第3話

 ゴミ捨て場に落ちていたマップを読んでみたんだけれども、三百年で言語が変わっていて全く読めない。

 ゴミ捨て場に捨ててあった新聞を見て見ても全く読めない。

 まずは読めるように、喋れるようにならないとどうしようもないなあ。


「三百年の月日はデカいねえ」


 困惑していると気のよさそうなおじさんが近付いてくる。


「どんきゃうのぺおぽぽ?」

「金属を売りたいんです、金属を」


「へぶ?」


 こっちに来てと合図し見せる、ピックアップトラックにつまれている大量の金属。


「がるがさ、ほぼべべ?」

「言語がわからないんですよね」


「ほぼべべ?」


 ジェスチャーでこれを売ってお金を手に入れるサインをするオッサン。

 ほぼべべが売りたいかな?


 首をコクコクと頷き「ほぼべべ」と返す。

 こちらに来いと合図を出されるので付いていく。


 個人の鉄工所みたいなところだった。買い取ってくれるのかな?


 これまたじいさんが鉄工所から出てきてゴモゴモ言っている。聞き取れるんだがなにを言っているかわからない。


 ここの店主が金属を見せろとジェスチャーで言ってくる。言う? 表現する? まあどちらでもいいか。


 ピックアップトラックに乗せた金属を見せる。店主が履帯を持とうとしたが無理だ、数トンある。


「ほぼべべ?」

 と問う

「ほぼべべ」と帰ってくる。


 よし、交渉は成立だ。売ってお金にして貰おう。


 ピックアップトラックから降ろす準備をしていると、「ほりあゼニ、OK?」と言われた。

 ゼニは日本銀河帝国の共通金銭単位だ。ほりあってなんだ? OKは現役なのか。


「ほりあ?」

「ほりあ。ぽむ」


 すると一枚のコインを渡してきた。どう見ても銅貨だ。

 コインに指をさす。


「ほりあ」


 握手を求められたのでサッと左手を見つめる。

 左手の手のひら中央にPDA――個人情報端末。とんでもなくすげえスマホみたいなもん――がついているか確認する。あるな。

 PDAがあるならキャッシュレス払いが普通だ。

 銅貨一枚で受け渡そうってのか?




 よーし分かった、こいつころそう。それが一番だ。




 まずはこのオッサンを思いきりぶん殴る。

 銀さんに「撃て!」と合図を送り、二十ミリガトリングガンが火を吹く。工場は粉みじんである。


 一発の跳弾がオッサンに当たり、オッサンの足が飛ぶ。


「ああっへは! あえは!」


 私は飛んで行った足を手にすると、オッサンの損傷部へあてがい、きれいに治してやる。自己ヒールは他人にも使えるのだ。

 治ったよっと、にっこり笑う。


「なうなおねぽむい!?」


 いったん左手と左手のPDAを合わせる。なんでもわかっちゃうので恥ずかしい行為なんだけど、まあしょうがない。


 目と目を合わせて「ほぼべべ」


「ばりぶ! ぼりぬべあ!」


 なに言ってるかわからん。

 しゃーねーなー。銀さんの所まで運び、銃口に口をぶっ刺す。


「ほぼべべ」


 というと、やっと送金してくれました、一万ゼニ。この量の金属で一万は舐め取るな。


 手のひらにちょこんと座っているPDAを再度接触させる。

 現金と当座預金をガンガン探る。二万六千五百七十八ゼニほど回収できた


 桜ちゃんが家の中から出てくる。


「ふっふーん。1万ゼニの現金PDAチップ回収しましたーにゃ」

「うう、桜ちゃんが犯罪を犯すのは心が痛む」

「中からブツを盗って来いって言ったのはあんたにゃ」


 現金PDAチップと、この家にあったマップをPDAに取り込んで空中投影型ディスプレイに表示し、鉄工所を探す。もうおっさんたちは知らない。放置である。


「うーん、ここかな?鉄を運ぶサインが書かれてるにょ」

「まねするにゃ。そろそろ一回にゃの狐火で全裸になってもらおうかにゃ。よし、いくぞ、わが銀ちゃんよ!」


 勇ましく家を出る私達。ボロボロになった家? それがどうした、知るか。


「先にトラックになっていいですか。追っ手をまけますし、何より重く感じないです」

「あ、ピックアップトラックでも重かったですか」


 桜ちゃんが魔導力を入れ、銀さんが変貌していく。

 ナノマシン溶液を入れても変身はするけど、魔導力を注入した方が早く変身できる。


魔導力がなにかはちょっとあたしではわかりませんね。桜ちゃんに聞かないと。エーテルでもないんだよね。エーテルならわかるんだけど。


 クレーン付きの7トントラックになった。鉄工所でクレーン使うんかな。

後部座席が無いシングルキャブなのでちょっと狭いけど、トラックなんてそんなもんだ! 鉄工所までぶんぶーん!


「げんご通じるかにゃあ」

「通じなくてもなんとかなる方法ってのはあると思うんだよね、移民が多ければ、こういう職に就く人多いから」


「移民は喋れる人が少ないってことにゃ?」

「バリバリ喋れる人ならスクラップ集めせずに企業に雇用されてるってことよ」


 鉄工所についた。トラックが並んでいる。

 鉄工所のにーちゃんが車のドアをノックする。


「じらきん、おるど?」

「おるど? ほぼべべ?」


 案内のにーちゃんはあっちゃー、面倒だなこれはと言う顔をしながら紙を差し出す。


 紙には読めないが、絵で、左から右に材料、右から左にお金というのが描いてある。


 また左から右に材料、右から左へお金、という絵も描いてある。


 なるほどなるほど、《おるど》はか。はぼべべはなんだったんだろう。

 まあ少しだけ学ばせてもらおう。


 下を指さし「おるど?」

 にーちゃんは指をチッチッチッとさせ、「どら、かうす。おるど、どら」と喋る。


《どら》は、《かうす》はか。


 「どら、おるど」といって売ることを示し、お兄さんを指さし、桜ちゃんと二人でありがとうーとバイバイのジェスチャーをする。

 お兄さんは顔が赤くなり。


「どういたしまして」

 といって手を胸に当て合掌してお辞儀した。


「ここら辺は変わってないにゃ」

「挨拶は三百年じゃ変わらないんじゃない?」


 やることは簡単で、鉄の材質を軽く調べ、重量を量り、現金――PDA個人の当座預金口座に送金だよ!――にするというだけ。


 結構高く売れて、一十五万ゼニくらいまでお金が増えた。

 ついでにクリニックの名刺をもらえた。

「一十五万ゼニくらいまで一気にお金が増えたね」

「焼き肉パーティにゃ!」

「そのまえにねぇ、言語を買わないといけないんだよ。現代言語プログラム。移民向けに絶対あるからね。私達の時代でもあったよ、実際にインストールして学んだもん」


「そんなお店どこにあるのにゃ?」

「プログラムインストール専門店。別名クリニックだね。病院でもやってるはずだけど今はどうだろ。場所もわからないし。クリニックは名刺を取り込んであるから場所もわかる。明日いこう」


「善は急げだにゃ! 今行くにゃ! クリニックってのは夕方暇になるのにゃ!」

「あーれー」


 というわけで連れてこられましたクリニックです。

 きれいな場所ですね。一日三十時間の星なのでギリ間に合ったかな?

 ちなみに桜ちゃんが言うには十日間で一週間、三週間で一ヶ月、七十二ヶ月で一年なのは変わってないそうだ。

 ドアを開ける


「どるあーぱぱんせでなんか?」


 きれいなアンドロイドおねいさんだ。


「あー、おるど、かうす、どら、」


 といってPDAに取り込んだ名刺をポップアップディスプレイに表示して、このクリニックを拡大させる。


「あーあーあー、かすらぱんどりあ。えーと」


 パンフレットを見せながら説明してくれる。


「どら、かすかす」


 低い低いと手で表示する。


「どら、たらたら」


 高い高いと手で表示する。

 うーん、どれくらいがいいんだろう。


 思い切ってPDA残高を見せ、三人分ということで三本の指を見せながら――銀さんも読み書きできないとキツいからね――


「どら? かすかす? たらたら?」

 と聞いてみた。


 おねいさんはおおーという顔で、「どら!」と一番高級なプランを三の指をだして示してくれた。指数字って通じるもんだな。


 よっしゃー、なんとか言語問題は解決しそうだぞ。

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