第18話

 それで、このオッサンはなんなの? 今時珍しいホムンクルス――強靱な機械で覆われているけど――で、だからなに?

 このオッサン最高峰の工房を切り盛りしてるわけ?


「改造してほしいのはあっしっとこっちの銀さんなんでやんすが」

「ではこちらにどうぞ。猫ちゃんはどこに座ろうかー」


 ホムンクルスとキツネが十分に堪能したところで居間に通される。

 これまた古式な日本風の居間で、中央にはちゃぶだい兼こたつが鎮座していた。


「あの、早期に誤解を解いておきたいんだけど、そいつ猫じゃなくてきつねよ」

「えっ」

「ちょっと分離してあげて」

「にゃ」


 ぼふんと分離をするときつねとかわいい幼女が一匹と一名。


「あれ、可愛いねこちゃんは?」

「私と、こっちのこんこん様が合体したときだけあの姿なの」

「なのじゃ」


 事情を説明する。がっくりと落ち込んだホムンクルスのおっさん。


「そっか、そうだよね。百年以上前の戦争で、もうこの星には愛玩動物はいないもんね。うん、おっさんが悪かったよ」

「完ちゃん、猫になってあげなよ」

「え゛」

「オッサン、この子実はナノマシン魔導生命体でね、何にでもなれるんだよ。だから猫にもなれる。数百年前に生きていたナノマシン魔導生命体だからね」


 え、何この展開。

 桜さんは本当突拍子もないことを言ってのける。

 まあそれが問題解決の突破口になることもあるんだけど……。


「え、え、え、じゃあ猫になってよ!」

「オッサンに言われてもなあ……」

「じゃあ猫になったら改造してあげる。実際に行うのは改造ナノマシン機器だけど」


 あんたじゃないんかーい! とおもいつつ、猫へと変身する。研究所にいた三毛猫のミケちゃんだな。

 シュルシュルと、滑らかで品の高いミケちゃんへと変身。


「にゃお」

「ねこちゃんだ!」

「にゃお? にゃにゃ」

「なになに、私も合体しないと猫語わからないよ!」


 合体する桜ちゃん。きつねと猫。ふぎゃー!


「にゃにゃにゃ!」ねこぱんち! ねこぱんち! ねこぱんち!

「にゃにゃー!」きつねきっく! きつねきっく!


「ふーぅ!」

「ふぎゃー!」


「じゃれているところ悪いんだけど、ミケちゃん、オス猫になれないかな?」

「ふにゃ? ふにゃ」

 「毛艶はあたしの髪質と一緒なので同じ極上品だけどいつも喧嘩ばかりして生傷が絶えなかったっタケシ」そのものになった。タケシ知らんけどこんなもんやろ。

 ゆうて、あたしの身長を縮め過ぎるとおかしくなっちゃうので大型猫だけど。


「おお、たけし、たけ、た……うっうっ」

「お前何なのにゃ? 空想上の猫がそんなにうれしいかにゃ……」

「いや、いたんだよ。いたんだ。な、ミケもタケシも、な」


 おいおい泣くオッサン。


「僕はさ、ホムンクルスになって大災害を生き延びたけど、あいつらはな。って思いが今でもあってな。よっし! ホムンクルスとしての寿命がもうそろそろだから一気に改造しちまおうぜ!」


 よくわからんが改造許可が下りたらしい。あたしは桜ちゃんとフーッフーッ言い合って全然聞いていなかったけど。


 「さて、いきなりだがお金はあるかい?」

「唐突ね。八億用意してきたわ。少し時間があればもうちょっと、多分二十億くらいは用意できるけれども」

「八億じゃ全然足りないなあ。二十億回収してきてよ」


 そういってオッサンは「よこしな!」といってゼニを持っていった。


「それじゃ今から行くか」

「行くってどこに」

「素材売り場と改造場所だよ。変形用データチップも扱っているんだ」


 工房の奥まで到達すると、小さなエレベーターを見つける。それに乗って地下へと降りていく。


「長年改造していなかったからここも通ってない。落石とかに注意してくれよ」

「採掘者のような細い道ね」

「採掘っちゃ採掘だね」


 その道をこそこそと行く。本当狭いからこそこそとっていう歩き方がとても似合う。

 付いた先には。

 丸い部屋が。

 ここでなにが行われるのか。


「道を開けるよ。僕の工房にも半径四十メートルくらいのエレベーターが現れるから、だれだっけ? 金さん?」

「銀よ」

「そっかそっか、ごめん。銀さんに一度工房の入り口へ戻るよう通信を入れておいてくれないか」

「やったにゃ。わかりましたって言っていたにゃ」


 オッサンが道を開けるボタンを押す。ゴゴゴゴという音とともに小さかった部屋が大きくなり周囲に機械類が出現する。

「銀さんデカいけどエレベータでここに来られるよね。次が最後。このレバーを下げれば」


 扉のように壁が動き、これまた長い通路。もったいぶかせるなあこの演出。

 長い通路を歩くと、丸くて小さい人形みたいなのが。しかも――ナノマシン魔導生命体。うっそお、なんでこんな所にいるの? しかもこんな形で。


「ようこそお越しくださいました。パーツ交換ショップ『ハレルヤ』です」

「やあ、久しぶりだね」

「今回はなにを? ご自身の生まれ変わりですか?」

「いや、僕はもういいんだ。VSTOL短距離と垂直の離着陸型輸送機の価格一覧を見せてくれないかな」


 へー。


「待って。もの凄い置いて行かれてるんですけど。虎になるぞ」

「きゃっ、怖いですわあ」

「きゃっ、怖いですにゃあ」

「殴るぞお前ら」

「てへぺろ」

「てへぺろ」


 ぽかぽかっと頭を押さえつけました。殴るってほどでもないし……虐待じゃないし……。


「わがハレルヤはこの軍需工場でパーツを製造し販売を行うグループでーす。お金さえ出して頂ければ旧式のものから最新のものまで何でも手に入りまーす!」

「つまり改造素材を売ってくれるってことか。酷い戦争から何年前のものを取り扱ってるの?」

「ざっと五十年前くらいですね-え。ジャンルによっては百年前の品が物として完成しているのでそのジャンルは更新無しなど、いろいろですけどー」

「なるほど。それじゃカタログちょうだい」


 PDAネットーワーク経由でカタログをもらう。


「たっっっっっっっか! 通常空間拡張だけでこんなにするの!?」

「しかも一部屋じゃなくて一面積ですからね。VSTOL型輸送機はこのFF-三十五が最もコスパがよいと思いますよ。銀さんのパワー重量比でもマッハ一出せるし、十トン搭載しますのでお宝も持ちはこべます」

「二十億くらい引き出せるから――八億で最高の航空機を用意しましょう。爆弾ね、多分使うのよ」

「まままま、まずは二十八億でどこまであいつらを改造できるか下調べするにゃ!」


 素晴らしいことに桜ちゃんが我々を止めてくれた。なでなでチュッチュ。噛まれた。しょんぼり。


「というわけで二機とも降りてもらったよ。この円形部分ならAR外にも画像が見えるで見えるから予算立てやすいんだって」

「まあ、現物ある方が参考に出来ますからね。例えば銀さんの大型次元崩壊エンジン、これの上位互換はありません」

「まあ、特注だろうしね。ワンオフで作れないの? 大型多元宇宙エネルギー吸収エンジンをさ」

「ハレルヤは基本暴走しているんですよお。だから誰も止められなくて放置しちゃったって経緯がありましてえ。大型多元宇宙を作るラインは暴走しちゃってますねえ」

「私が暴走を取り除くというプランは?」

「だめでーす。新たな暴走が起こるだけでーす。暴走の合間を縫って生産しているんですよーう」

「そもそもパワーは有り余ってますから。それよりタイヤと居住空間です」


 銀さんが割って入る。そうだった、銀さんの希望はタイヤと住むスペースだった。


「タイヤを何輪にするのかは、生活空間の大きさと、質に寄るのか、なるほど」

「無改造の空間拡張は無理ですよー、変形したときに圧縮されたり伸びちゃったりして、内部においている物がぐちゃぐちゃになってしまいまーす」

「亜空間か異次元かだけど、亜空間はこの次元と位相が違うだけで、異次元はその名の通り異次元に移動するんだ。どちらもぱっと見の変わりはないよ」

「亜空間は変形に支障が出ないかな?」


 よくわからないので聞きまくるしかない。


「大きな変形は難しくなりますかねーえ。拡張空間の基準点というのがありまして、そこの部分で内部空間が繋がるんですが、亜空間はちょっと弱いんですよね」

「異次元は空間を拡張するのではなくて、別次元へ入っちゃうんだ。だから外と分断される。最悪銀さんが横転してもわからないよ」

「ふーむ。ん、じゃあ異次元空間は基準点は一つってコトですか?」

「そうですねーえ。ナノマシン魔導存在なら身体を伸ばして、その基準点だけを遠くにやることも可能でしょう」


 遠くにやることに意味があるかどうかはわからないが、異次元空間を使うことにしよう。


 ということで、銀さんに大型キャンピングカー三台分くらいの異次元空間を設置。

 銀さんの声と車長席に座っている人の声は届くようにして、ナノマシン電気・ガス・水道とトイレシャワーなどを設置した。ナノマシンの供給は銀さん。

 冷蔵庫とかもあるけど割愛。


 広い兵員乗員室が取り柄の銀さん。

 中心部に基準点は設置され、そこの周囲から異次元空間に出入りするため、周辺に空きが出た。

「そこに、前方に大きな造弾ボックス、左右には剛田さんが踏みつけても壊れない耐久性がある、ナノマシン溶液圧縮保管容器を取り付けました」


 これで内装は終わり。タイヤだねー。


「六輪設定でも最大時速五十キロメートルですか……」

「パワーが全然足りませんねーえ。しかも積載重量の関係から八輪じゃないと破綻しますねーえ」

「素材は凄くよいんだけどね。タイヤもサスペンションもナノマシン魔導融合装甲を混ぜているみたいだし」

「タイヤは外側がナノマシン魔導融合装甲で出来ていて、タイヤを守るし、パンクしてもこれだけで走れるからね」


 んじゃ、こんなもんか。


「そいじゃーま、切り上げるよ。タイヤはエンジンのパワーアップしてからだ。ここまでで一億。残りでいい航空機チップ買おう。銀さんに航空機になってもらって、一気に帰る。香辛料換金するぞ!」


 車生物が航空機生物になれないなんて誰が決めた!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る