第13話
「輝和でんがな」より、わびを入れたいとの連絡が入った。
わびねえ、交渉しないでわびってことでいいんじゃないかな。まあ交渉に応じてやろう。
ここは輝和でんがなのVIP室。なにかが聞かれる心配は無い。
「で、どうしたいわけ? 肉に混ぜると美味しい香辛料や、黒こしょうは『田中の鶏は美味い』にもう卸してるけど」
「申し訳なかった。今輝一を呼んでくる」
社長の吉田
重サイボーグに取り押さえられて身動きが取れないようだ
「おい、やめろ! あれは俺だけのせいじゃない! 調達課の――」
「吉田
「ぐ、俺はそいつに脅されて」
「英二は全てはいて死んでいったよ。お前はもう用済みだ。やれ」
なにかリングを頭にはめ込まれると、超高圧電気――センサーによればだが――を流し込まれ一瞬にして皮膚が真っ黒になる。内部組織も死んでいるだろうな。
「裏切り者には死を」
「裏切り者には死を!」
「ウラギリモノニハシヲ!」 あ、この重サイボーグ、剛田より言語プログラムのレベルが低い。このシティ最高企業なのに。
「お抱えのフィニッシャーが死んじゃったわね。どうすんの?」
「代わりはいくらでもおる。連れてこい」
そういて重サイボーグが替わり? の者を連れてくる。輝一そっくりだ。
「俺が吉田
「なるほど、処刑を見せて、次のフィニッシャーを呼んでくる。でもさ、内部規律を見せつけられて何のメリットもないんだけど」
社長の吉田輝男が口を開く。
「謝罪金として五千万ゼニ支払おう。それでどうだ」
「うーん、悪くないわね。それでいいわ。あたしの口座に振り込んでおいて」
さて、と、同時に声を発する。やることは一つだ。
「SUSHI料亭に卸せる香辛料といったら、ショウガかしら」
わさびはあえて隠す。信用がなければ、こんな大金になる代物信用が無いのに売れるはずが無い。
「サンプルはあるか?」
「社長直々に嗅ぐのね。これよ。この小瓶には亜空間機能が付いているから、切った瞬間以外は劣化していないわ」
といって皮と身を提供する。
「皮にも何かあるのか」
「調理方法一千万」
「支払おう」
「皮の方が香りが高いのよ。もうJUNAでは忘れられた調理方法かもしれないけどね。ジャガモは皮が美味しいみたいにね」
吉田が一口実を食べる。数秒止まった後目を見開きながらわなわなと震え出す。
「こ、これが地球産。なにもかもが違いすぎる。歯触り、刺激、香り。なにもかもだ」
「口を洗ってから皮もどうぞ」
口に水を含み、数分待つ。刺激が残っているからね。
そして皮を口に含む。手が震えている。期待と緊張が入り交じっているのだろう。
「こ、これは……刺激が強い、しかし香りも強い! どんな土で栽培するとこうなるんだ!?」
「地球、または惑星GAGA、ニューエデンの可能性もあるわね。とにかく高級な場所よ」
「これは、常に提供できるのか」
あたしはかぶりを振る。
「遺跡品だから限りがあるわ。詳細な量は教えないけど。あなたの所に来る富豪なら私から買い取った百倍二百倍で売れるでしょう?」
「今回どれくらい持ってきた?」
「一塊の五百グラム。良い値段が付くことを期待してるわ」
料理長まで呼び出され、少ないサンプルをかじりながら話し合いをしている吉田たち。
「これは煮物にも使えます。KATSUOにかける生姜にもあう。素晴らしい」
「少量しか使わないだろ? 高く買い取っても利益は出るよな」
「このVIP席に呼ばせて頂ければ取引の危険もありません」
「とにかく凄いレベルの生姜です」
社長が向き直り、こちらを見る。
「五百グラムで五千万ゼニ、これでどうだ」
「まあそれはただの根生姜だしそれでいいでしょう。葉生姜も食べる?」
「葉生姜だと!? サンプルはあるのか!?」
大興奮してるな。
フィニッシャーから、普通の葉生姜でひとかじり数百万ゼニって聞いてるもんな。
「ちょっとだけあるわよ。ほら。」
サンプルを寄越す。
ナノマシンパッケージとはいえよく新鮮な葉生姜のままでいられたもんだ。
「うおおおおおおおおお!! ひとかけら一億出すぞ! もっとくれ! 二億でも三億でも食べるやつは現れる!」
ちょっとまいったな。お金は欲しいけどサンプルが何グラムか分からないんだ。
亜空間に入っているから今のセンサーじゃ測れない。
総重量は二.五キログラムなんだけど……グラム売りじゃ駄目か。
「塊で持ってきてあるわ。一塊五億でどう。細かく刻んで食べても美味しいんだけど、皮付きのまま食べると美味しいのよ。塊で食べたい人には十億でもだしな」
「いいぞいいぞ! 買うぞ買うぞ! お金は後日支払う。さすがに六億一千万は手持ち資金にないからな!」
ということで実物を渡す。ショウガのでかさにびびっていた。
JUNAじゃこんなにデカいの作れないからなあ。
百年前の酷い戦争で星が焼かれちゃったからねえ。
砂漠ばっかりなのはそのせいだよ。
このシティの周辺では牧畜や小麦の栽培を大々的に行っているけど、ナノマシンで土壌を改質するのもなかなか時間がかかる。
質の悪い土壌や餌では美味しい食べ物は出来ないもんね。
そこに工業が止まって人の居住も制限され、めちゃくちゃ綺麗になった地球か、どこか。そこで栽培され取れたショウガや黒こしょうが入ってきたんだ、そりゃあ美味いに決まってる。
「そんなわけで、六億ちょっと稼いできました」
「銀さんの改造にはまだまだかかるかにゃ」
「銀さんの内装と六連ターボくらいは余裕で賄えますねー」
「明後日『田中の鶏は美味い』に行くのでそっちで売り払ってから出発だね。わさびは肉に付けても美味いのは知ってるよねって脅迫文をでんがなに送りつけとくか」
「揉めそうだからやめろにゃ」
当日。田中に黒こしょう一便五百粒を売却。一億二千万ゼニゲット
ナツメグは二百グラム。
亜空間機能小瓶でも異次元機能小瓶でもゆっくりと劣化しちゃうのよ。
ナノマシンパッケージか多元宇宙バッグに入れておかないといけない。
私が管理するしかない。
二千万ゼニゲット。
ニンニク五キロで五千万ゼニ。ニンニクは土の香りをもろに受けるからね、砂漠の砂で育てるのとは桁違いよ。
これで八億ですね。まあ改造費で消えるんだけど。
いやーナノマシンでよかった。お金使って生きてこなかったから大金って感覚がないもの。
でんがなと田中にサンプルのわさびを送ってこのシティを離れる。
まあ、どうにもこうにもこのシティには実験機が来そうにないもの。
お金稼ぐために一度戻るけど、全部売り払って終わりにしちゃおう。
先生とはさよならだな。おやっさん――つるっぱげ――とも。
給油所までは山田さんの護送船団と一緒に旅をする。
「なんで一緒に旅するのにゃ?」
「剛田がいるから五トンの重量を支えないといけなくて、7トントラックで走ってるからだよ。このトラックなら速度が出るけどちょっと貧弱なんだよね」
「歩兵戦闘車じゃだめなのにゃ?」
「余裕で運べるんだけど、履帯が金属だからアスファルトを傷つけちゃう」
「ほえー」
なんとなく納得したにゃーさんに追加の説明を行う。
「まあ、自動修復ナノマシン融合アスファルトだと思うけど、星が焼かれちゃってるから、焼かれたあと普通のアスファルトで舗装したものかもしれないしね。」
「アスファルト傷つけちゃ駄目なのにゃ?」
「ボッコボコの道になるよ。これからもこの道は使うんだ。綺麗に使った方がいい」
「ほえー」
履帯だと遅いってのもある。巡航六十キロメートル最大速度百キロメートル程度しか出ない。
銀さんはトップスピードに入るまで一秒かからないんだけど、最大速度百キロメートルだからね、トラック集団に追いつけない。
トラック集団は巡航百キロメートル最大速度百五十キロメートルで走る。
「そういうわけで7トントラックなんだよ。
「はーい。分離ぢゃ! こんこんさま」
「なんで、ぢゃ、なの」
「気分気分」
給油所でみんなと別れて、我々だけ別の高速道路を走る。ちょっと不安だけどガチガチ防御のみんなだし、全員遠距離が使える。
クランが襲いにきても大丈夫だろう。
快調に進む。トラックといえど銀さんのパワーがあれば時速百五十キロメートルは出る。快調以外の何物でもない。
「順調快調。これなら四、五日もすればウェイサムに到着するんじゃない?」
と、気を抜いていたら。
「――超速度の飛翔物体を補足! 回避行動に移ります!」
横転しない程度にタイヤを曲げて急機動を取る銀さん。振り回される私達。剛田は自分を固定していたベルト固定が、高速道路を走る程度の柔い固定で、戦闘機動には十分でなかったため吹っ飛んだようだ。
「桜ちゃんってシールド持っていたっけ?」
「妖術シールドと、ナノマシンシールドと、
ナノマシンパワーが弱いからナノマシンシールドは耐えられないな。
「妖術シールド張って、銀さんを歩兵戦闘車に。遠距離戦だと四十ミリ魔導ガトリング砲がないと相手できないよ」
剛田はコケただけなので放置。勝手に起き上がるでしょ。
相手の攻撃物は三機いるらしく、砲撃の回転速度がかなり早い。
「多元システム起動! ナノマシンパワー二十パーセント振り分け。無限インスタントバリアを私と桜に」
CPUや脳など、我々は他の生物の思考器官を真似している。システムを立ち上げれば一度に真似できる量が増える。
ナノマシンパワーでパワーは補うのだ。私のパワーはおやっさんで測ったときが五千万だっけ? バカみたいな数値だ。それに例の球でパワーアップがなされている。
桜にシールドは張ってもらうが、インスタントバリアの低強度でも、兆のバリア層で砲弾を一切通さないでやる。
「さすが完ちゃんにゃ。インスタントバリアだけで砲弾を防いでるにゃ!」
「そもそもインスタントバリアは低強度超高速再生のバリアだからね。パリンと割れて足を遅くして、瞬時に再生されて砲弾をバリアが包み、砲弾の足を引っ張るのよ。しかしこの砲弾」
「うん、戦車の弾だと思うにゃ。剛田! 復帰遅いにゃ! 早くしろにゃ!」
ぶおーんという音とともに我々の前に立つ巨大な壁。剛田の登場である。
「システム! パワーを五パー追加。剛田に振り分けて。インスタントバリアね!」
剛田はそもそもが固い。インスタントバリアで遅くなった砲弾なら余裕で弾くだろう。
「すいやせん! 立ち上がるのに時間がかかっちまって!」
「ウェイサムにたどり着いたら復帰補助腕でも買おうか」
「ざっす! それでどうするんで!? あっしのセンサーからは三台の戦車という反応が来てます!」
さてどうしよう。あっちに行ったら銀さんが危ない。こっちにいるままでは私のナノマシンが持たない……わけではないが、減る。
システムを使い、パワーを譲渡するとそれだけ早く体内ナノマシン量が減ってしまうのだ。私自身も思考判断能力が落ちる。
「よっし、桜ちゃんは魔導で変形を手伝って! 銀さんは七五トン履帯で四十ミリ魔導ガトリング砲が撃てればいいから形にこだわらないで桜ちゃんを守る形で変形して!」
「にゃは分かったけど銀さんとても難しい判断が求められるにゃ。できるのかにゃ」
「大丈夫です、もう構想はあります」
「じゃあ行くぞ剛田ぁ! どう考えても戦車は囮だがぶっ潰さねえと邪魔でしょうがねえ!」
「ウッス! ぶちのめしてやらぁ!」
剛田の後ろにしがみつき、完全に隠れる。取っ手と足場があるんだよね。
システムパワーは十五パーセントまで落とし、十パーセントは剛田の防御、五パーセントは左腕の動きをシステムに譲渡。
左腕は勝手にバランスを取り、ナノマシン燃料を剛田の無限エネルギー動力経路に流し込む。
これ
あたしはしがみついていればオッケーの方が絶対安全。
剛田は完璧に装甲化されているから、注入するために装甲を少し剥がしたけど問題なかろう。
「うおおぉぉぉ! 来たぜぇぇぇ! オーバースピード! 接敵まで二分!」
「二分もありゃ銀さんの変形が終わってるよ! 最高の囮潰しだな、剛田!」
「あっしは仲間の盾になるために産まれたんだぁぁぁぁ!!」
三台の戦車の戦車砲を真っ向から受け、全く前進をやめない剛田。まあ、私のインスタントバリアがあって砲弾威力が落ちてるとはいえ、当たってはいるのだ。
接近するごとに威力が増すからシステムパワーを上げてインスタントバリアの枚数も増やさないといけないんだけど、それをしていない。
二百年前の装甲と三百年前のバリアで現代戦車の砲撃を完全に弾いている。
「姉御! インスタントバリア増やせないっすか!?」
「ちょっときついな。無限エネルギーにまわしている量が多いから」
「じゃあ戦闘機動に入りやす! 振り落とされないでくださいよ!」
「じゃあ変身して腕を二本にして……冷却パイプどこ? ここか。冷やしてやるから存分に踊れ」
この戦闘機動が凄かった。動く。動く。ギュインギュイン動く。五トンがぐいぐい動く。
あたしは振り回されるわ、戦車砲は当たらなくなるわ、進むスピードはそこまで落ちないわ。どえらいものだった。
そんなこんなで戦車の間近まで到着。
ヘビーマシンガンを撃ってきますが素の防御で当たっても無傷。
戦車砲が直撃して自己ヒールがぶっ飛んだ反省からインスタントバリアは分厚く展開。
さーて、四十ミリ魔導ガトリング砲が来るまで暴れますか。
いくぞ、剛田。
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