第15話

 戦車の残骸を処理して、道路を直して、高速道路をひた走る。

 途中、銀さんのトラックがばら積みのコンテナなので、これじゃ砂漠の砂が剛田に入り込んじゃう。剛田を洗濯して、銀さんはコンテナトラックになってもらった。


「デカいな。剛田と簡易居住室があるとはいえ十トンコンテナトラックは小回りがききにくい。なんかいいのないかねー」

「軽だにゃ。軽のコンテナトラックにするのにゃ」


 軽とは日本銀河帝国が定めた車両規格の中で一番小さい規格である。

 んー、剛田が横になったら制限長超えるかな。


「三トン級の小型パネルトラックがあります。それにしましょう。両サイドがスライドドアになっているパネルトラックなら瞬時に剛田さんを展開することも可能です」

「でも、剛田は五トンだよ?」

「私、因果律崩壊エンジンですよ」

「さすぺんにょおんがいかれそうだにゃ」

「軍事車両じゃなければ、一度見た車に自由に変形できるのお忘れですか? しかも見た車の形状を使ってどんな形にもなれます。ならば、三トントラックになって後ろ四輪で駆動する駆動方式、そしてサスペンションにナノマシン魔導装甲を使って五トンに耐えられるようにしましょう」


 できるってことなのでしてもらった。


 あたしと剛田は体育座りをして見守りつつ(剛田って体育座りできたんだね)、桜ちゃんが魔導を与えてにょきにょき変形する銀さん。

 魔導を入れた方が変形が早くなるんだよね。銀さんはナノマシン‘魔導’機械だからね。


 で、変形が終わると。

 そこには三トン重輸送車とでもいおうか、小型パネル式トラックが出来上がっていたのである!


「すごーい! 銀さんすごーい!」

「軽量化のために装甲をナノマシン溶液にして収納箱にしまっているので、襲撃があったら車体はボコボコになりますけれども。まあ行きましょう!」


 ブオン! という音とともに発進した。

 トラックスタイルの後ろ片側二輪で前側片側一輪の計六輪だけあって横揺れもないし――通常のトラックに、一つ後輪タイヤが横に増設した感じだね!――、銀さん特有の百八十度旋回可能軸で運動性も旋回性も悪くない。

 因果律崩壊エンジンのパワーとナノマシン魔導融合装甲で作ったパーツのおかげで巡航速度で百八十キロメートルもでる。

 最高速度は二百二十キロメートルだ!


「速いねー! いままでとは大違いだ!」

「最速はGTX六〇〇ですかね。私のパワーで動かせば時速三百六十キロくらいまで出ます。それ以降は車が浮いてしまうのでレーシングカーとかになるでしょうか」

「これだけ速くてぴゃんくしないのかにゃ……」

「タイヤにナノマシン樹脂とナノマシン魔導融合装甲を混ぜて作成しているのでそう簡単にはパンクしませんよ。パンクしてもナノマシン溶液が豊富に残ってますから自動修理します」


 移動だけなら無敵!

 しかも座席が後ろのパネルコンテナと電車の連結部分のように接続しているので桜ちゃんが寝るスペースもある!


「銀さん、移動するときはこれで良くない?」

「いやいや、強い状態で移動したいのです。四十ミリ魔導ガトリング砲が間に合わなくて消耗したことが結構ありましたからね。ひろーい兵員乗員席でノンビリしてもらいたいですし」

「こだわりポイントってやつですかねえ。まあ、四十ミリが撃てる状態で移動できるってのはいいよね。強い状態ならナノマシン魔導融合装甲をフル展開しているから戦車くらいじゃ負けないし」

「赤いやつはまだ出てくると思われますし、そろそろ歩兵戦闘車が出てくるのではと危惧しております」

「赤いやつかー。気になっていることがあるんだけど、まあそれはいいや。多分今の歩兵戦闘車は弱いよ、百年前の酷い戦争でナノマシンが規制されたのなら、ナノマシン魔導融合装甲かなり弱体化しているはずだし」


 ああ、と納得する銀さん。

 強固な装甲を誇る戦車ですら、四十ミリ魔導ガトリング砲で、私のブレードで、簡単に破壊できちゃう世界だ。

 ナノマシン魔導融合装甲が弱体化した歩兵戦闘車なんて、普通の歩兵戦闘車でしかない。

 ただの、ちょっとだけ装甲で兵士を前線に運べる存在でしかない。


「いま最強なのは銀さんってことか」

「いえ、魔導ガトリングはナノマシンではありませんので強くなっているのではないかと」

「あーそっか。強くなるって難しいね」


 ブーンと走っている中、にゃのばいざぁと剛田センサーがなにかを識別したようだ。


「完ちゃん完ちゃん、なんかデカい生物がにゃたちをねらっているにゃ」

「でけぇすなこれ。あっしは工場から外に出たことがねえから戦闘シミュレーションしかしてねえっす、出来れば細かい指示が欲しいっす」


 にゃと剛田から無線が飛んでくる。PDAネットワークは接続しないといけないから、すぐ喋りたいときは無線を使うのだ。秘匿がかかってるけどあたしの無線レベルが低いためすぐにばれるだろう。


「まだ一ヶ所目の給油所にすらたどり着いてないんだけどなあ! 銀さんブレーキ! 出るよ!」


 銀さんがブレーキをかけ始めたときに巨大生物が顔を出した。


「ナツメウナギじゃねえか! 地中のドラゴン! 直系十メートルはあるか?」


「こいつはどんなせいぶつなのにゃ?」


 ナツメウナギってのは地球に生息しているヤツメウナギっぽい見た目から名付けられたウナギの一種で、歯が吸盤状で顎がない。

 目は退化しており音に反応する。

 いま見ているとおりめっちゃ巨大で体内に無数の歯を持ち、飲み込まれるとあたしみたいな無限復活できる存在でも切り刻まれて溶かされるかもしれない。

 ヌルヌルしている皮膚で砂の中を飛ぶように進む。

 胃袋には溶けなかった宝石などがざっくざくらしい。


「確かに空の代わりに砂を飛ぶドラゴンといっても差し支えないっすね」

【PDAネットワークつないだにゃ。ここからさきはしゃべらないことにゃ】

【まだ銀さん止まらないの? これで装甲薄いんじゃ確かに移動だけの乗り物だわ】


 銀さんが止まらないため音が出続けているのだ。


【念のためナノマシン魔導融合装甲を全展開しましたが、それで重量がかさんで慣性が。失敗しました】

【剛田ならこの速度でも降りられるわよね。ちょうどそっちに桜ちゃんいるし桜ちゃん連れてジャンプして。】

【うっす、姐さんの足になりやす】

【じゃあ、作戦開始。銀さんの四十ミリが準備できるまでの耐久戦よ】


 あたしと剛田はほぼ同時にジャンプ。前側もスライドドアで助かったわ。


 銀さんから音で引きつけるためにショートレールガンを乱射。桜ちゃんも雷狐かみなりきつねで音を出す。


 音も出てダメージも食らった、こっちにターゲットを移すナツメウナギ。


 さー、地中のドラゴン戦だぞぉ。


「先手必勝!」


 右手のナノワイヤーをミリワイヤーにして、五本の指で口を縛る。

 しかし、ぬるっとしている皮膚ですぽっと抜けてしまう。


「んがー。ナノワイヤーの摩擦でも抜けるか。それならば、エーテルナノワイヤーで!」


 しかし、これも滑った。ヌメヌメが細いワイヤーを滑らせてしまう。


「ワイヤーが効かない相手初めてだよ。ヌメヌメをどうにかしないと。レールガン撃つかあ」


 レールガンを撃つ。これはさすがに貫通するようでダメージが入る。ちんまりと。


「はぁ、どうにもならん。グレネードランチャーの超重量弾でも撃つか」


 なにげに初めて使うグレネードランチャ-。口径は四十ミリ。肘を曲げて撃つが――だから若干使いにくいんだよね――エーテル加速なので加速は十分だ。


「おおーこれは効いてるぞ! 嫌がってる! 穴開いてる!」


 一方その頃桜ちゃんは、と桜ちゃんに意識を移す。


「狐火! 狐火! 狐火!」


 狐が三匹、ナツメウナギの口腔へ吸い込まれていく。しかしナツメウナギにはあんまり効果がなさそうだ。


「あんまり効果ないねえ。砂漠の生物だから火に強いのかな」


 と、急に口からあたしに突進をしかけてくるナツメウナギ。俊足の足で移動したが、高速道路を吸い込みながら追撃してくる!

 こいつ、ミミズというより触手みたいな構造してるのか!?

 あたしの速度なら追いつかれることはないので逃げ回りグレネードランチャーを浴びせ続ける。

 すると全身を砂に埋める。


 なんだ、何をしてくる?

 グレネードランチャーを炸裂弾にして音を鳴らしこちらに気をそらす。

 と、次の瞬間。

 ドシャー! っと天高く伸びるナツメウナギ。下からの突撃か。避けきれない。左足を持っていかれた。即座に変身で左足を再生する。

 五十メートルはあろうかというその巨塔は、スルー!っと勢いよく砂に埋まる。


「なんかないかな、四十ミリが来る前に飲み込まれるぞ……」

【姉御、フラッシュバン――光音響兵器――っす! 音爆弾っすよ!】


 やってみますか。


 またあたしを狙ってナツメウナギが下から襲いかかってくる。予想接触秒は二十秒後。

 グレネードランチャーの弾種を音爆弾にして、接触秒数に合わせて地面に乱射地中深くに埋めていく。


 逃げるために棒高跳びの要領でナノワイヤーを固定して遠くに離れる。


 そして二十秒後――


 パーンパーンパーンパーンパパパパパーン!


 連続してなる大音響。さっきとは違う様子でナツメウナギが飛び出してきた。

 ビタンビタン。アウンアウン。

 ミミズのようにのたうち回るナツメウナギ。でも下半身は見せていない。どこまで巨大なんだ。


「よーし、これをブレードで切り裂けばいいんだ――」

「――いくぞ剛田ー! 前進前進GOGOGO!」


 なんか猛スピードで突っ込んでくる人っぽいロボットが見える。


「姐さん、あまり近付くと危ないっすよ!」

「近付かねえとお氷狐の範囲にたどり着かねえのにゃ! いけいけーなのにゃー!」


 どうやら範囲に近付いたらしく。


「にゃにゃにゃ!! お氷狐! でっかいお氷狐! でーっかいお氷狐!」


 ほぼ絶対零度のお氷狐。妖術を具現化したところにほぼ絶対零度の氷が出現するんだけど、小さいときは氷の塊、大きくなると馬鹿な桜ちゃんの氷像が出現するんだよね。


「うわー扇子もって、両手広げて、しっぽがピーンで、にゃははと笑う桜ちゃんが出現したよ。舐めたい」

「うるさいにゃ! 姿形はこんこんさまの趣味だから文句はこんこんさまに言うにゃ! それと舐めるなにゃ!」

「かわいいのは確かっすよ。ナツメウナギも動き止まりましたしね」


 で、これがさあ、致命的な一撃になったようでねえ。


「死んだ……かな。動いてないね。ほぼ絶対零度を触った事によるショック死、もしくは凍死か」

「にゃの妖術は世界一にゃ! にゃっはっは!」

「姐さんやけになってるっすね」


 無事に討伐できたところで、引っ張ることに。


「ブレードで頭真っ二つに切り裂いて、ミリワイヤーを何本もぶっ刺して抜けなくしたからあとは引っ張るだけ」

「うちには七十五トン級で、履帯の歩兵戦闘車がいるからにゃ、引っ張るのも楽だにゃ」

「へー。ワイヤーは刺す分には刺さるんすね。姉御は締め上げようとしてたっすからねえ」


 その七十五トンですが、戦闘に参加できずションボリとしていました。かわいい。


「ほら、元気出して。引っ張るのも仕事の一つだよ。グラビディ2倍で百五十トン。引っ張るのには十分な重量でしょ」

「はい……」

「私達じゃ引っ張れないんだからさ。元気出して。ね。実際武装がある状態で走れる方が良いということの証明になったしさ」


 桜ちゃんの魔導であたしのナノマシン溶液からフックを作って貰い、ナノワイヤーを掛ける。そして引っ張る。あたしと剛田でも銀さんを押す。

 能力取られてなければ自分でフックくらい作れるんだけどね……。

 あたしと剛田、二人とも力が強いからね。あたしなんか二千トンを引っ張った過去がある。

 今はそこまでの力は出ないけど。


 ぐいぐい引っ張って尻尾まで引っ張った。


「なーるほど、こういうわけか」

「お腹に、かなり大きな宝石が結晶化してるにゃ」


 出来るだけ傷を付けないように宝石を採掘する。

 途中、例の丸い球が二個も見つかった。


「大収穫だね。でぇぇぇぇっかいクリスタルが三つ、細かい宝石がいくつも手に入った」

「完ちゃんの多元宇宙バッグに入るかにゃ?」

「入る入る。テーブルとソファー捨てれば」


 それは大問題だにゃー! という叫びとともにナツメウナギとの戦闘は幕を閉じたのでした。

 お金のためにはしょうがないんだ。テーブルとソファーくらいどうってことないさ。

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