか」

「これから私が見た事実を話すわね」


 そしてお話が続く。


「まずは映像を見させて貰うね。改ざんされている物かもしれないし」


 そういって私と手をつなぐ。ど、ドキドキする。

 そして、すいーっとなにかが流れる感覚がした。


「なんか吸い取った?」

「妖術でちょろっと映像をコピーしただけ。妖術に気がつくなんて本当に成長したね」

「うっす」

「ふーん、だいぶ改ざんさせているなあ。悪魔の子なんて誰も思ってないよ、百年前の大騒ぎの時はそんなの伝わる余裕なかったし」


 百年前の酷い戦争ってのはあたしが暴れた戦争ってことか。

 桜さんの映像解析は続く。


「暴走した理由は多人格にさせようといじったから。人格を増やしてそれぞれを分離、あなたを増やそうとしたのよ。でも実験は失敗。人格を入れまくられたあなたは自分を制御できなくなって暴走したの」

「それは、暴走するかも……」

「軍が出てきたのは本当だね。でもボッコボコにはしてない。軍との衝突で疲弊している。当時、あなたはそこまで強くなかった。今ならボコれるけど」

「じゃあなんでエーテル・ナノ・ストライクを? 負けが見えたから自爆?」

「エーテル・ナノ・ストライクはって言うようにナノマシンに干渉する技なの。それを最大威力でぶっぱして、この星の環境を破壊するとともに完ちゃんも力尽きた。亡骸に近いからだを残してね」

「そして倒れたあたしは拘束されてあの研究所に?」

「まあそうなるかな。極めて弱体していたけどエーテル・ナノ・ストライクをも耐えきったからね。軍は開発を放棄。完全に固めて永久凍結のはずだったよ。でもゆっくりとナノマシンを吸収していてね」

「拘束を破れるほどに強くなったあたしが自動起動したと」


 うんうんと頷く桜さん。


「拘束され、永久凍結されたときに私が呼ばれて、軍の管理下に完全に置けるように脳部分をいじってほしいと頼まれたってわけ」

「ほう。全然そんな感じはしませんでしたが」

「私は妖怪アキだからね。報酬の惑星GAGA産おあげさん一千年分を貰ったらやりたいようにやるのよ。オホホ」

「なるほど。本名はアキちゃんか。今の性格にしてくれたのはア――桜ちゃんってこと?」

「そうよ。百年かけて置き換えたわ。でも基本はほとんど変えていないわ。性格を見てみたら、あなたは花が好きな優しい性格だったんだもの」

「――さてどうしようかな。なにを信じれば良いんだろう。このまま桜さんの操り人形になったりして。きゃー」

「あてくし実はレズでございまして」


 ぽか。嘘おっしゃい。


「そういや界くんたちってなんで作られたの?」

「そりゃあ、時間稼ぎ。永久凍結が仮に破られたときに研究所で戦って軍がエーテル・ナノ・ストライクを再度放つための時間稼ぎよ。エーテル・ナノ・ストライク撃ったらみんな死んじゃうけどね」

「捨て駒か……。あたしはみんなと仲良くしたいけど。そういやなんであたしが復活したときに逃げだしたんだろう」

「完ちゃんが百年くらいで復活するってわかったときにもう逃げていたのよ。強化して時間稼ぎをするためにね。百年も開発期間があればだいぶ強化できる」

「そうなんだ。あたしの記憶通り仲良くなれないものかね」

「仲良くしたくても完ちゃんを殺すようにプログラムされているからどうだろう。みんなはコンセプトは違えど完成品だし」

「あたしが失敗作みたいなこと言うなっ」


 ぽか。


 さて銀さんたちと合流しようとしたら、まじもんの模擬戦を銀さんと剛田でしてた。


「魔導ガトリング!」


 銀さんの四十ミリ魔導ガトリング砲が青いエネルギーに包まれて飛んで行く。


「はぁぁぁぁ! 魔導バリア!」


 剛田がなぜか魔導を使い、バリアを形成。お前いつ魔導存在になった。


「魔導強度上昇! バリアを打ち抜く!」


 銀さんの青いエネルギーがさらに光り、ガトリング砲の衝突エネルギーを強化する!


「戦闘機動開始! 多元宇宙エンジンを甘く見ちゃいけやせんぜ!」

「うぇーん私は多元宇宙エンジンじゃないんですよー」


 エンジンの自慢をしながらガトリング砲を避け銀さんに近付いていく!

 銀さんは急速バック! 時速四百キロメートルだ!

 剛田はブースト全開で追いすがる。お前にそこまでの推力与えていたっけ。


「「ええーい!」」


 両者がぶつかり、剛田パンチで砲塔を曲げられた銀さんの敗北となった。


「うぇーん、どうせ私はただの移動車なんです、うぇーん」

「そんなことありやせんぜ、銀さん。攻撃も出来る移動車はなんと心強いかわかりやすか」

「お二人ともお疲れ。ケガは桜ちゃんがリジェネートで治すから。銀さんも火力パワーアップだねえ。長砲身五十ミリ魔導ガトリングと車長席上部砲に三十ミリ魔導重機関銃でも付けるか。今の武装がどれも剛田に当たらないのはちょっと厳しいでしょ」

「うーん、武装より旋回力が足りない感じですね。火器管制システムの更新がしたいです」

「まあ、あっしがかなり速くなったってのはありやすね」


 本当そうだ、んでお前どこで魔導存在になったんだよ。


「銀さんのシールドドリル機械に巻き込まれたので、本気でリジェネートしたからその時ににゃの魔導が移ったかもしれないにゃ……機械の魂であるエンジンもかなりぶっ壊れていたから……」

「いやー魔導って凄いっすね! 原理はわからないけど強力なバリアとか威力アップとか推力向上とか出来るっす! これなら姐さんに背中に乗って貰ってリジェネートかけ続けながら最前線で戦うことも出来そうっす!」

「いや、剛田よ、ウチら戦争しにいくわけじゃないから。そういやあたし魔導使ったことってあったっけかな……」

「にゃのましんの魔導はエーテルだにゃ。使いまくってる上に史上最強のエーテル力を持ってるにゃ」


 にゃのましん、どんな生命体なんだろう。尻尾とか付いているのかな。桜ちゃんみたいな見た目なのかな。


「ゴホン。この星でののましん生命体と同じく魔導生命体の研究は中止されたけど、軍は他の星で研究を継続しているはずにゃ。界くんも他の機体も軍の関係者。最新型のはずにゃ」

「壊すしかないのかねえ」

「説得して完ちゃんを殺さないようには出来るかもしれないけど、難しいかにゃあ」

「壊すしか、ないのか――」

「完ちゃんの記憶の中の二から四号機は、改ざんされた記憶でしかにゃいからね。相手は完ちゃんと戦うことしか望んでないのにゃ」


 ――壊すしかない。

 合流してお互い助け合うつもりだったのに、見つけ出して破壊する旅になってしまった。

 あたしはそんなの望んでなかった。望んでなかったのに――。


 捨て駒たちは私の身体をベースに量産型を作ることは出来るようになるみたい。

 二号機のかいくん。

 三号機のいやしちゃん。

 四号機のどうさん。

 みんな捨て駒で、軍の関係者で、ナノマシン魔導生命体じゃなくて、あたしの研究仲間というのは改ざんされていた記憶ということなのか――。


「まぁ、まずはお金稼ぎかな。ゲイスサムシティでお金稼ぎをしましょう」

「なんか常にお金稼いでいる気がするにゃ」

「お金が無いと何にも出来ないからね。地獄の沙汰も金次第ってやつ」

「お、地球由来の熟語だにゃ。一応日本銀河帝国所属の完ちゃんなだけあるにゃあ」


 この近くにいるのは界くんでしょう。近接特化で俺様が口癖だったからね。量産型赤いやつはみんな近接特化で俺様って言ってた。

 まずは界くんか。

 見つけ出して破壊するのは。壊す、のは。

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