第10話

 休憩中ずっと桜ちゃんのことを見ているサイボーグ君。


「そんなに珍しい?」

「いやあ、かわいいなぁって。身長差考えてくださいよ、こんなちんまりとしたお嬢さんで、こっちは三メートルですからね」

「サイボーグ君結構知能豊かだね、そういうことも考えられるんだ」

「知能は人間並みにあるっす。特徴の一つっすね。これで状況に応じた柔軟な対応が出来る、らしいっすよ。反乱起こしそうっすけどね」

「今反乱起こしたら、どうなるか分かってるよね」

「いやいや、起こしませんよ。姉御の強さはセンサーで見ていて分かるっす。異常なナノマシン量っす。あっしの装甲じゃひとたまりも無い」


 そんなかんじの世間話をしていたら、桜ちゃんとこんこんさまが起きた。

 んー、寝起き姿もかわいいね。たべちゃいたい。


「おはようございます、姐さん」

「ん、おはよう。ずっと見守ってたの?」

「寝姿がかわいかったのでつい」

「こんこんさま?」

「悪いやつではなさそうだこん。指揮してくれる人を欲しがってるこん」

「お、わかりやすか、おきつね様。うちらは野良にならない限り、誰かの配下になることが使命っすからね」


 合体をするこんこんさまと桜ちゃん。

 きつね姿もかわいいなあ、たべちゃいたい。


「じゃあ桜の指揮下に入ろうか」

「え! 連れていくのにゃ!?」

「あたしの修復、銀さんの改造、こいつの強化。お金の使い道が出来て良いじゃないの」

「連れて行ってくれるんですか! よっしゃあ、頑張りますぜ! 姐さんの代わりにあっしが死にやす!」


 三メートルの左腕の中に座る一四〇なんとかセンチの桜ちゃん。かわいい。

 こんなに大きくて隠れ蓑が覆いきれるかと思うけど、そもそもある程度離れた状態の実験機全てを覆うことが出来たからね、まあ余裕よ。


 途中大きめで履帯の香辛料探査サイボーグが通りすがったのであたしのナノワイヤーとサイボーグ君の一撃で通信させる間もなく粉々にした。

 サイボーグ君、エンジン無限エネルギー三段ターボの割にはつっよ。エネルギー溜められる機構があるな。


 これは逆に香辛料探索兵器はおびき寄せた方がいいねということになって、センサーが働いていないところで隠れ蓑を解除。アメンボ型の兵器があたし達を見つけ通報。

 逆にボコボコにすることによって香辛料組は壊滅したのであった。


「いやーサイボーグ君がいるとあっけないね。破壊する分には一撃だもんね」

「あっしが評価されて嬉しいっす! 仲間に入れて頂いて本当に良かったっす!」

「完ちゃんもレールガンで一撃だったにゃ」

「接近されると撃ちにくいんだよね。肘から撃つショートレンジだとちょっとチャージが必要かなぁ。まあブレードで切っちゃうけど」


 金属やセンサー類は詳細に分けて、あたしの多元宇宙バッグへ。もうちょっと入るかな。センサーも金属も、二百年前のだから古物商に高く売れるのだ。


 歩き回って広い部屋に出る。ここはセンサーが無いみたい。辺りをキョロキョロうかがってみてると。


「完ちゃん、上!」


 上を見る前に一気に飛び退く。上から何か、ビームでも岩でも、そういうのが来るから上! なのだ。


 ドォーン。


 と、落ちてきたのは巨大なロボット。足が四つで車輪が付いてる。体長は七メートルはあるか。両腕にガトリング砲。当たったらひとたまりもない。

 この部屋が広かったのはこいつが動き回る設定だったからか?


「奥からは機械の音が聞こえるにゃ。こいつが工場の最終防衛ラインって所にゃ」

「まあ倒せないってことは無いでしょう、あたしが粉みじんにならなければ」

「不吉すぎるからやめてにゃ」


 戦闘が始まる。


 真っ先にナノワイヤーで切断を試みたが、切れない。かなりの強度だ。

 ナノワイヤーが切れないということはサイボーグ君の一撃もダメージが無い。サイボーグ君は足にとりついて動きを阻害する行為に出る。


「うおおおおお!」

「サイボーグ君、力出しすぎると無限エネルギーじゃオーバーヒートしちゃう!」


 プシュー! という音とともに背中から無限エネルギーのコアが出る。冷却が足りてない。


「にゃにゃにゃ! お氷狐こおりきつね! サイボーグ君を冷やすにゃ!」


 ガチーンとサイボーグ君のコアに大きな氷が挟まる。あれは氷に見えて絶対零度に近い温度なんだけど、温度差で爆破しないか?


「うおおおお! いける! オーバードライブ!」


 サイボーグ君は出力を上限以上にあげる! ミシミシと曲がっていく足! 足を止めてるし、曲げられそうだ!


「今のうちに撃ちまくるよ! ハーフチャージ一五ミリレールガン!」

「狐火狐火狐火!」


 兵器、防御兵器で良いか、防御兵器は足は諦めたのか両腕のダブルガトリング砲であたし達を狙う。

 私を狙ったので一撃で四肢が砕ける。桜ちゃんが慌ててエーテルリジェネートをフルパワーで出し、瞬時に回復させる。


「やばい火力っ。あたしも桜ちゃんも当たったら砕ける! とりあえずのインスタントバリア! 桜ちゃん一応シールド出して! 避けるところは!?」

「こっちです! 逆に近付いてくだせえ! 真下!」


 そうか、サイボーグ君が足をやったから移動できない。ガトリング砲は手首が無いから真下を撃てない。


「にゃにゃにゃ! 隠れ蓑!」


 部屋全体を隠れ蓑で覆った桜ちゃん。あたしと一気に真下までかけ出す。


「ナイスだサイボーグ君!」


接近したついで、あたしのブレードで反対側の関節を可動不能にしておこう。

 防衛兵器の関節にブレードを挿し、そのままブレードを腕から外してしまう。

ナノマシンの武器だからもの凄く固く、楔の役割を上手く担えている。


「ブレードもナノマシンだからさ、いくらでも生えるのよね」

「後はコアを破壊すれば終わりだにゃ。解析開始にゃ!」


 にゃのばいざぁで解析を開始する桜ちゃん。しかし……。


「ウィーン、ウィーン、ウィーン、って、こいつ自爆しようとしてないか!?」

「真下から逃げたらガトリング砲が待ってるっすよ!?」

「桜が先にコアを見つけ出す! あたしのブレードで一気に仕留める!」


 ウィウィーン、ウィウィーン、ウィウィーン。


 ピコーンピコーンピコーン。


「見つけたにゃ! コアはここにゃ!」


 そういってあたしのPDAと自分のPDAを直接接触させる。いま、あたしのネットワーク回線が破損しているのを見越しての行動だ。


「そこだぁぁ!」


 右手のレールガンでガトリング砲のように八ミリ弾を発射し削りながら、ブレードを伸ばしえぐっていく。八ミリでも内部構造はもろいからどんどん削れる。

 ブレードはエーテルで覆われているから伸ばせば裂きながら進んでいくのよ。


 キュインキュインキュ――。


「自爆音止まった?」

「ドライブ反応消えたにゃ。エンジンを破壊したと思われるにゃ」

「やったっすね! 七メートルの巨大兵器をたおしましたよ!」


 終わってみればほぼ無傷の圧勝だったけど、緊迫感が半端じゃないくらいあった。

 全員当たれば弾け飛ぶからね。


「サイボーグ君が真下に誘ったのが最高の判断だったね」

「あざっす! ガトリング砲が撃てない位置を示しただけっす!」

「よくやったにゃ、わが配下よにゃ」

「あざっす! 上官に認められて最高っす!」


 じゃ、解体しますか。かんっぜんに忘れていたナノワイヤーでスパスパと切ってエンジンを取得。エーテル流せば破壊力は世界最強なんだよね。忘れちゃってたね。

 エンジンは異次元吸収クラスだったみたいだね。

 損傷させて動きを止めただけだから、修復すれば使える。

 売ればお金だ。


「ん、これは? 毒のシールが貼ってあるけど」

「ナノマシン用の毒じゃないかにゃ。普通ならそれを弾頭に塗布して撃ってたんじゃないかにゃーここは二百年前だから百年前の雑魚雑魚ナノマシンとは違うにゃ」

「なるほど、もらっていくか」


 最後の大物、大口径レールガンは丁寧に切り取って機構ごと多元宇宙バッグへ。エンジンと大口径レールガンでバッグがいっぱいだな。

 入りきれない金属や器具はどうしようかね。


「ナノワイヤーを十本で編んで切れないようにしたらどうにゃ?背負うのはサイボーグ君がやってくれるはずにゃ」

「任せてくだせえ! 五百トンくらいまでなら持てやす!」

「姉御は最強の時、二千トンまでは普通に持てたんだぞにゃ」

「すげえ、さすがっす姉御! 最強ナノマシン魔導生命体だけあるっすね!」

「ほら、編めたし行くよ」

 一応サイボーグ君が重さで切れないように、ミリの太さまで編んだし大丈夫だよね。漁網みたく編んだし。


「うっす、これなら持てるっすね」

「んじゃ帰ろうか。工場の方から帰ろう。自己ヒールとかあるかもしれないし」

「そうそうないと思うにゃ」


 とりあえず工場見学。

 ここは中間素材が作られているみたいだね。

 何に使うのかがさっぱりわからない。

 ナノマシン製品に使うことは分かった。うにょうにょしてるし。


 出口のところで宙に浮かぶ丸い球を発見。怪しいと思いながらも取る。

 特に何もなかった。何だろうこれ。山田社長か先生に聞いてみよっと。


 銀さんのクレーン車まであと少しというところでアラーム。バレたかー。

 まずは桜ちゃんとサイボーグ君をつり上げさせる。二人とも耐久力が無い。

 無数のナノマシン生命体があたしを追い詰める。全員黒髪で赤い目だな。脅しには十分なる。

 相手がレーザーを撃ってきたので自己ヒール、インスタントバリア、エーテルヒールを総動員しながらショートレールガンで掃射していく。

 そんなに回復力は無い。工場でいくらでも生産できるってやつ?


 銀さんのワイヤーが降りてきた。

 先端のフックを持ち思いっきりジャンプする。

 銀さんも対応し一気に巻き上げる。


 なにかが太ももに刺さった。まあエーテルヒールで……ん、なんかおかしい。

 生体モニターを開く。

 毒に犯されていた。

 ナノマシン毒か。

 三百年前の毒は全て抗体があるんだけど、ここ二百年前だもんね。

 だもんね、なんて言っている場合じゃない、毒が強いよこれ。

 身体が溶けていってる。

 引き上げられた時点で異変に気がついた桜ちゃんがサイボーグ君を待機させてスーパーカーで先生のところへ直行させる。


「大丈夫にゃ完ちゃん、先生が治してくれるにゃ」

「抗体持ってるかな」

「先生なら持ってるにゃ。しっかりするにゃ」


 エーテルヒールやエーテルリジェネートで少しでも溶けるのを遅らせつつクリニックへ到着。

 先生は見た瞬間「病院だ!」と叫んでスーパーカーに乗り込んだ。


「先生、こういう毒があるんだけど抗体に使えない?」

「……うん、これで抗体を作れるわけではないが抗体を作る時間は早くなる。病院ならナノマシンを注入できる機械もある。気張っていけよ!」


 このシティは車を持っている人が少ない。警官も堕落している。スーパーカーなら一瞬ですね。


 付いた瞬間「俺だ! 開いてるICU集中治療室ないか!?」といってICUに連れていく。そんなにヤバいのか、あたし。

 ICUに付いた途端消毒もおざなりに次々と管が刺されていく。

 ええーそんなにまずいの、あたし。意識はしっかりしてるんだけど。

 満腹状態の方がいいといって管から液体食料を胃にドバドバ流し込まれたし、ナノマシン注入器は胸に挿されました。

 心臓に近いところが良いって。

 無いんですけどねー、心臓。

 作ってまわせって怒られた。

 はい。


 抗体が出来上がってあたしに注入されるころにはあたしの身長は一メートルを切っていたらしい。首を動かせなかったので分からないが。

 完全に抗体がまわって溶けるのが止まったときの身長は……。


「六十センチ!? あたし今六十センチしかないの!?」

「ふっふっふ、にゃの逆襲がここから始まるにゃ」

「ぎゃ、逆襲って?」


 ここでこんこんさまと分離する桜ちゃん。


「この分離後の大きさでも完ちゃんは私より小さいってこと。ふっふっふ、なにをしようかねえ、こんこんさま」

「そうじゃのう、くすぐり地獄が開始には適しとるかのう」

「ひ、ひぃ。やめて、やめて、やめてください。やめ、あぁー!」


 しっぽもふったりみみ舐めたりしていることへの仕返しを存分とされました、存分と。




 ―――そんな中開催される機械の友情。――――


「あ、銀さん! お帰りなさいっす!」

「お疲れ様です。私がトラックになるので背負い物を開けちゃってください。重要物は完さんが持っていますよね?」

「あい、姉御が貴重品、あっしはジャンク品でやんす!」


 トラックになる銀さん。そこにサイボーグ君がジャンク品を載せていく。


「サイボーグさんも乗ってください。戦闘車工房でサイボーグの整備もおこなってますから、一緒にやってしまいましょう。ジャンク品なら私でも売却できますので」

「銀さん、ありがとうございやす!」

「同じ機械ですからね」

「うっす!」


 ――――二人の友情度が二十アップした! (そんな物はありません)――――――

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