第14話

 剛田とともに突進し、目の前の戦車に接近する。インスタントバリアを分厚くする。

 至近距離で主砲が直撃したが、姿勢を崩した程度でなんとかなったようだ。

 次弾発車前に砲身の下に潜り込む。砲身と砲塔の違いは、砲塔が砲身の根本にある突起物。射撃する際は砲塔を狙う、弱点っちゃ弱点だからね。


「あとはあたしの番だな。他の主砲からの射線を切っておいてくれ!

「らじゃ!」


 あとは背筋使って砲身を折り曲げて……ということはしない。無防備すぎるし、昔とは違ってこっちには武器がある。


「ブレード出現、砲塔切断!」


 もちろん戦車もグイングイン旋回して攻撃から身を守るわけだが、残念だったな、お前の相手はあたしなんだよ。

 履帯の横にぴったりとつけ、まずは履帯を切り飛ばす。ブレードがマジで切れる。これで手持ちできたらなあ。腕固定はちょっと扱いにくい。

 履帯が切れた戦車はぐるぐると回転し始める。よし、砲身もぐるぐる回転しているな。悪いが私の瞬発力じゃ。


 スパッ。


 と切れる。これで一台目の処分完了。最終的な破壊は銀さんに任せればいい。


 と、ここで恐ろしい量の砲弾が届き始めた。


「剛田、下がるぞ。四十ミリが来た!今度はあっちを守る! 戦車を率いた伏兵か大将か、そいつがいるはずだ!」


 来たときと同じスピードで後退する我ら。剛田の足は後退も同速度で出来る一級品だ。


「剛田、ナノマシン注入器持ってないか?」

「ありやす! いま出しやすね!」


 そういうと左背中から装甲ごと抜けるように押し開き、三列縦にならんだ注入器が出てくる。シリンダーは結構太い。


「ありがと、さすがにナノマシンを結構使ったよ」


 そういって注入する。皮膚下のナノマシンに直接噴霧するタイプなので痛みは特にない。一瞬で取り込むからね。

 三本打ちつくし、元の保管機へ戻す。一本三千万くらいナノマシンが入っているとのことなので――おやっさん制作なのだ――三本で九千万か。

 七十五億ナノマシン量+丸い物体による増加+常に吸収し増え続けるナノマシン量には九千万なんて微々たるものだが、このナノマシンは空気中のナノマシンを吸収する力を増やすナノマシンなのだ。銀さんの所に戻るころにはある程度回復しているんじゃないかな。


「はにゃにゃにゃ! こっちくるにゃ! いま銀さんは戦車を倒してるんだにゃ!」


 桜の無線が飛んできた。やはり襲撃があったね。

 剛田に投げ飛ばしてもらい、初速を付けて一気に時速三百キロメートルまで。この距離なら一瞬で接近できる!


 目標視認! センサー解析! 目標は……赤いやつ!


 三百キロメートルの速さで体当たりをぶちかます。


「ぐあっ!」


 数回転んだだけで体勢を立て直す赤いやつ。こいつ成長してるな。


「おかしいな、お前はナノマシンにまで溶けて死んだはずなんだが」

「あんなクローンと比べるなよ。俺様こそが完全体だ。お前をぶっ潰す!」

「あんなクローン、か。胸も豊かだし腰もくびれていて顔も綺麗なあたしの姿で俺様とか、やめてくれない? 下品すぎるわ」

「お前が死ねば俺様が俺様なんだ!」


 まぁ、そうだね。挨拶代わりのショートレールガン――肘からだけレールガン出すやつね――の速射。赤いやつはエーテルシールドを展開して防御する。

 くっそー、あいつはあたしが持っていたエーテル魔法を全て持っているんだよな。赤いやつの後ろに回りこみながら、ショートレールガンにエーテルを込める。


「へっ、いくらエーテル込めても俺様のシールドは抜けねえよ!」


 赤いやつはレールガンを取り出しロングバージョンで打ち出す。

 【一方通行】を持っているらしく、シールドを貫通してこちらへ飛んでくる。

 インスタントバリアを張って対抗する。システムに十パーセント渡してインスタントバリアの展開を任せる。

 くっそ、その分だけパワーが落ちる。

 今はショートレールガンをやめてレールガンにし、お互い後ろを取り合いながら撃ち合っているが、相手の方が速い。本当にあたしより性能が良いのかも。


「オラオラどうした! 強いんじゃなかったのかよ!」

「まあ強いんだよな。お前にはないことが出来るから」


「完ちゃん! おきつねにゃにゃにゃパワーアップ、にゃ!」


 桜ちゃんの能力向上だ。力がみなぎる。身体の底から湧き上がってくるっ。

 これで大体四割ほど全てのパワーが向上する。


「私の四十ミリ魔導ガトリング砲をくらいなさい!」


 銀さんの四十ミリ魔導ガトリング砲が暴力的に襲いかかる。

 とっさの判断でシールドで受け止める赤いやつ。

 四十ミリ魔導ガトリング砲はシールドで防がれる。


「へっ! いくら四十ミリでもエーテルシールドの……前では……あれ……」


 左右に避けて必死に当たらないようにする赤いやつ。


「四十ミリをまとも受け止めるなんてバカか。体内エーテルがなくなるだけだ。お前エーテルのこと知らないのか」


 ただ、すぐに四十ミリ魔導ガトリング砲が止まる。


「弾切れです。しかし二十ミリガトリング砲がある!」


 二十ミリガトリング砲が火を吹く。正直当たってもたいしたことはないだろう。

 自己ヒールがかなり強いんだろうと見ている。

 ただし邪魔をするにはこれで十分だ。


「自己ヒール頼りで耐えられるかな? 白兵戦だ!」


 ブレードを出して襲いかかる。

 というか、ナノワイヤーがまだ残っているはずだ。

 出された瞬間に切り取らないと、桜ちゃんや、銀さんの武装が危ない。


「くそ、ワイヤーが出せねえ」

「こうやって出すんだよ」


 白兵戦をしながらナノワイヤーを出して腕に絡めて切り取ったりしている。

 うにょうにょ曲がるから機動を読みにくい。

 大して、赤いやつのワイヤーは直線的でわかりやすい。ワイヤーも太めだ。

 元々機能を取られていなかった目を三段階改造しているし、取られたセンサーも一応改造している。

 見える。


 あたしの武装を真似しているので相手もブレードで勝負している。

 長く伸ばして切り刻もうとしているが、長い分テコの原理で力が入らなくなってしまうから、自己ヒールで分が悪い私でも対等に張り合える。


 赤いやつが思い切りブレードを伸ばしてなぎ払って来る。

 私は左足を捨ててブレードを突き刺し身を守る。

 足首がやられたが即座に変身で足を出現させ再生する。


「ブレードはかすり当たりだしナノワイヤーは効かねえ、こんなはずじゃ。最強機体は俺様なのに」


 自信がなくなってきたか。


「どうしたどうした。二十ミリガトリング砲がそんなに怖いか。私は防御的に動いているだけだぞ」

「ふざけんな糞がぁ!」


 内臓を切ろうとでもいうのか、突進してくる。

 ナノマシン生命体には内臓という部位は胃袋くらいしかないが、それでも身体を回すための組織はある。

 老廃ナノマシン処分したりね。

 ナノマシン吸収したりね。

 そういう所に当たるとさすがに大ダメージだ。ブレードを横に構えて受け止める。


「なんでお前のブレードを突き抜けられねぇんだ」

「秘密があるが教えない」


 エーテルで囲っているからな。強度が段違いだ。赤いやつはエーテルがない。


 突進を押し返してブレードで腹部を切り裂く。そして右手で相手の右腕を掴み振り回す。

 桜ちゃんの能力向上のおかげで筋力は私の方が勝っている。


「姉御ー! 遅くなりやした!」

「あたしごと潰せ!」

「らじゃ!」


 やっと来たよ近距離戦の天才が。これで勝った。

 剛田は言われたとおり私の右腕ごと赤いやつを潰す。


「まだまだ自己ヒールで回復してくるぞ!桜ちゃんは狐火や雷狐で!」

「わかったにゃ! 能力上昇止めるにゃ」


 うおわ、能力下がるってこんなにきっついのか。身体が動かないよう。

 まあでも剛田がいる。


 瞬時に変身回復し距離を取った赤いやつに四十ミリダブルバレル速射砲が襲いかかる。

 それを避けたと思ったところにはもう剛田がいる。左手でぶん殴られナノマシンが飛び散る。

 狐火にはホーミング性能があるし、雷狐は対象を中心に広い範囲に効果がある。お氷狐は剛田の無限エンジンのコアに既にかけている。

 桜ちゃんもナノマシン魔導生命体ではあるからシステムが使えるのだ。あんまりパワーがないからちょっとだけ使ってね。よろしくね。


 さて、そんなことを考えているうちに剛田がどんどん追い詰めていた。

 一介にも赤いやつはナノマシン魔導生命体なはずだ。それを重サイボーグごときが追い詰めているんだ、力量、技量が違う。


 あたしもレールガンで剛田を援護する。援護くらいがちょうど良い。


「おらおらおらおらぁ!」

「なんなんだこいつ!?」

「うちの白兵戦の切り札だよ」


 レールガンが頭部にクリーンヒットする。

 弾ける頭部。

 治るころには剛田の左腕が腹部を貫く。

 治すために引いたところに、四十ミリダブルバレル速射砲とあたしのレールガンが飛んでくる。


「姉御! 残弾少ないっす!」

「ナノマシン造弾ボックス投げろ!」


 ポーンと剛田の背中から飛んでくる造弾ボックス。ポーンとっていってもデカいんだけどね。

 おっとっとと受け止めて、ナノマシン溶液を噴射する。丸い球さんのおかげで噴射量が上がっていて数分で満タンになる。

 そのボックスを超速度で走って届けるのだ。無限エネルギーのコアに気をつけながらね。

 開いているボックスにナノマシン溶液を変換して作った水をかけ砂漠の砂を吹き飛ばし、設置する。


「燃料満タン! GO!」

「あざっす! 姉御! ショートレールガンばらまいてくだせえ!」

「了解!」


 剛田から離れ、赤いやつと我々が十時になるように陣取り、ショートレールガンをばらまいていく。

 赤いやつは自己ヒール機能も落ちているのか左腕が再生できていない。チャンスだ。


「これで終わりだね、ナノワイヤーいくよ!」


 剛田はちょっとだけ位置を後方にずらした。そう、すぐに接近できてナノワイヤーが通る隙間だけちょっと空いているその位置。さすが天才。


 私は十本のナノワイヤーを一本ずつグルッとまわしてから、締め上げた。


 赤いやつは十個の胴体に分裂し、ナノマシン溶液となって死んでいった。私がナノマシン全部吸ったからね、死んでいなかったら吸えない。


「終わったかにゃ? 剛田について行くの大変だったにゃー」

「すいやせん姐さん。白兵戦の最中はもうどうにもならねえんす」

「みんなの盾になるために産まれたんだぁぁぁぁ!とかいいながら、ナノマシン相手に重サイボーグが白兵戦で圧倒してる天才だし、今日は忙しいな、剛田」

「ざっす! 銀さんが戦車破壊してくれたんで急いで戻れました! さすがに装甲に不安がありやすからね」」

「四十ミリ魔導弾切れなんであとで補充溶液くださいね」


 みんな口々に言いながら銀さんが七トントラックになり、ウェイサムへ急ぐのでした。


「ちなみに銀さんの桜ちゃんを守る秘策ってどんなだったの?」

「にゃを七トントラックの運転席にのせて、ぶあつくしたナノマシン魔導融合装甲で守るというひさくにゃ」

「それ凄いアイデアだね。すぐに変身するんだったら七トントラック全てを変形させている時間ないものね」

「銀さんがダメージ受けるのいやだったから、にゃのばいざぁで外を見ながら妖術シールド展開して防いでいたにゃ」

「え、ナノマシン魔導融合装甲って原色は銀色だから覆われてちゃ外みえないよね。その状況でのか……にゃのばいざぁ、にゃの直感、すげえ……」

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