第6話

 二ヶ月目も順調順調。

 都市間輸送も二回こなした。


 そして三回目である。二回起きなければ三回は起きないってね。


「んー、あたし都市間輸送に要らないかな。ピピーて指示飛ばすだけだもん」

「結局にゃたちは事務要員じゃなくて襲撃から守る要員だからにゃあ。射撃が出来ない完ちゃんは特に必要ないかもしれないにゃ」


 ぐさっ。

 桜ちゃんは正直者だからたまに無情なことを言うね。


 そんなことを喋っていた輸送中。襲撃が起こった。


「うそ、先頭二車が即座に大破!? まだ敵見えてないよ!? 何使ってるんだ相手は! あたしが出て殲滅します、無線で全車引き返し要請を! これ以上進んだらどんどん被害が出る!」


 といっている間に三車目が大破。大破しているからスピードが下がってうちらが追い抜くんだけど、見た感じ全部エンジンを狙われて壊されてる。


「事務員さんから無線返ってきました。速度が出ているから戻れないようです。大破したトラックは後で回収するとのこと。前に出て護衛を頼まれました」

「分かった、行くよ銀さん!」


 急加速で一気に前に出る。集団から外れ、予想される敵位置の所へ。そこに見えるものは。


「あれは……戦車! なんで戦車持ち出してきてんだ!? クランにそんな戦力あんの!? まず戦車を無力化させます! 完、出ます!」


 といってトラックの窓から飛び降りる。完さんと桜は後ろから援護射撃を始める。


 そこからダッシュ。だいたい二から三キロメートル先だ。

 この星のマッハは時速二千百三十四キロメートル。秒速五百九十二メートルだ。地球よりも重力とか空気の粘りが違う。

 マッハなんて余裕で超えられるが衝撃波が凄いのでさすがに出せない。

 時速二千キロメートル程度で一気に近付く。早くて三から四秒後。


 戦車砲が飛んでくるのが分かる。あっちはマッハ三から四で飛んでくるからな、ずるいもんだ。

 一発目は簡単に避ける。私の予想直線上に砲塔を合わせりゃな、整った瞬間撃つって分かるよ。

 でも三百年前より弾速が速い! マッハ五くらいか!? 先生は百年前の戦争で性能制限されていると言っていたけど、それはナノマシン関連だけか?


「なんで避けられるんだよ糞が!」


 という声を拾う。赤いやつだ。そうか、あたしを狙ってきたのか。あたしのせいであれだけ大破したのか……。


 二発目が飛んでくる。顔に直撃する。

 想像以上に装填速度が速かったのだ。これが三百年の技術差か。

 後ろに吹っ飛ばされるが無傷だ、あたしの堅牢さを舐めちゃいけない。実戦式戦闘訓練では戦車砲なんて食らいまくっていた。


 が。


 自己ヒール喪失と生体モニターが告げる。

 まっずい。

 これ以降戦車砲食らったら粉々になる。

 ナノマシンが自己を認識できないからナノマシン間の繋がりが弱い。強い衝撃で崩壊しちゃう。

 自己ヒールは自己を自己と認識する力とでも言おうか。

 まあ粉々になる前に無力化するしか方法が無い。するしかない。やらねば!


 三発目を避ける。二発目の発射間隔を掴んでいるのだ、そう簡単に当たってたまるか。


「へ、砲塔にとりついたところで何も出来ねーだろ、ばー……かかお前! 戦車の砲身を曲げるだとぉ!?」


 実戦式模擬戦闘ではこれをよくやっていた。とにかく曲げちゃえば撃てないのだ。

 ひっついてよいしょって背筋使えば曲がる。

 これは今衝撃一つで崩れてしまうナノマシン君たちも協力してくれる。強い衝撃じゃないからね。

 良い鋼材を使っているのがほとんどで、砲塔が折れた戦車は見たことないなあ。

 まぁ、曲げたら上部に付いているヘビーマシンガンと同軸機銃しか撃てない。

 それじゃああたしには傷一つ付けることは出来ない。今は出来るけど。

 こんなの邪魔だからもぎ取っちゃう。ぽき。



「これで赤いやつ君と一対一か」

「へ、戦車を無効化するやつと相手取るってわけか、やぁってやるよぉ!」


 赤いやつはエーテルマシンガンを撃ち始める。

 二回目のまっずい。

 エーテルマシンガンはかなりの連射速度を誇るエーテル魔法だ。

 普通の武器ならガトリング砲と言っても良い。エーテルガトリングってのもあるんだが。

 衝撃力も高く、当たると動きにくくなる。少なくともマッハ近くでの行動は出来ない。


「なんだなんだ、さっきまでの余裕はどうしたぁ? どんどんナノマシンが減っているぞぅ? 自己ヒールでも喪失したかぁ? はっはっは、どうにもならねえだろ」

「さてどうだかな。あんまり喋っていると不意を突かれるぞ」


 エーテルヒールを断続的にかけて自分の身体をたもっているが、ナノマシンが飛び散っているのは本当だ。

 エーテル量は膨大にあるので無くなるとは思えないし、このくらいの飛び散り方ではナノマシンがなくなるとは思えないが、相手のエーテル量が分からない。

 センサーさえ生きていれば……。


 とりあえず左右に飛びマシンガンに当たる量を減らす。

 接近すると出たらめ撃ちでも当たるため接近が出来ない。

 当たると止まってしまうのだ。普通の銃なら衝撃も何もかも無視して殴れるけど、魔法だからねえ。

 痛みは機能切ってあるからないんだけど、どうしても止まっちゃう。


 うーん、逃げるか。


 と、手詰まりのあたしにとんでもない砲弾が飛んできた。

 それは暴力的な神の砲弾で、ナノマシンとか関係なく消滅させる砲弾だった。


「な、なんだこの砲弾。俺様のナノマシンを自己ヒールも防御エーテルも関係なく吹き飛ばしやがる。こんなの聞いてねえぞ」

「これは四十ミリ魔導ガトリング砲。徹甲弾かな。銀さんだね、助かった。おい赤いやつ、あたしにも射撃が来たぞ、世界最強の射撃がな」


 四十ミリ魔導ガトリング砲ってのは本当に暴力的で、戦闘訓練では破壊できないやつは一体以外いなかった。戦車もぶち壊していた。


「いいか赤いやつ、元々は航空地上攻撃機に積まれていたのが三十ミリ魔導ガトリング砲で、これでも戦車を破壊していたんだ」

「これはそれを拡大強化したガトリング砲にゃ! ナノマシンでも粉みじんにしちゃうにゃ。完ちゃんのような最強機体でも粉みじんにゃ。君なんか話にならないにゃ」


 いつの間にか私の隣に来てエーテルリジェネートをかけている桜ちゃん。まだ何カ所も貫通している部位がある。痛みの機能切っておいて良かった……。あ、穴だらけの洋服も直ったよ。


 ビイイイイ、と四十ミリ魔導ガトリング砲の作動音が鳴るのと引き換えに、赤いやつは断末魔をあげることも出来ずに、完全に壊されて溶けていった。ナノマシン生命体は身体が保持できなくなると普通のナノマシン集合体――液体とか砂とか――に戻っちゃうのよね。

 それがナノマシン生命体の死になるかな。


「来てくれてありがとう、桜ちゃんと銀さん。でも、荷物とかはどうしたの? 集団は無事なの?」

「無線で社長が全部捨てて助けに行けって言われたので荷物全部捨てて駆けつけたにゃ。スーパーカーでぶっ飛ばしたにゃ。変身が間に合って良かったにゃ」

「さすがに歩兵戦闘車じゃないと四十ミリは放てませんからね。戦車も破壊しておきます。鋼材は鉄工所で売り払いましょう」


 放心している私を余所にテキパキと動く二人。赤いやつのナノマシン取得したり、戦車破壊したり。


「あ、宝石が二つあったにゃ。またわけてのもーにゃ」

「戦車を破壊したので鋼材を後部兵員室に積んでおきますね。積めるだけですが。どうやら五十五トン級戦車なので履帯でパワーを存分に出せる歩兵戦闘車じゃないと運搬は無理ですね。いやーしかし、桜さんが作ってくれたこのアーム便利ですね」


 あー、赤いやつとの因縁もここで終わりか。自己ヒール、とりあえず買える中で一番良いの買おう。弱くても、ないと吹き飛ぶ。


「銀さんの後方上部に変形でカーゴ取り付けるにゃ。戦闘するわけじゃにゃいから前だけ向ければいいのにゃ。それで全部の金属積めるにゃ」

「百二十トンくらいの重量になりますね。アスファルトが相当傷みます。ナノマシン自己修復式道路ならよいのですが」

「完ちゃんが同化式ナノマシン垂らしながら進めばいいのにゃ。のんびり行こうにゃ」


 というわけでのんびり帰還。被害が出たので少しの間輸送はお休みに。修理しないとね。

 手に入れた戦車の鋼材は鉄工所じゃ売れなくて、戦闘車工房に売ることになり、あたしが戦車と百年以上前のナノマシン生命体を撃退したという情報はシティを駆け巡った。

 なにが変わるかわからないけど、山田さんの運送会社にちょっかいを書けてくる企業はいなくなっただろう、と推測は出来るね。


 自宅待機が出たので本当に自宅で待機する我ら。成長要素ってナノマシン魔導生命体には少ないので、遊ぶかぼーっとするかしかやることがない。今はお金貯めたいから遊びにくい。


「はい、完ちゃん」

「なに? って宝石か。桜ちゃんは飲んだの?」

「エーテルマシンガンが出ましたにゃーにゃはにゃは」

「なん……だと……」


 あたしがエーテルマシンガンを持てば、あたしがエーテルマシンガンをもてば……。

 歩兵戦闘車をも破壊するマシンガンになったのに。


「運が悪すぎる。桜ちゃんは他にも遠距離持ってるのにぃ」

「ま、まあまあ。完ちゃんも飲んでみるにゃ。エーテルロケットランチャーとか手に入るかもにゃ!」

「そんなエーテル魔法無いよ。飲むか、ゴクリ。インスタントバリアだって。まあ今防御は大事ではあるけど」


 やったにゃやったにゃバンザイバンザイ、とばんざい音頭をしてくれる桜ちゃん。しっぽふりふりでかわいい。食べたい。

 まあ、悪くない魔法だけど、どうしても桜ちゃんのエーテル魔法がうらやましかったあたしでありました。

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