第17話

 軍事シティ「ウェイサム」へ到着。

 町の中心部にそれはそれは巨大な工場が見える。あれもきっと数百年動き続けているのだろう。

 シティのゲートへと進む。ゲートがあるなんて厳重な管理なんだねえ。

 ゲートには入ってすぐのサイドにゲート管理人? ゲートサイド? がいて、奥の方に向けて道がある。

 ゲートの両側には金網で壁が作られており、肩トゲパッドで手首トゲ手首。マッスルマッスルな連中が、ずらりと銃をこちらに向けていた。

 銃を向けているなら撃ち返してよしなのが銃社会ってもん。撃ち殺す? どうする?


「あい、何でも良いからよこしな」


 ゲートにいるおねいさんがそう言葉をかけてくる。撃ち殺すのは後にした。


「え、なんです? 初めてここに来たのでちょっとわかりません」

「麻薬だよ、ヤク! お前ここにションベンするために寄ったんじゃないよな」

「あー、えーと、麻薬ですか、麻薬」

「左に見える丘を越えた先に麻薬の素が栽培されてるからとって来な!」


 といって向かわされた。


 左に見える丘を越えた先は草原だった!


「凄いねえ。砂漠に草原だよ」

「でも完ちゃん、これってメイスになる植物にゃよね」

「あ、そうだね、センサーがそう告げてる。ナノマシン溶液に浸かったからか、あたしの機能もだいぶ良くなってるからわかるよ」


 メイスっていうのは中くらいの強さに相当する薬物である。頭をぶん殴られたような衝撃が来るからメイス。

 その後ベロンベロンに酩酊するらしい。

 らしいってのは、使用したことがないからだけど。使っても効かないけど、ナノマシンは汚れる。意味がないじゃん、それ。

 意味があってもヤクは使う気になれない。使って身を滅ぼすものを沢山見てきたからね。


「メイスの植物は砂漠に耐える生命力なんだね。採取だけしようか。銀さーん」


 銀さんに植物採取車になってもらい、一気に収穫していく。

 一瞬で草原がハゲたが根は取らないからまた生えてくるだろう。

 ナノマシン溶液の肥料シャワーもかけてきたしバッチリ。


 次に銀さんに化学実験室車になってもらい、精製していく。

 草よりこっちの方が手間が省けていいだろう。

 ちゃーんとナノマシン溶液を含んだ精製水を使って精製した。うひひ。


 銀さんには七十五トン級巨大歩兵戦闘車になってもらい、ゲートに近付く。


「ちゃーっす、薬草取ってきましたー」

「な、なんだこの戦車はよ!? お前何やったんだ!?」

「あー、うちの車ナノマシン魔導機械なんですよー」


 間延びした口調で話す。舐めてるんだがわかるかな。


「お薬は精製して細かくビニールに詰めておきましたー。使ってみますー?」

「よ、よこしな!」


 ビニールを開け、ピーをピーしてパーしてからニャオンニャオンしたところにごっつぁんです――使用方法は秘密です――をするお姉さん。


「ああああ! なんだ、こ、の。ぱ――ぱわあ、。はぁぁぁ……」


 意識を失ったかな。


「おーい、ゲートの用心棒。これはあれか、ゲートを突破して突っ込んで良いってことか? それとも一戦やるつもりか? 未だに銃で狙ってるもんな」

「い、いますぐにゲート解除をしにいく! ちょっと待ってくれ!」


 へえ、金網の間からゲートサイドまで走れるんだ。さっさとやれよなあ。

 無事に通ってよしとされたんだけど、銀さんがさ、ゲートを通れるか微妙なんだよね。

 壊すのもあれなんで、三トントラックになって通過。しんぷるー。


 内部なんですけど、なんかこう、サイバーパンクって言うのかな、そんな光景が広がっていました。

 ゲートくぐってすぐはホームレス地域と無法地域がおり混ざっているような所。

 公衆という概念もないのかちょっと奥でアンアン言っている、音が聞こえる。実際に行けるかっつーの。

 セクサロイドの陳腐な音で、犯罪臭はないって思うし。


 こりゃヤバいなと思って銀さんを七十五トン級巨大歩兵戦闘車に。誰も近付かせない。

 ちなみに桜ちゃんの魔導は使っていない。ここ治安悪すぎて桜ちゃんを出したくない。

 桜ちゃんをだすのは、もうちょっと治安のよい場所に行ってから。


 そういや剛田を出してなかったな。半径二メートルの治安維持をするためにも出てきてもらおう。


「おーい、剛田」


 無言。反応無し。

 あれ?


「剛田ー?」

【剛田は寝てるにゃ。銀さんも剛田も、ナノマシン溶液に浸かったことで寝るということを覚えたみたいだにゃ】

【何のために?】

【銀さんはナノマシンの効率的な採取。剛田は知らないにゃ】


 そうかそうか、サボってるわけか。

【剛田ー!!】


 できる限りの大声で叫ぶ、PDAネットワーク内部だけど


【ねてんじゃねー!】

【は、はい! 寝てないっす! その、あの】

【なんだ言ってみろ】

【PDAチャットが楽しすぎて、その、あの】

【あれ楽しいか?】

【楽しいっす! なんせ二百年ぼーっと動いてなかったっすからね、話すのに飢えていたのかもしれないっす!】

【そっか。まあ仕事だ、ちょっと出てきてくれ。銀さんも変形中だしな】


 あたしと銀さんはどちらかというと無口だ。対して桜ちゃんはお喋り。

 剛田が桜ちゃんを好きになるのは必然だったのかもしれないなあ。

 恋愛的な意味じゃなくてね。ヒューマノイドじゃないので、我らは。


 銀さんが七十五トン級巨大歩兵戦闘車になり、全高三メートルの剛田が車長室から上半身を見せる。

 剛田の背中から、手の甲から伸びたかぎ爪と、肩から生やした大口径レールガンをこれでもかと見せつける私。

 近づけるものはいない。

 悠々とシティの中心部へと入る我らご一行。

 このシティは階層ごとに住んでいる人の階級が違うようだね。ホームレス無法地域層、下級階層、中級階級、上級、最上級。


 シティの中心部は高層マンション高層ビルが並んでいて、いかにもサイバーパンクみたいな雰囲気を醸し出してる。でもここに工場はなさそうだな。

 あたし達が用あるのは工場だけだからね。サイバーパンクシティ涙目。


 ビルの一つに入り、最高級工場の場所を教えてくれないかと頼む。

 中央部にオッサンが一人でやっているところが最高級とのこと。


「ついた。極めてデカい工房だね。オッサーン、改造してもらいに来たよー」

「いまはやっとらんよー」


 緩いオッサンだあ。


 お邪魔しまーすと言って内部へ入る。

 お邪魔でーすと言われてお世話さんロボット――あるのよ、そういう身の回りのお世話をするロボット。――によって外に出される。


「なんで!? オッサンが最高級の改造職人って聞いたよ!?」

「オッサンもうヤクやめたの。ここの通貨ってヤクでしょ。オッサンはもう売る専門」

「ふーん。クレジット、ゼニならあるけど。というかあたしは誰と喋ってるんだ?」

「姉御、右肩」


 そこには首から下がない真っ赤な目をしたおどろおどろしい女性の姿が。


「ぎゃーって叫ぶとでも思った?こっちはナツメウナギやら赤いやつやらと相手してんのよ」

「つまんなーい。オッサン帰る」


 いじけ始めたところで桜ちゃんが登場。もう巫女服の在庫がない。

 ので、そこら辺で買ったかわいい青の装甲ワンピースだ。


「にゃにゃにゃーん。起きたにゃー。よくねたにゃ」

「――その娘は誰だ」

「は? あんたに関係ないでしょ。……そうね、教えてほしいならやることがあるわよね」

「うう。どうかわたししにその娘様のことをお教えください」

「人形で言ってどうすんのよ」


 ほとほと困ったようで。どうしようか逡巡していたみたいだけど、奥からズシンズシンと音が。

 そうよそうよ、素直になればいいのよ。


 と、衝撃の事実。


「オッサン、ホムンクルスか」

「うっうっう。じゃあまたやるから今度は教えてね」


 オッサン――ホムンクルスで泣き虫――は跪くと――


「――ちっちゃい! オッサンちっちゃいにゃ! はにゃー!」


 ホムンクルスの培養液に飛びついてピタッと離れないにゃー助太郎。

 くるくるくるくる回転している。

 お前、そんな吸着力あったっけ?


「わは、わはわは、わは。幸せだー」


 オッサンはくるくると幸せそうに回りながら昇天していったのであった。



 あたしら中に入っていいの?

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