第24話

 剛田が走り去るのを背後に感じながら、赤い所長と相対する。

 相手は二刀流の刀、こっちは全方位バリアだ。

 いやだって、この司令部のセキュリティ潰してないから遠距離攻撃が飛んでくるんだもん。

 身を守るのが先決ってもんよ。

 アタックドローンを無限増殖させ、一瞬だけ全方位バリアを解除しセキュリティへ飛ばしていく。

 その一瞬を付いて赤い所長が突っ込んでくる。ただし距離があるためあたしのレールガンで勢いをそがれる。


「セキュリティは全て破壊、っと。少し前向きに行かせてもらうよ」

「製造限界を超え、界のデータも取り込んだ私には勝てない」


 界くんは二号機で接近戦の天才。いつも刀で暴れてたな。

 接近戦が得意ならその間合いから離れれば良いじゃない(マリー)って思うけど、むちゃくちゃな勢いのダッシュで距離を一瞬で詰められる。

 中距離までなら彼の間合いだ。

 模擬戦ではどうやって勝っていたっけかな……。


「とりあえずレールガンとアタックドローンで牽制しとこ。界くんのデータがあっても実際の戦闘で動いてみないと修正はできないもんね」


 当たっても痛くは無いだろうが猛爆撃で動きを封じる。さてこの後どうしようか。


「左手を六十ミリレールガンに変身させてっと……うてぇい!!」


 変身で今のところ空いている左手を生体レールガンの形にさせ、射撃していく。

 右手のおやっさんが作ったレールガン――をナノマシンで模したやつ――ではなくて、腕そのものを変身させ大口径レールガンとしたものなので大火力だ。腕自体も長くしてある。

 これでなんとか押せるかと思ったところ、エーテルガトリングが飛んできた。このガトリングは航空機関砲に使われるようなガトリングなので、エーテルマシンガンより銃弾火力が圧倒的に高い。

 マシンガンは人が保持するけど、ガトリングは機械が保持するからね、撃てる銃弾が全然違うのよ。


 少し身体を吹き飛ばされたがすぐに再生し、インスタントバリアでピンポイント防御をする。全方位バリアやエーテルシールドだと、当たって減らされるエーテル量がかなり多くて、エーテル量残存競争で負けを喫する。


「くっそー、そうだよな。赤いやつは最初の時点でエーテルは全部使えるって話しだったもんな。エーテルガトリングは障害物に隠れても簡単に貫通してくるし、こっちのエーテルは防御しかないし」


 大体五十メートルくらいの距離で打ち合っているから双方ともに着弾は一瞬である。

 一瞬のうちに弾道予測してエーテル展開して防御をしているのだ。まあ、刹那レベル――ここでの刹那は国際宇宙単位系でのお話で、十のマイナス十八乗だよ! 〇.〇〇〇 〇〇〇 〇〇〇 〇〇〇 〇〇〇 〇〇一秒! ちなみに一瞬は〇.〇〇一秒くらいかなあ、曖昧。――でもこれくらいは出来るからお互い余裕なんだけど。

 相手側にもエーテルをセンサーで感じ取っているからエーテル防御はしていると思うけど、左腕の六十ミリナノマシンレールガンをエーテルで防御している節はない。

 どうなってるんだ?


「センサードローン展開! 走査開始!」


 センサードローンを肩から数機発進させる。あたしの性能そのままというわけではないけど、センサーの補助をしてくれる頼もしいドローンだ。


「あー。六十ミリレールガンは刀で切ってるのか。弾が爆発しないし連射力ないもんな。アタックドローンと通常レールガンはエーテル防御してるからエーテル量残存競争では有利かな。破壊力はうちの方が上だ」


 さすがに研究だけじゃ私を超えることは出来なかったか。界くんのデータが混ざっているとはいえね。

 問題はこの後近接戦闘が待っているだろうということ。

 エーテル版の絶対拒絶結界である、エーテルパーフェクトガードを持っているだろうし、突っ込んでくるのは目に見えている。


「――来たっ!」


 撃ち合いでなにかをする選択をとらず、エーテル量で負けるとわかってすぐに赤い所長はこちらに突っ込んできた。

 やはりエーテルパーフェクトガードを身に纏っての突進だ。これを身に纏うとほぼ全ての攻撃を無効化する。

 せめてエーテル量を減らさなくては。

 エーテルパーフェクトガードを出している間は刀を使うことは出来ない。

 ということは――。


「先制攻撃が出来るんだよなあ! オラァ!」


 グラビディを使ってのめちゃくちゃ重い左ストレートをぶちかます。

 もちろんエーテルパーフェクトガードに阻まれるんだけど、別にかまわない。逆に狙いはそこ。


「なんて威力。エーテルパーフェクトガードが消滅した」

「もうエーテルが無い証拠だね。こっちはたんまりとあるよ」


 そして激しい白兵戦が始まる。

 リーチも破壊力も切れ味もなにもかもが相手の方が上。

 切り結んではあたしの方がバッサリ切られるということを繰り返す。

 そのたびに負傷してるわけだから修復するためにナノマシン残量を消費する。


「不毛じゃないですか、さっさと全身を切られて溶けてしまってはいかがですか」

「あんまり不毛でもないんだよね。近距離アタックドローンは避けられないみたいだし、なにより」


 あたしは糸をピンと張る。全く身動きが出来なくなる赤い所長。糸に縛られたのだ。


「な、これは、ナノワイヤー。そんな、この程度知覚できるはずなのに」

「ナノは十のマイナス九乗。ただ、この糸は十のマイナス十五乗、つまり国際宇宙単位系でいうところのフェムト。フェムトワイヤーだ。中性子に近い太さのワイヤーなんて知覚することは出来ないね。あたしが最初におやっさんに取り付けて貰ってずっと改良してきたナノワイヤー。今はここまで細くできるんだよ」

「私達だってナノワイヤーは持っているのに。細くすることなんて」

「元々は外部武器だ。データだけじゃ改造なんて出来ない。じゃあこの刀は貰っていくよ。手首を切り取らせて貰おう」


 あたしはフェムトワイヤーを手首に巻き付けてワイヤーを引く。ナノワイヤーより簡単に切れ、手首がすっと落ちる。刀を拾って右手の多元宇宙バッグにしまう。


「あとは爆破装置を起動される前にデータを持ち去って、あなたを消滅させるだけか」

「そうね、そうしなさいよ」


 赤い所長が大きい笑みをこぼす。気持ち悪いほどに。


「なにか狙ってる……。まあいい、データは重要。界くんと合流するためにも」


 司令室のパネルをポンポンと動かしデータ移管のためのPDAポイントが出てくる。それをPDAネットワーク経由で接続し、データを移管する。


「な、なんだこれは」

「史実よ、悪魔の子。百年前の戦争はあなたが起こしたのよ。全ての土地を焼き払って」


 司令室のデータには大量の研究データとともに、あたしであろうナノマシンがこの星の軍事部隊に戦争を仕掛け、ことごとく破壊し、最後には桜ちゃんを斬り殺し、エーテル・ナノ・ストライクで世界を破壊する映像が残っていた。

 データの名前は「初号機が暴走した記録」となっている。

 なんだこれは。

 なんだこれは。

 ナンダコレハ。


「あたしは、百年前におきていた……? 暴走した……? 初号機……? 完成機の五号機なのでは……?」

「うふふふ、それが真実。あなたは悪魔の子。私達はあなたを破壊するための正義の機関なの」


 酷く歪んだ笑みをこぼす赤い所長。

 お前は邪魔だ。


「お前には何の価値もなさそうだ。消えろ」


 そういって手を触手のように伸ばし胸のあたりに突き刺す。

 あたしと同じ身体だからさ、豊かな胸辺りに突き刺す方が速く吸収できるのよ。

 四号機はそういうことできなかった記憶があるなあ。ナイナイは大変だ。三号機は豊満すぎてさ……。アリスギも大変だ。

 赤い所長のナノマシンを吸収した後、グラビディを応用して赤い所長の残りかすをマイクロブラックホールが出来るまで圧縮し、蒸発させて無に帰す。

 これで赤いやつとは永久にさよならだ。長い戦いだったな。

 自爆装置が起動したので急いで帰ろうとしたら銀さんがダブルドリルの機械で飛び込んできた。


「助けに来ました! 作業は終わってますか? 早く乗り込んでください!」

「作業は終わってるけど、そんな機械あったっけ?」

「トンネル採掘のシールドマシンの応用です! それじゃあ拾っちゃいますね。びゅーん」


 アームで掴まれて異次元空間の中にぐいっと押し込まれる。中には剛田と青い顔の桜ちゃんがいた。


「やっほう、ただいま」

「お帰りっす姉御!」

「おかえりにゃ……」


 この反応、桜ちゃんはなにか知っている。映像にあった斬り殺した桜ちゃんも出来れば問いただしたい。

 でも今は。


「ちょっといろんなことがあったので整理するために寝るね。桜ちゃん、ここ空いてるよ」

「嫌にゃ」

「いいじゃん抱きついて寝かせてよ。センチワイヤーでーそれー」

「触手ワイヤーずるすぎるのにゃあぁぁぁぁぁ」


 桜ちゃんを抱いてもふもふしながら寝ましたとさ。


 過去は過去、今は今! って思いたい。

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