第2話
この砂漠の中、車が無いと移動できないね。ということから駐車場へ行くあたしたち。
その駐車場には……。
「なんもないにょ」
「にゃをまねするにゃ。砂漠化する前に知能を持った車は全部いなくなってるのかもしれないにゃ」
それでも動いていない車があるので一台一台探してみる。修理できそうなら修理しよう。
「あー銀さん動いてないのか。寂しいね」
「常に銀賞を取っていたから銀さん。懐かしい感じがしないにゃ。寝ていたからつい昨日のことに感じるにゃ」
銀さんとは常に模擬戦闘訓練で銀賞をもらっていたナノマシン魔導超大型歩兵戦闘車である。
戦車を圧倒する火力と機動力で、毎回銀賞を取っていた。だから銀さん。
すると砲塔についていた二十ミリガトリング砲がこちらを向く。
「お、銀さん動いてる?」
「どうもこんにちは。動いていますよ。魔導車なので一応永久動作のエンジン積んでますからね」
「銀さんおはようにゃ! サビだらけにゃね!!」
「三百年ここにいましたからね」
銀さんに乗られれば砂漠も走れるなあ。履帯――戦車の移動するために付いているキュラキュラしてるやつ――なら砂漠でもスタックしない。
「銀さんなんでここにいるの? 特に理由がないならあたし達と一緒に実験機を助けに行かない?」
「実験機ですか?」
銀さんに事情を伝える。かくかくしかじか。
「なるほど、それは深刻だ。動きたいのですが、履帯が切れていて。エーテルヒールなら治ると思うのですが」
「八輪装甲車とかにはなれないのかにゃ?」
「三百年の放置でデータが損耗してしまって。一度見た車ならなんでも変形できると思うのですが」
そう、銀さんは制限はあるけど、他の車に変形することが出来るのだ。ナノマシン魔導兵器だからね。
重量も自在に変えられる。小型化も出来るよ。
当時最先端の車両だったわけ。
軍用車両にはデータを手動で入れないとなれないんだっけかな。
ま、そんな感じ。
「そっか、じゃあシティに入るまではこのでっかい身体のままにゃのね」
「そうですね、町や都市に入りさえすれば車も走っているでしょうし、すぐに変形が可能となると思います」
「さて、エーテルヒールだけど、あたしも桜ちゃんも持っていないな……。そうだ、整備工場に行って履帯を付け直そうぜ! あたしなら引っ張れるし。ずりずりーっと」
よいしょっと背中に背負い、重量で沈む砂地やアスファルトを進んでいく。
銀さんは七十五トン級の超大型歩兵戦闘車なんだけど、これくらいなら持てる。地面が悲鳴を上げて沈むけど。
沈みきる前に次の足を出せば良い。エッサホイサエッサホイサ。
整備工場に着いたので銀さんを押していく。整備工場を穴ぼこいっぱいにするわけにはいかないからね。それくらいさすがのあたしでも分かるよ。
工場の電源がオフだったのでオンにする。ぎゅいーん。動くね。電気は堅牢だなあ。
銀さんをつり上げ機でつり上げ、履帯を交換していく。
「出来るんですか、完さん」
「一通りの軍事訓練は受けてますし、整備も訓練受けてます。工具も残ってますしね」
一人でやったので時間はかかったけど交換成功。錆びがあるので2本とも交換しておいた。
交換する際にくるくる回るところのサビは落としたよ。
「よっし。あとは機体表面の錆び落としですね」
「どうすれば効率良いのかにゃ」
「ナノマシン錆び取りクリーナーがあったはずなので、それを吹きかけてもらえれば」
「あったなあ。どこだったっけ」
少々探して発見。砂漠の砂で埋もれてた。狐のしっぽできれいに払ってオープン。
桜ちゃんには噛みつかれたが良い箒がそれしかなかったんだよ。桜ちゃんも結構ノリノリだったじゃん。
やはりナノマシン溶液は無くなっていたけど、あたしが右腕の手のひらからシャッと溶液路を展開して溶液を流し込む。
「完ちゃんご飯食べてないのに溶液なんて出して大丈夫なのかにゃ? 心配だにゃ。日本銀河帝国がナノマシン散布を積極的に行っているみたいで空気中のナノマシン濃度は十分にあるけどにゃ」
「うちらナノマシン生命体って自我を持ったナノマシンが結集して人格を形成しているじゃん。それが薄くなりすぎてなくならない限りは空気中にあるナノマシンを吸収して補えるからね、大丈夫。無くなりすぎたら眠くなって寝ちゃうけど」
ドクドクと流し込み、ちょっと昼寝。
起きたころにはピッカピカの銀さんが出来上がっていた。
「おー、こりゃ凄いね。桜ちゃん吹きかけるの上手だね!」
「銀さんにここに吹きかけてって言われたところを吹きかけただけだにゃ。履帯の部分も一応吹きかけたにゃ」
「完璧じゃん。それじゃあつり上げ機から降ろして、出発しようか。あ、そだ、残っている金属は運べるだけ運んじゃおうか。町に着けば売れると思うんだ」
あたしは車長室、指揮官が顔を出す部分に座り、桜ちゃんは後部座席の兵員輸送席に座る。
この兵員輸送できるところが戦車より優れている点である。
昔は装甲強度が足らなかったけど、ナノマシンと魔導による融合装甲である、ナノマシン魔導融合装甲の存在により、とんでもない装甲強度を持つことが出来るようになった。
それにより、一気に日の目を見ることとなったのだ。
基本重量が軽い分、重い強い装備も持てるし、装甲も分厚く出来る。それでも余裕あるから人も乗せちゃおう、みたいな。
あたしは実験機だから見てないけど、ナノマシンに魔導の力を付与したナノマシン魔導生命体の兵士一班六名を積めば戦車を圧倒できるって教授が言ってたね。
まだ量産型が完成していないから机上の空論ではあったけど。
「桜ちゃん、そろそろこんこんさまと分離した方が良いんじゃない?」
車長室と兵員室を隔てているシャッターを開いて言う。
「あ、そだにゃ。こんこんさまー」
ポワンと煙に紛れて出てきたのは一体の大きな黄色いきつね。こんこんさまである。
「こんこんさまー」
耳もしっぽもなくなった桜ちゃんがこんこんさまに抱きつく。
「桜しゃまー」
こんこんさまも桜ちゃんを抱きしめてスリスリする。
こんこんさまの協力によって一号機、世界最初のナノマシン生命体は誕生したのである。
あまり長時間合体していると桜ちゃんがダウンしてしまうのだ。分離して寝ないといけない。毎日八時間睡眠しないといけないわけじゃあないけども。
桜ちゃんはまだアンドロイドっぽいかな。致命傷になる部分がまだある。頭潰れたら致命傷だろう。
二号機はアンドロイドではなくナノマシンで構成されてる、れっきとしたナノマシン生命体ってかんじ。頭潰れても生きられるからね。
アンドロイドの発展型がナノマシン生命体なので似たような物ではあるが。 凄い発展だけどね。
あと、ナノマシン生命体は致命傷になる部分が極めて少ない。どこ切っても千切っても再生するから。
さてと、二人が休憩のために眠ってから、銀さんとあたしはとりあえず一方方向に向けて走り出したのである。
「なんもないねえ、銀さん」
「すぐに何かあると思ってるわけではないでしょう?」
「まあ、そうだけど」
なんて話しをしていたら後方から音がする。振り返ると巨大サソリが向かってきていた。
履帯を傷めず走るために時速二十キロメートルしか出していない。
追いつかれそうだし始末しておこう。
あたしは車長室から抜け出すと、後部兵員室の屋根から思い切り銀さんを蹴飛ばして自分を射出する。銀さんは多分大丈夫。重いから。
一直線にサソリのしっぽへ向かい、まずは毒の部分をへし折る。ナノマシン毒だったら嫌だからねえ。
寝ている間に毒が進化していそうだし。
次に暴れているサソリのしっぽをぐいーっと曲げてへし折る。
あとは足を一本一本折り取るだけだ。
「桜ちゃーん、ご飯食べよー」
「むにゃむにゃ、ごは……、それ食べるの?」
「毒は無いと思うよ」
私のナノマシンをナノマシン溶液としてサソリに垂らし、溶液を燃える油に置換してから火を付けてこんがりと焼く。頭が付いていて暴れていたけど知らない。
「焼けたし食べてみるか。殻を割って。むしゃむしゃ。お、美味い」
「えー……、よし、食べてみる。むしゃむしゃ。おお、食べられるね」
こんこんさまは頭を丸かじりしていた。
今桜は、こんこんさまと分離しているので普通のアンドロイドに近い存在である。話し言葉も普通だったね。
サソリを食べて満腹状態になったあたしたち。ご機嫌で銀さんの中へ戻ったのだ。
「満腹状態だしナノマシンが大量生産されるから、銃弾の造弾ボックスにナノマシン詰めておくね。多目的用にも一応積んでおくか」
「ありがとうございます。機銃すら弾切れだったので助かります」
何にでも置換できるナノマシンならこういうことが出来るのだ。
300年前の軍事車両でもナノマシン製造装置は付いている。
ナノマシン生命体より前にナノマシンは完成していたからね。
「桜ちゃんとこんこんさまはお腹いっぱい?」
「うん、お腹いっぱい」
「いっぱいじゃよー」
「そっか、それならよし」
私は消化が極めて早いのでお腹いっぱいにはならない。エネルギーが満ち満ちている満腹状態になるだけだ。
「何か見つから無いかねえ」
「見つかると良いんですが」
と、ぼやいていたら。
「あれ、石油リグじゃない? 行ってみよう」
「私には全く見えませんが。行ってみましょう」
進んでみると、石油地帯と石油をくみ出す石油リグが見えてきた。
まあこれで人がいると決まったわけじゃない。人がいなくても石油リグでくみ出せる。
うろうろしながら巨大なゴミ捨て場を発見。
「これは人がいるね。あそこは高速道路かな? 人の生存圏にこれたね!」
「わーいわーいなのにゃ!」
お金全くないんだけど、金属として整備工場の金属を持ちはこべるだけ持ち運んである。
金属工場に行けばある程度のお金になるでしょう。
なんとかなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます