第8話

 エージェントはフィニッシャーと呼ばれ、企業などからは独立した存在であることが多い。

 武器屋のように何らかの形で提携しているフィニッシャーもいるみたいだが。

 無論、フィニッシャーの中にも格があり格が高いフィニッシャーほど良い情報を持っている。

 あたしたちはどのレベルのフィニッシャーと会えるのだろうか。


 と、言う前にツテもないしお金もないんだよね、あたしたち。

 フィニッシャーに会うためにバーの店長に支払う仲介手数料が数万ゼニ。

 フィニッシャーに会うためだけのお金が数万ゼニ。情報を買うのに数万ゼニ以上。

 あたしたちが今持っているお金は武器開発に使うために動かせないんだよね。

 あたしの損傷している機能の復活にも必要だし。これは後回しで良いけど。

 二ヶ月くらい働くしかないのか……。長いようで短い、短いようで長い。

 特殊な保存方法なので、それを維持して移動するのはかなり準備が必要と考えているけど、実験機が外のシティに持ち出されていてもおかしくない。


 あーもどかしいもどかしい。とりあえずは武器の装着をしないとね。なにも出来ないからね。

 おやっさんの所へ行く。おやっさんは今日もつるっぱげだ。


「どうも、おやっさん。武器が出来たらしいね」

「おう、試作品というか完成品作っちまったぜ。調整すればすぐ使える」

「何作ったのよ」

「まー装着してみな。んじゃこれとこれとこれとこれ。4つ作ったから自分で馴染ませてくれや。ナノマシン魔導生命体なんて扱ったことねえからな、装着方法なんて知らねえよ」


 それもそうだよな、と思いつつ装着を開始する。

 これは、レールガンのレールか。肩まであるな。

 レールガンがしまわれる前に接近して殴るから右腕だな。

 装着すると、うにょうにょというわけではないが、右手の中に潜り込んでいった。


「……これは?」

「知らん。内部武装と認識して取り込んだんじゃねえか?」

「知らん物を売りつけるなよ」

「ナノマシンで弾種を作り、エーテルで加速し発射するレールガンだ。弾種は一五ミリくらいまでは撃てると思うぜ。なんと、肘までだけ出現させて速射性を高めたショートモデルもあるんだ。調整させてくれよな」

「お願い話聞いて」


 うにょうにょしてみたら、ウニョウニョと出入りしてくれた。

 色は白に置き換わっている。既にナノマシン製になっているのだろう。

 ちゃんと発射する弾の大きさによって砲身の大きさが細かく変動する。

 うん、完璧な再現だ。


 発射速度は弾種を作成する速度、つまりナノマシンパワーに依存するらしい。

 これは良い武器だね。もう遠距離が無くて困ることはない。ナノマシンで作ってエーテルで加速したのであればマッハ四くらいは出るんじゃない?知らんけど。


 次、ブレード。デカい太い。腕の場所までしか伸びてない。


「これ、刺せないし斬り付け出来なく無い? シールド?」

「レールで移動して前に出る。腕だけとはいえかなりデカいぞ。刃はエーテルを発生させて作る。世界最強エーテル持ちなら何でも切れるだろう。やろうと思えばシールドにもなるんじゃないのか?」

「なんじゃね? って、作ったのおやっさんでしょう」


 これも取り込む。レールガンと干渉するので左腕だ。こういう武器は手首の返しが出来ないから両腕に欲しいところだが……しょうがない。

 レールはあるんだがデカい太いごつい。取り込んでも反対側に突き出るってことは無いんだよね。

 というかこの巨大武器が普通に取り込まれていくのを見ると、あたしの身体って何だろうって思う。

 こんな実験したっけ?

 自分の身体ながらちょっと不思議だなー。

 桜ちゃんならこんなこと出来ないはず。まあ彼女の合体は誰も真似できませんけど。

 はーかわいいよなあ。今日は無理やりでもきつね吸いさせてもらおっと。


 で、出現させてみる。これも真っ白に変色されていた。

 一生懸命ブレードを作ってくれたおやっさんには悪い気がするが……。

 前に出してみると、にょきっとその瞬間に移動というか腕の先まで生成している感触があった。なので腕のブレードはそのままだ。

 縁はエーテルで彩られている。切れるねこれ。

 エーテルを込めると緑色に光る。

 エーテルの色はいつだって綺麗だな。


「お前を殴ったら防御された瞬間に切れちまうな。後はグレネードランチャーとナノワイヤーだ。どっちもとっておきだぜ」


 グレネードランチャーは腕の途中から折れて吐き出す機構ということで左腕に装着。

 剣戟しながらグレネードランチャーを撃つよりも、レールガン撃ちながらグレネードランチャー撃つ方を選択したわけだ。

 弾丸は私のナノマシンが生成する。

 スペック上は四〇ミリグレネードまで対応。

 でも、弾種によって腕が大きく太くなるっぽくて、もっと大きなものでも射出できそうな感じだ。

 おやっさんは知らないで開発したが。

 グレネード以外にも各種弾薬が扱えるそうだ。

 おやっさんが気まぐれにそうしたらしいが。雑……。


「最後のナノワイヤーってのはな、ナノレベルまで細くしたワイヤーだ。とんでもない切れ味ととんでもない耐久力を誇るはずだ。ナノマシン魔導生命体ならナノマシンとかエーテルとかで色々なことが出来るだろう多分。これは両手の指全てに装着する」

「試してないわけね」

「まあ俺ナノマシン生命体じゃないからな」


 とりあえず付けてみる。んで、人差し指から一本出す。

 ほー、自分の意思でくねくね曲げられるぞ、地面に落ちずに。

 試しに自分の腕を輪っかにしたナノワイヤーで縛って切ってみる。

 すーっと切れた。


「何やってんだお前!?」

「実験よ実験。すぐ治せるから気にしない気にしない」

「気にしねえ人間がいるかってんだ!!」


 すぐにエーテルヒールでくっつけて事なきを得る。

 あたしらって自己ヒールもあるし、自分の手が千切れるとかで驚いたりしないけど、人間は驚くんだよね。

 まあそりゃそうか。

 ナノワイヤーを試しに粘着性にして一本だけ天井に張り付け、自分を引っ張ってみる。

 すご、全然余裕で自分を引っ張れた。

 引っ張ったのはナノマシンパワーかな。

 エーテルも通せそうだ。


「でもこれは凄いね。十本を扱うのは大変そうだけど頑張ってみる」

「おう、大切にな! 壊れたらまた来いよ!」


 ナノマシンが取り込んだ以上自動修復がされると思うけどねー。

 謝礼二十万ゼニを支払って、またなにかお願いするー、とだけ言って去る。


 はーお金すっからかん。また貯めないと。一気に儲かる方法無いかなあ。

 悶々としながらフィニッシャーを紹介してくれるバーで飲んでいると、店長がフィニッシャーのことは紹介できないがこれなら、と、噂話を教えてくれた。


「ここのシティには常に動いている工場があるだろ。あれは二百年前に作られた工場で、中には金銀財宝のお宝が眠っているらしいぞ」

「もう盗掘されきっているのでは?」

「いやいや、あそこの警戒網は凄くてねぇ。その警戒網をくぐり抜けられるやつはそうそういないよ。今は挑むやつもいなくなったが、挑んでいた時代はナノマシン生命体が迎撃に出てきたと言っていたか。一見何も無いように見えるんだが、かなりの難易度みたいだ」


 ふーん。

 たまに無人トラックが来て何かを積み込んで去って行ってるのは知ってるけど、そんな噂話があるんだね。

 無人トラックは強襲するほうがバカみたいな、重武装が施されているけど。

 噂話だけど話しに乗っかってみようかな。工場に潜入してみよう。手っ取り早くお金を稼ぎたいんだ。


「というわけで侵入しに来ました」

「展開が早いにゃ。にゃの同意を取り付けてないにゃ。にゃのじごくのきつね吸いの話しはどこ行ったにゃ。あのきつね吸いはひどかったにゃ。なんて言ったって――」

「――工場の屋根は警戒網が無いようなので、そこから侵入するよ。銀さんのクレーンで吊してもらう。クレーン車になってもらったからね」

「にゃは無視かにゃ」

 そう、入り口以外、崖が周りを覆っているのだ。

 そんなに広くない工場だからかなあ。

 あえて工場が小さくなっても守りやすい土地を選んだのかなあ。

 謎である。


 とりあえずクレーンで降ろしてもらう。

 屋根は埃もなく綺麗だった。降り積もった埃もない。なんか働いてるんかね?

 屋根を調べると下へ通じる扉があった。ラッキー。

 それじゃあ室内に入りましょう!

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