第21話

 無事滑走路に到着したら、銀さんが逃げだした。超高速バイクになって。


「わわわ、私には空を飛ぶなんて無理なんですぅぅぅぅ!」


 走って追いつき、バイクにまたがり操縦する。ここ滑走路だからね、罰金取られちまうよ。


「まあまあ銀さん、都市間移動なんてそうそうないから。空なんて飛ばないよ」

「そんなこといって飛ばすのがのぞちゃんなんですぅぅぅ!」

「のぞちゃん? 私は完ちゃんだけど。まあいいや、このまま空港へ戻るよ。罰金でお金すっ飛んじゃいそうだ」


 のぞちゃんと言われて胸がざわざわしたけどよくわからん! 銀さんをなだめつつ空港へ。みっちり怒られて罰金取られた。

 銀さんは自分の責任だとして自我が崩壊しそうになってた。


 ゲイスサムもウェイサムと同じような構造をしていて、ゲートがいくつもあるようなシティだった。閉鎖型シティと言うらしい。

 最初のシティなんかは開放型シティかな? 特にこういうものなかったよね。


「大丈夫だよ銀さん、お金はなくなったけどコネはあるから」

「完ちゃんコネとか持っていたにゃ?」

「山田社長から名刺もらってある。都市間輸送の人とお得意先の人だって」


 さすがにお金がないとお得意先にも会えねえだろうと思って都市間輸送の人に接触。

 山田錦やまだにしきという。恰幅の良い穏やかそうな人だ。

「よう、伝説の配達人」

「え、あたしら伝説になってるんですか」

「そりゃあまあなあ。クランを全滅させて二百トントレーラー動かすんだもんなあ」

「二百トンは尾ひれが付いている気がしますが、まあそんなこともしましたね。なにか都市間輸送のお仕事はないですか?」


 山田錦はたばこを吹かすと。


「兄弟のいるアークシティから超高級食材が輸送されたんだ。ロッサムより先で待ち受けてくれや。物は小さいんだが、護衛が必要な素材らしくてな。」

「給油シティで待ち合わせましょ。給与はどれくらい支払ってくれるの?」

「ここは金払いが良いからな。百万ゼニでどうだ」

「当分暮らせるわね、乗った!」


 銀さんがタイヤ型歩兵戦闘車になり、みんな搭乗。

 猛スピードで駆けていった。


「四百年目の真実くらいにゃんだけど、銀ちゃんって女性?」

「え、そうだよ? 気がつかなかった?」

「全然気がつかなかったにゃ……。てっきり中性のマシンかと……」

「なんならあっしも女性っすよ? 威圧感出さないためにも女性型の記憶が取り付けられたっす」

「お前は存在が威圧感の塊だからいいのにゃ! しらぬぇにゃ!」


 衝撃の事実にガビーンガビーンしているきつねをよそに、時速三百キロメートル以上で走る銀さん。

 そして操縦席に座る私。異次元空間と現実空間をつなぎ合わせる場所である。お互いの声が聞こえる場所だったりする。

 内部からは外も見える。


「空飛べば即なんだけどなあ」

「飛びません」

「時速三百キロとかおっそいよね」

「十分です」

「飛ぶか!」

「い゛や゛て゛す゛!」


 パワー全開で時速四百キロメートルまでだす銀さん。

「これでマッハの五分の一かあ」

「う、うわぁぁぁん、のぞみちゃんがいじめるようぅぅぅ」


 しまいには泣いてしまう銀さん。


「のぞみちゃん?」

「必殺記憶改変術にゃ。君はのぞみちゃんではないのじゃ。完ちゃんにゃ。にゃにゃにゃー」


 桜ちゃんの怪しい術をまともに食らって頭がふらふらする。わたしは完ちゃん。かんちゃん。カンチャン。


「――まあそうだよね、私は完ちゃん。完成機の完ちゃん」

「ふう。気をつけろよ、銀」

「うう、すいましぇんアキちゃん」

「そういうところ! にゃは桜ちゃんだにゃ!」

 そんなやりとりがありつつ輸送隊と合流。


 輸送隊はみんなバイクに乗っているね。


「へー、バイク集団か」

「速い方が何かと良いからな。時速六百キロは出すぜ、追いつけるか? おれはリーダーのウェイだ」


 そっと銀さんを見つめる二人と一機。

 銀さんは砲塔からオイルを流しながら(どうやらここが顔らしい)


「大型バイクになればいいんですよね!時速六百キロは余裕で出ます! うう、歩兵戦闘車で頑張りたいのに」


 それじゃ行きましょか。あたしと剛田がタンデムになり、桜ちゃんは異次元で待機。私や剛田はともかく、桜ちゃんはコケたら死ぬからね。

 十六台のバイクが給油シティから弾丸のように走り去っていく。

 ぐんぐん速度を上げ、時速六百キロメートルに。


「こちらウェイ、もっと速度を上げるぜ!」


 部隊長から指示が飛ぶ。


「もっとあげるってさ。銀ちゃん速度いけるの?」

「ま、まだまだいけます!」


 ぶんぶーん。時速七百キロメートル。さすがにここらが限界でしょう。


「ウェイだ。このまま巡航でいく。エンジンブロウ――エンジンがぶっ壊れること――起こすなよ!」


 菱形になって進む我ら。すると後ろから無線が。


「推定速度時速七百五十キロで走ってくる女がいやす! 全身が赤い!」

「それはあたしがやろう」

「俺たちは送り届けることを優先する! 死ななくていいが徹底的に邪魔してくれよ!」

「らじゃ」


 まあ、狙いは私達だからね。


 慎重に軸を合わせて……。

 急ブレーキ。十トン――剛田――が乗っている二十トンバイクにぶつかる赤いやつ。反応速度が以前と変わってないな、製造限界か。

 そりゃあもちろん弾け飛びましたさ。なにもせず勝利。

 液体を吸収して青い宝石を一個回収。飲む。


「エーテル・ナノ・ストライクだってさ」

「あ……それは……使っちゃいけないです」

「あっしでも知ってやすね。星を壊す威力があるんでしたっけか。さすがに姉御も威力コントロールできないんじゃないっすか?」

「試し撃ちでも危なそうだね。エーテル技一覧記憶にないし。あたしが撃つのは強すぎて一覧から隠されたのかも」


 エーテル・ノヴァ・ストライクより強いのかな。あとで桜ちゃんにきこーっと。


 その後はエンジンを吹かし、遠くに行ってしまった本体を追いかけるのでした。エンジンにナノマシン溶液を流し込めば時速一千キロメートルは出るからね。

 さて貴史君が時速七百キロメートルで走行し、あたしが時速一千キロメートルで追いかける場合、何時間で追いつくのでしょう。距離は「なんか凄い遠い」とする。


 ロッサムで無事に合流し一泊。久しぶりの宴会だぜガハハ。

 鶏の唐揚げと豚の角煮が美味。

 豚と鶏はどこの星でも繁殖できる能力があって本当便利な食材だね。


「そういえば桜ちゃん、エーテル・ナノ・ストライクって技を手に入れたんだけど強いの?」


 桜ちゃんは青ざめたあと、札を持ち出し、私のおでこに張り付けた。


「恩さかなさかなおいしいおいしい恩さかなさかなおいしいおいしい……。きつねはあぶらあげがだいこうぶつっ」

「んー、なにしたの?」

「強くつよーく封印したにゃ。それは使ってはいけないエーテル魔法なのにゃ。知らなかったことにするのにゃ」

「お、おおう。忘れておこう」


 桜ちゃんがこんなに必死に封印したんだ、忘れておこう。


 宴会は進みあたしたち以外全員が酔い潰れたあたりで終了。あたしたち綺麗でかわいいけどナノマシンだからね、酔わないんだよね。

 酔い潰してグヘヘを考えたのかもしれないけどちょっと残念だったね。そもそも女性器もないしね。使う場面がないからね。

 セックス用ナノマシン生命体なら別だけど……奴ら機械ともヤるし……。

 んでまあ、吐瀉物をナノマシン溶液で流してトイレに運ばせたりした後、ミニ歩兵戦闘車になっている銀さんの中に入って異次元空間で就寝。

 家具が揃ってきていて良い感じのお部屋になってきている。にゃの部屋にはビッグクマさんが鎮座している。

 桜色を中心にした部屋のコーディネイトでかわいかったな。今度あたしもコーディネートしてもらおうかな。あたしの部屋、ベッドと異次元空間チェスト以外何もないからな。


 ちなみに東西南北全方位から異次元の部屋には入れるようなんだけど、銀さんが兵員搭乗口方向以外は頑丈な壁を作って入れないようにしてあるし、出入り口もドア式になっていて鍵もかかるようになっているのだ。

 完璧。

 さすが銀さん。さす銀。


 翌日、軒並み二日酔いになっている輸送隊に二日酔いを治す薬をナノマシン製造して渡す。

 今の時代、二日酔いは薬で治せる。

 さあ、ゲイスサムへ向かって行進だー!

 ゲイスサムまではさすがに追っ手もいなくて余裕で走る。

 銀さんがブツブツ言っているけど速く走るためにはしょうがないのだ。


「銀さん補助機関の因果律崩壊エンジンちゃんと使ってる?」

「使ってますよ。反応性が良くなってるじゃないですか」

「あれエンジンでターボみたくしている三連エンジンになってるからね? 実質中型の因果律崩壊エンジンよ?」

「え」

「使ってなかったか。メインエンジンの三連ターボと組み合わせればタイヤ歩兵戦闘車でも六百キロは出るんじゃない?」

「つ、つか、つかつかい」

「今は走りに集中してね」


 なんで四十億かかったのかわかっていなかった銀さんでありました。


 無事にゲイムサムへ到着し、百万ゼニをゲット。

 輸送していたのは多分だけどワサビだと思うね。噂がここまで来たんだろう。

 さて少しここで稼ごう。お財布も心許ないしね。百万ゼニじゃここで生活することは出来ないと思う。

 こんな高級シティにところにいる意味があるのか? あるんだなこれが。

 フィニッシャーの質も高級なので情報が集まってくる。ワサビを仕入れたのだってフィニッシャーからの情報提供だろう。

 ここでなんとしても三人の情報を探し出すんだ。

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