第19話
「さて、航空機のチップだけども。六億ならいいのあるわよね?」
ハレルヤのグレーの制服であとは白いちっこい販売員とオッサン――ホムンクルスで泣き虫――がああでもないこうでもないと検討する。
もちろんあたしだってカタログスペックなら余裕で見られるけど、ひどい戦争五十年前に作られていた航空機、その最新機能を推し量るすべはないのだ。
「戦闘爆撃機に貨物積んで……そうですねーえ……輸送機に爆撃機能……これじゃあこっちが……攻撃機を引っ張り出す……」
「六億でスペック手に入れるならこれしかない。完さん、この機体です。FT三〇〇」
それは、形状としては反重力ブースターを中央と四隅の五ヶ所に配置したドローンタイプの航空機。
上側が平べったいのが特徴で、なんとそこに貨物を収容する。収容というか、置く。甲板になってるんだね。
異次元空間もそこ。魔導バリアが展開されるから内部へはなにも通さないし普通の貨物航空機よりよほど安全、とのこと。
乗り降りは中央ブースターから転移で、ぽん! 反重力だから熱くないし荷下ろしも丁寧高速安全と三拍子揃ってる。
ちょっと安全まで話戻して、安全と言えば中央のブースターだけで自律航行できるし、四隅のブースター一ヶ所と中央のブースターが欠けている状態でも自律航行に支障はないそうで。かなり堅牢だ。
「最大の魅力は攻撃輸送機だから主砲が下に出現して、上空対処に機銃が上に出る点か。これはいいねえ。あたしたちは基本的に地上で戦うからね」
「パワーがないので時速六百キロメートル程度しか出ないのですけどちゃんと飛べますし、帰ってきてパワーアップさせればちゃんとマッハ超えますよ」
「マッハまでは求めてないけど、いいじゃんいいじゃん。コックピットはどこにあるの?」
「ないですね、全部の動作をナノマシン魔導機械が操ることを前提に作られています」
へー、すごいもんだ。銀さんにもコックピットないけどさ。座席ならある。
「銀さん空飛ぶ気持ちってどうですか」
「陸を走る生き物が空を走れるわけないじゃないですか! 私を改造するのはやめて航空機をちゃんと買ってください」
「そっかー、じゃあ銀さんはほとんど自重で動けないしここでお別れになっちゃうね、寂しいな、グスン」
「いや、どうにかして戻って香辛料換金してきてくださいよ。往復使い捨て単座航空機とかでいいじゃないですか」
「じゃ、これがお金。ハレルヤさんよろしくー」
ハレルヤさんが一般人じゃ出現させられない基盤ボックスを銀さんに出現させ、拡張部位って所にチップをパコっと差し込む。これでインストール開始。銀さんは機能停止する
一時間後くらいに銀さんが起動。すかさず基板ボックスからチップを抜き取り基板ボックスを閉じて消す。
「どうでえーすか、身体に六億が刻まれた感覚は」
「ハレルヤさん結構辛辣的というか、皮肉屋というか。怖い存在ねえ」
「こここここんな怖い行為するんですか? 本当ですか?」
逃げないように銀さんを縛り付け、みんなで地上へ出る。
狙われているからね、一人でいるのは危険。
飛行場へよいしょよいしょと引きずっていく。
銀さんは「やめましょ、危険ですって」などとのたまっているがそうじゃない、やるんだ。やれ。
「飛行試験三十回目行きまーすにゃ」
ブイーン、ズドン。という擬音語が似合うようなかたちで墜落した銀さん。
駄目か。
「よし、銀さん君じゃ駄目だ」
「ですよね、ですから往復使い捨て航空機で――」
「――だからあたしが乗る。銀さんにはとんだ際の操縦記録とパラメータをあとで送るよ」
とぅ、とジャンプして上部甲板に飛び乗る。三メートルくらいしか高さがないので余裕余裕。
「バランスが駄目なんだよね。向かって左側に重量物作って置いちゃうよ、訓練だから」
「まってくださいこんな状況で――」
なんか騒いでるけど五十トンくらいの重さの石をどん! ナノマシン溶液を超重量物体に置換して作った。最近パワーが強くなっていってるから何でも出来るよ。
「じゃあ乗るよー、重量物を左側と見なして先頭を決めたからね、んじゃ――」
ぬるぅ、っと全身を銀さんと融合させていく。
自己ヒールが二〇〇ポイントを超えると逆にこういう自分を消すことも出来るようになってくる。融合しても自我が消え去らないのだ。凄いなあ、あたし。
三百年前でも一〇〇ポイントしかなかった私がなんでこれを知っているのか、使い方もやりすぎて自我が融合しないラインも知っているのかわからないけど、知ってるもんは使おう。
「最初はズブズブと融合するよ。何度も飛んでなれよう。というか行きは私が運転するから帰りは銀さんが運転してよ。みんな乗ってーいくよー」
声に応じて集まってくる桜ちゃんと剛田。みんな不安げですね。
「本当に大丈夫っすか? あっしは壊れたら終わりっすよ」
「大丈夫大丈夫、基本的に異次元部屋にいれば、外でなにが起こっても部屋には干渉しないから」
「異次元部屋のせいで重くなって遅くなっちゃったんだけど、異次元部屋じゃないと変形に対応できないんだにゃ。むつかしいにゃあ」
「しかも三人の生活空間が必要だったからねえ。んじゃいきまーす」
「ちゃちゃちゃ、ちゃんと飛びますように――」
ブースターエネルギー注入。五パーセント……十パーセント……十五……20……。
ホバリング開始。
機体の傾きを検知。バランサーにシステムの二十パーセントを付与。
修正完了。
上昇開始。ブースター出力上昇。
ふわっと空中に飛び上がる。下にはオッサンがいて手を振っている。
「さあ、行きますか。重い塊は分離して常にゴロゴロまわるようにしておくからね。訓練訓練」
「ひえええええ」
十分に高度を上げると、出力を最大にして最初のシティへと飛ぶのでした。
あたしが融合した分出力があがって少し速度が増加してるね。
何キロ出ているかは、にゃのばいざぁがないからわからないけれども。
しかし空中の速度は地上より全然速い。
地上は時速二百キロメートル程度に対し空中は時速一千キロメートル超えが普通。六千五百キロメートルだす航空機もあるようで。はっや。
そんなわけで、一日で最初のシティの郊外に到着しました。ここでお金稼いであっちで銀さんパワーアップさせたら何キロメートル出るんだろうね。
地上に降り立ち三トン車から少し長身になったに五トン車に変形。パワーを出すために大型因果律崩壊エンジンを大きめに出現させたいので五トンくらいは欲しいわけ。
四十ミリ魔導ガトリング砲から一本もらって単装チェーンガンにして積んでるので破壊力は抜群。
車体も薄いナノマシン魔導融合装甲だからヘビーマシンガンくらいなら貫通しない。
ロケットランチャーは二十ミリガトリング砲で迎撃。
酷い戦争後の歩兵戦闘車みたいである。トラックだけど。
今の時代はどこ行くにしても武装するのが基本。過剰でも武装はするもんだ。
飲食業界第二位の「田中の鶏は美味い」に通常のアポとって訪問。フィニッシャー介在しなくてももう良いのだガハハ。
会長の田中なんとか氏と出会う。人の名前覚えていられなくてねえ。全てを記憶できるナノマシンなのにって? しーっ。
「待ちわびたぞ、もう香辛料の在庫がない。今回はなにを用意してくれた?」
「えっとね、黒こしょうとナツメグを用意してきたわ」
田中会長はふーむと顎を擦りながら考えている。まあ心理戦だからね。
あたしとしては黒こしょうを全部捌きたい。主力のわさびが一番高いはず。香辛料は今の段階で全てお金にしちゃいたいんだ。
あっちは安く大量に仕入れたい。でも劣化がある。普通はそんなに気にならないけどこれは生の黒こしょうだ。ひかずにそのまま出して十分に美味い。
生で出すには劣化は避けたい。ただ買い逃すと飲食業界一位の「輝和でんがな」に買われてしまうだろう。
「黒こしょうは二キロ。ナツメグとニンニクはあるだけ買いたい」
値段いくらふっかけよう。十億くらいでいいか? 手持ち六億だから十四億ふっかけてみるか。
「在庫がもうないから希少価値が上がるのよ。十四億。香辛料はもう売れないと思っていて」
会長は少しにやっとして、「まあそれでいいだろう。十四億振り込んでおく」と言う。安すぎたかな? んー値段がはっきりしないし心理戦は苦手だぁ。
「じゃあそれで。そうそう、メイスの改良版があるから一つあげるわ。ほしかったら言ってね。あたししか作れないから高くしとくわ」
黒こしょうとナツメグ、ニンニクとメイスを引き渡し田中をあとにする。
メイスは邪魔だったかな。大体会長クラスはやってるみたいからな。
二十億が目標だったけど、こりゃ余裕で到達するな。生姜が一キロ二塊、葉生姜五百グラム一塊ある。そこに本ワサビ二十本。
黒こしょうはあたしと桜ちゃんで食べちゃった分もあって二キロ。自分らでも食わないともったいない。噛んだ瞬間弾ける香りと痺れる辛さ。うっっっっまかった。
さて、次は本丸「輝和でんがな」だね。本ワサビが高く売れてくれー。
こちらもフィニッシャーを通さず直接取引。吉田フィニッシャーさんは吉田
「はーいお久しぶり、輝男さん。香辛料売りに来たわよ、最後のね」
「最後、もう来ることはないのか?」
「食べに来ることはあるかもしれないけど、あとは残り物しかないからね。在庫無しだから高く売ってよね」
「継続して買えないのであれば安くなるな」
はいー初っぱなミスー。価格交渉ムズカシイネ。
黒こしょうが五億、生姜と新生姜があわせて五億――新生姜が高かった――。本命のワサビは……。
「んじゃあ初登場の本ワサビね。サンプルは送ったでしょ?」
「ああ、すぐにでも全量買い付けたい」
「これ鮮度が落ちるのもの凄く早いから、多元宇宙パックを用意でもしないと買い切るのは不可能だと思うわ。はたしてどれくらいの大きさが何本あるでしょう?」
と言って一本見せる。あまりの大きさに会長から大きな声が出る。
「こんなに大きいのか!? これ一本で当分最上級客に最高のSUSHIを渡せるじゃないか!」
「さて、いくら出す? 多元宇宙パックは持ってる?」
「――――二億だ。パックが心許ない。そこそこ持っているんだろう?」
「大容量パックを何枚か持っているわ(今までの香辛料全部多元宇宙パックに入ってたからね)一枚一億で売りましょう」
「現品を見せてくれ」
現品を見せる。香辛料が小分けだったし、ワサビが大きいからそんなには入らないかな。
「入るのは二本くらいか。もっと大きいのはないのか?」
「あたしそもそも多元宇宙バッグを持っているからね、積極的に集めようとしないのよ。二本買うたびに一枚五千万。どう?」
「貴様が自分から値下げするとは何かあるな。まあいい、どれだけある?」
「とりあえずの二十本でどうかしら。もう来ないかもしれないし、来るかもしれない。他のシティに行くかもしれない」
「売るのに焦っているな。ここ以外に香辛料を売れる場所なんてなかろう。二十本で三十億。これ以上は支払わん」
ふぅ。
「正直に言いましょう。もう既に目的のお金はほとんど稼いであるの。あたしのPDAディスプレイを見ればわかると思うんだけど」
と言ってディスプレイを表示。
「ほしいのはあと六億。ワサビ三本よ」
「いや、ワサビ六本だな。
「んーとね、ワサビってお肉にも合うのよね。ステーキとか、簡単なものにはかなり合うの。これで卸先が一つ増えるでしょ」
「あそこが買い切れる資金なんてあるまいに」
「給油所シティの先、ロッサムの次、そこが超高級住宅街なシティってのは知っているわよね。この荒廃した世界でも高級品を取り寄せまくっているという。あたし運送が仕事なの。コネもあるのよ」
「ダイサムか……! しかし時間は無いのだろう? 急いでいるように見える」
よし、とどめの一言!
「うちら航空機持ってるのよ。時速は相当出るわよ、因果律崩壊エンジンだからパワーも出るし延々と飛んでいられる。一日で付くわね。二本で五億。パック料金は負けてあげるわ。残念だったわね」
はぁ、とあきらめ顔で髪の根から髪をかき上げる会長。まだまだ髪は現役だ。移植しているんだろうな。
全部売り切った! 七十四億らしい! 桜ちゃんが計算してたから間違いない!
さっさと帰ろう。銀さんと剛田をパワーアップさせるぞ!
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