第9話

 天井の扉を開け、降りる前に、弱いけどセンサーを起動し内部を見てみる。


「くっそー駄目だ。あたしのセンサーじゃ警戒網が見えないや。にゃーちゃん見られる?」

「にゃーちゃんじゃなくて桜ちゃんにゃ。今日ちょっと扱いがひどくないかにゃ」

「きつね吸いしたからちょっと酔っていて」

「こんな重要な作戦する前にあんなきつね吸いなんてするんじゃねえのにゃ。ま、にゃの『にゃのばいざぁ』から逃れられる警戒網なんてないのにゃ」


 そう言って左側頭部からニョキっとバイザーが生えてくる。左目を覆えば完成。桜ちゃんの索敵能力は五十三万です。


 顔だけ出してキョロキョロする桜ちゃん。しっぽをふさふさ振っている。これはチャンス。


「うん、この廊下には警戒網がなあぁぁぁぁぎにゃ――」


 叫ぶ前になんとか堪える桜ちゃん。あたしがしっぽの付け根付近にあるフェロモンと臭いを出す臭腺をスーハースーハーしたのだ。尻尾をモフりながら。


「こっちが本気でやってるのにお前何やってるにゃ」

「目の前にもふもふクンカクンカがあったらやらざるを得ない」

「おまえ一編死ね」


 しっぽにしがみついていたあたしに対して右足からの蹴り上げ。落ちてきたところに腰を落とした右ストレート。

 どちらも顔面にあたり、あたしの顔は吹っ飛んだ。

 ついでにあたしの顔を感知した警戒網がサイレンを鳴らし、無数のナノマシン生命体が出現し、レーザービームかな、それを放ち粉々にしていった。


 びくんびくん体が痙攣するあたし。


「死んだふりしてんじゃねえよ。エーテルリジェネート」


 一瞬で顔が治り、瞬速で桜ちゃんに土下座するあたし。


「すいませんでした!」

「あんまりふざけたことはするなよ」

「ウィッス」


 さあ真面目にまいりましょう。真っ先に私が通路に降りる。そして飛び降りた桜ちゃんを受け止める。


「どの方向へ行きますかねえ」

「推測だけど、稼働している工場だから工場内部はほとんど警戒されていないはずにゃ。不審者対策でカメラはあるだろうけどにゃ」

「まあそうかも。カメラに感知されたらバレるよね」

「そこでにゃの隠れ蓑を使ってカメラから隠れるにゃ。どうせ所々にしか配置されないからリスクとしては小さいにゃ」


 なんで所々にって分かるんだろう。桜ちゃんはたまに凄い勘が働くときがある。


「カメラ監視なんて時代遅れだからにゃ。普通は多数のドローンで警戒させるにゃ。ただここはドローンが損耗してなくなっているみたいだけどにゃ」

「そうか、こういう所のドローンって安いから回転翼だったり摩耗するパーツとか使ってるよね。二百年稼働していれば補修パーツもなくなるよ」

「運が良ければ廃棄場所が見つかるにゃね。完ちゃんうれし泣きだにゃ」


 そう、あたしはドローンを操る能力がある。一度体内に取り込んだドローンはあたしの中で変化し格納される。

 出現するときは最高級のドローンとして出撃するのだ。まあ、三百年前のドローンですけど。

 ドローンさえあれば偵察ドローンやアタックドローン、ディフェンスドローンに管制ドローンなど各種ドローンが飛ばせる。

 私は実験の完成機だから機能として持っている。一から四号までの機能は一通りあるのだ。

 桜ちゃんのはほとんど出来ないけど。こんこんさまの能力、質が違いすぎる。

 こんこんさまから分離したときの幼女桜ちゃんなら……うふふ、食べちゃいたいなあ。


「なんか変なこと考えてるにゃ。ほら、早く抱き上げて進むにゃ。方向はどっちでもよいにゃ」


 といってぴょーんと私に飛び乗る桜ちゃん。前側で受け止めて抱きかかえる。軽いなー。

 念のため常時隠れ蓑を使うみたいだ。隠れ蓑は全ての光線から身を隠す魔法で、桜ちゃんの得意技。

 こんこんさまの力を使うから、桜ちゃんしか使えない。


「隠れ蓑使ったにゃ。にゃはこのまま抱きついて後方を見るから、完ちゃんは前を注視してほしいにゃ。しらみつぶしに部屋を漁るにゃ」


 にゃさんは後ろを見るが、あたしは下を見る。ピーンと張ったしっぽが見える。もふりたい、もふりたい。

 しかしここで頭を吹き飛ばされたらさすがにまずい。

 そっとみみを触る程度で我慢しておいた。

 にゃさんも警戒モードなのであまり気がついていない。

 時折「おみみもむにゃ!」といって首筋に噛みついてくる。幸せじゃん。

 至福な時を過ごしながら部屋を調べていく。昔のレーザー銃すらないな。

 これは外したかなーというとき、とある部屋でなにかをおきつねセンサーが感知した。


「ここはキッチン、だね」

「にゃを降ろすにゃ。さがしてみるにゃ」


 桜ちゃんを降ろして、桜ちゃんが四つんばいになって探索し始める。

 どう見てもきつね人間である。はぁん、しゃぶりつきたい。

 とかなんとか思っているうちに桜ちゃんが何か見つけたようだ。


「なんかあった?」

「ナノマシンプラスチックでパッケージングされた香辛料にゃ。二種類二十枚出てきたにゃ。完ちゃんの無限記憶で照合できないかにゃ?」

「どれどれ、ふーん。これ……は……」

「なんなのにゃ?」


 背筋がゾクゾクしながら答える。


「パッケージの裏を見ると、古い言語だけど恐らく地球産の香辛料だよ。輸入星:地球。品名:生黒こしょう。と。品名:塩漬け生黒こしょう。って書いてある。十枚ずつだね」

「地球の、香辛料……!?」

「これだけでもここに来た甲斐があるってもんだよ。売れば大金持ちだ。どれくらいあるんだい?」


 桜ちゃんがえっちらおっちら数え始める。量がありそうだ。


「十枚にゃ。一枚三百五十グラムはありそうにゃ」

「三百五十グラムくらいってーことは全部で七キロもあるのか!? 業務用の量じゃねえか!」

「そういうことにゃ。にゃのばいざぁで数を調べてみると、一パック五百粒くらいあるにゃ。このシティの支配企業に売り付ければ大金持ちにゃ」

「フィニッシャーに出会う道が開けた! 他にもないかな」


 ごそごそと探す。駄目になっている香辛料が続々と出てきた。


「香辛料はさすがに二百年は持たないもんだねえ」

「ん、異次元空間があるにゃ。ごそごそ。ニャンだろうこれ、黄色い粉にゃ」

「クンクン、成分分析……ナツメグだ!黒こしょうと合わせて肉料理に使うと最高に美味しいって教授が言ってた! でもこれは駄目だね、劣化している。それでもすげー美味しそうな香りがするけど」

「完ちゃん吸い取れないかにゃ。結構な量が異次元空間に入ってるんにゃ。他にパッケージもありそうなのにゃ」


 よしとばかりに右腕挿入。多元宇宙のバッグで中味を吸い取った。あたしの多元宇宙バッグは特殊だからね。


「パッケージが4つ出てきたよ。ナツメグのパッケージと、んーと、に、に、ニンニクのパッケージ、ショウガ!? のパッケージ、ほほほほ本ワサビもあるうう!!」


「パッケージに偽りなければ香辛料で大金持ちにゃ!! やったにゃ! すごいにゃ!」


 正確な確認はいまじゃない。

 ルンルンでキッチンを出る。


 外にはアメンボ型の天井にくっついているロボットと足がキャタピラ両腕がガトリング、アームが付いた……防衛兵器だな、それらがずらりと並んでいた。

 コワイ。香辛料に気を取られていて気がつかなかった。迂闊。

 隠れ蓑を使っていたけど、強度を上げる。


「匂いは外に漏れていないようです」

「掃射開始」


 その号令とともに銃弾が土砂降りの雨みたく降りキッチンが蜂の巣に。一般人なら死んでるよ。


「香辛料の具合を調査せよ」


 防衛兵器が号令をかける。アメンボ型がガッションガション動いて香辛料があったところを確認。


「黒こしょう香辛料、ありません。ナツメグ香辛料、ありません。ニンニク、生姜、本ワサビ、ありません」

「取られたか。総員戦闘配備。香辛料を追え」


 といってガッシャーンガッシャーンキュルルルルルルと歩いて行く、なんだろ、香辛料専門ガードロボットたち。


「とりあえず数体破壊しておくか」


 ナノワイヤーを引き出しアメンボ型のロボットにワイヤーを仕掛ける。

 アメンボ型が見えなくなったところでワイヤーを締めて機能停止に追い込む。

 今すぐに爆破させたら緊急戦闘配備とかされちゃいそうだからね。


 さて、その間に違う部屋へ逃げ込む私達。

 三メートル級の重サイボーグが鎮座していて、栄光の数々が並んでいる。言語が二百年前のなのでちょっと読みにくいけどそう書いてある。


「こいつはこの会社のハイエンドだったみたいだね。ワンオフ機で終わっちゃったけど」

「なにか取れないか探してみるにゃ。足の代わりに付いているこの車輪とか」


 そう、こいつ二足歩行じゃないんだよね。二足歩行は膝に矢を食らうと動けなくなっちゃう。

 だからこいつのように膝から下が全て車輪というのも方法としてあるんだ。

 脳も胴体の強固な部分に入れたりね。


「あー姐さん、それ気持ちよいっす」

「ん、そうかにゃ? じゃあ少し電流とナノマシンを流して古い回路を新品同然にするにゃ」

「まってにゃー助太郎、喋ってるのその重サイボーグだよ」

「……はにゃにゃにゃ!? 敵かにゃ!?」

「いやいや、ただの老いたサイボーグっすよ。百八十年間ここでぼーっとしていたんす」


 あんまり敵意なさそう。


小さいきつね娘姐さん大きな女性姉御、ナノマシン生命体でしょ? 敵うわけないっすからね。そもそも何かをしても意味がねえっす」

「いつから起動していたの?さっぱりわからなかった」

「ああ、起動のオンオフが無いんすよ。ずっと起動しっぱなしです。エンジンは無限エネルギーに三段ターボ付けたくらいだから分からなかったっすかね?」

「よわ。重サイボーグなのに無限エネルギーレベルなんてよわ。無限、永久機関、異次元エネルギー吸収、因果律崩壊、多元宇宙エネルギー吸収ってレベルがあるけど、一番最初なのか」

「実戦に出す気はなくて技術の結晶としていろんな場所を練り歩いてましたからね。無限三段ターボで十分だったんす」


 そんな話をしていると、桜ちゃんがふらふらしてきた。


「ごめん完ちゃん。限界だにゃ」


「ああ、そうだね。少し休憩しよう。サイボーグ君、入り口を見張ってもらってもいいかい」


「いや、あいつらは見えないところは見ないっすから、この展示物を積み重ねて……よしっと。出るときは破壊していきましょう」

「お前自分の栄光とか気にしないのな」

「いや、栄光も何も役割終わったらここに捨て置かれたんすよ、こんなのただの道具でしかないっす」


 ぽふんと桜ちゃんとこんこんさまが分離する。


「おおおおお、なんすかこのかわいい幼女とかわいいきつねは!? 姐さんどこいったんですか!?」

「姐さんはそこ。たまにおきつね様と分離して休まないといけないのよ」

「はーそうなんですか。合体ってなんか男心に燃えるっすね」

「そうかねえ。 休憩が終わったら次に進むわよ」

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