緊急任務、始まります!~完ちゃんの同僚機体奪還作戦。あたしが休眠して三百年経ってるけど現役には負けません
きつねのなにか
第1話
私は世界最強の存在だ。故に眠っている。なぜなら――
――他実験体に危機、緊急起動します。
え゛。まじすか。
このメッセージが頭の中に流れたらあたしは自動的に起動する。私は他実験体の守護者なのだ。
あたしは培養液の入っている培養槽に浸かっていて、拘束具を取り付けられている。
厳重な保管だね。
培養液が抜けている最中、培養管に傷が付いたのがわかる。うへぇ。
培養管はかなりの強度を誇る。相手は強い。
顔から培養液が抜けて、目を開ける。赤い髪の毛であたしと同じ顔をした人物が、魔法の素であるエーテルを使った、エーテルマシンガンを左手で乱射しながら右手で殴りかかっている。
あたしが怖くないのかな? 完成機だぞぉ?
拘束具が解かれる前に培養管に穴が開く。
この「赤いやつ」、そこそこ強い。
しかし、あたしを超えるものではなさそうだ。あたしはエーテルアイマシンガンを――。
――放てなかった。なんでぇ?
生体モニターを起動し、自身の状況を確認する。
……ほとんどの機能が損傷している。エーテル魔法も全く覚えていない。
「おまえを壊せば、俺様が世界一になるんだよ! しねえ!」
赤いやつは
十時のように張り付けられているんだけど、腕の拘束具がまだ解けない。赤い光とともに放たれた弾丸が右肩に直撃する。
右腕が千切れ飛ぶ。拘束具はまだ解けない。
強固すぎじゃない? 他実験体もう襲われてない? 設計ミスでは? 誰だよ設計したやつ。
「これで終わりだな。
ちょっとそれはまずい。あたしはナノマシン魔導生命体で、かなりの再生力を誇るけど、撃たれたら粉みじんになるかもしれない。粉みじんじゃあさすがに再生できないかも。
ただ、これは撃つのに時間がかかる。それまでには拘束具も培養管のガラスも外れるのでぶん殴れるだろう。大丈夫だ。
「
ちょっと離れたところからかわいいかわいい声が聞こえる。
狐火はおきつね姿の火炎がぴょんぴょん跳びながら相手に突撃するのが特徴だ。
エーテル魔法準備中で動けなかった赤いやつ。
狐火をもろに食らって今度は赤いやつの左腕が燃え千切れる。
全盛期と比べると威力落ちてるねえ。
培養液で寝ている間に力が落ちたかな?
「くっそ、邪魔だてめぇ!」
赤いやつは狐火を放った小さな女の子に突撃する。
こいつアホだな、右手でエーテルマシンガン撃てば良いのに。エーテルマシンガンなら外さないだろうし。
スッコーンと女の子が蹴り飛ばされたころには……。
「あたしが復活しているというわけだよ、赤いやつ君」
右腕はナノマシン魔導生命体の機能「自己ヒール」で治っている。治っているというかくっつけなおした。エーテル魔法は使えないが、この肉体があれば十分だ。
「な、自己ヒールだと。俺様が全て奪ったはずなのに!」
「おまえが奪った? なにを?」
「おまえの全ての機能だよ! 不老不死、強力な身体、全てのエーテル魔法! なにもかも全て!」
「生体モニターでほとんど全てが損傷したのは確認したけど君が理由か。まああたしが起動したってことは」
猛スピードで赤いやつに接近し、そのまま勢いを付けて左ストレートをぶちかます。あたし左利きなんだよね。
赤いやつはあたしの一撃に耐えられず頭が破裂した。
「最強機体が復活したってことよ」
人体の8割は水。こいつもその部類だったらしい。
あたしのナノマシンはどうだろ。液体だけど液体ではないからなあ。
あたしは究極存在だからね。
頭を潰された赤いやつは自己ヒールで回復して継続戦闘をするわけではなく、煙幕を張り、逃げていった。
センサーが生きていれば追えたけれども。どうしようもない。
「ほう、頭潰しても生きてるってことは一応ナノマシン生命体かあ。エーテル使えるってことは魔導生命体だよねえ。時計が動かないから時間がわからないけど、ナノマシン魔導生命体の量産型って普及しているんだなあ」
量産型第一号が完成してからすぐ封印されたので実際に量産されているナノマシン魔導生命体を見るのはちょっと感激だね! 雑魚だったけど!
スッ転んでいた一号機を起こす。痛かっただろう、かわいそうに。
「一号機の
「
慌てていて上手く言葉が出てこないようだ。
「息をゆっくりと吸って吐いてみよう。はーかわいい」
「すー、はー。かわいいからって食べちゃ駄目にゃよ。それで、みんな溶かされて運ばれていっちゃったにゃ。にゃは溶かせなかったみたいで、隙を見て隠れ蓑を使って逃げたんだけど。なにかのタイミングで緊急アラームが鳴ったみたいで、にゃを置いて逃げていったにゃ」
1号機は最初のナノマシン魔導生命体で、作成が極めて難しく、妖狐の力を使って作ったという経緯がある。
溶かすのを妖狐の力が拒んだのだろうね。
私も溶かされていたのかな。機能が損傷しているのは溶かされている最中でさ。
「そっか、逃げ切れて偉いね」
なでなで。あーかわいいよーさくらちゃーん。たべたい。
「よだれ垂れてるにゃ。こんな事態で食べようとしてるのかにゃ。やめるにゃ。キモいにゃ」
青いさらさらの髪の毛におきつねの黄色いおみみ。一口だけあーん。はむはむ。
「はにゃあああああ!!」
絶叫をあげた桜ちゃんは一時停止をした後再起動し、
「糞だにゃ完ちゃんは! しねしねしね!」
といって私が燃え尽きるまで狐火をかけたのでした。ふふ、これも愛。
「自己ヒールで回復してっと。うーん、溶けて持ち運ばれたからアラート鳴らなかったのかな。鳴ればあたしが全て殺したのに」
「残念にゃ。拘束が強すぎたってのもありそうにゃね。にゃのほうが先に起動したにゃ」
拘束は完全に失敗だよね。もっと気楽に早く拘束をほどけないと意味が無い。
赤いやつが他の培養管を殴っていたら他の培養管が損傷していた恐れがある。それじゃ意味が無い。
「さてどう動くか。早く追いかけないと」
「追いかける前に各自の部屋に行って部屋着で良いから服を着ようなのにゃ。今裸で恥ずかしいのにゃ」
「あたしは桜ちゃんの前なら全裸でも恥ずかしくないけどねっ!」
「やめろキモいにゃ」
ここは円形の研究所なんだけど、今いる格納室は地下一階だったかな。
地上2階のマイルームへ移動だね。
「非常用電源が作動して明るいけど、ドアにはロックがかかってるねえ。階段あるから良いけど、部屋の扉は力でこじ開けないと駄目かも」
「完ちゃんがいるから全然心配ないにゃ」
非常階段で移動。二階への扉に鍵がかかっていたので、ドアノブを蹴り飛ばしてロックを解除。次へと進む。
各部屋は電磁式の鍵がかかっていたので、桜ちゃんに電気を作って貰い、一旦起動した鍵をハックして開けた。
「まさかとは思うけど、完ちゃん、にゃの部屋にこうやって入っていたにゃんてことは……」
「たまにしかないって! だいじょうぶだって!」
たまに入っていたことに激怒した桜ちゃん。あたしに狐火、
「ぐー、ぎぐ」
「肩こりに効くとかじゃにゃいんだから」
アホなことやってないで着る物取ってこよってなって、あたしはジーンズにキラキラ光るTシャツ、黄色いジャケット、桜ちゃんは通常カラーとは違う巫女服を装備。実験時はぴっちりスーツだったがさすがに恥ずかしい。
「本当何着ても似合う美人さんだにゃ。身長百八十センチメートルだっけかにゃ」
「百八十五センチだね。桜ちゃんは百五十センチくらいか。食べたいくらい可愛いねえ」
「狐火! 狐火狐火! ちなみに百四十九.六センチだにゃ! 四捨五入すれば百五十!」
アホなことしてないで外に出るか。
入り口へと向かう。
「入り口に、砂……?」
「途中でここが放置されたのかにゃ? にゃの時計では三百年経ってるにゃ。その割には保存きかいしっかり動いていたけどにゃ。やつらが作った抜け道があるからそこから出ようにゃ」
「そんなに経っていたんだ。こりゃああたしが最強ではなくなってるだろうなあ」
「それでも十分につよいんじゃにゃいかにゃ。人は楽に殺せるにゃ。それはにゃもそうだけど」
抜け道を通って外に出る。
外は。
「そっかーこれかー……」
「気候変動したっぽいにゃあ……昔は平原にゃったのに」
見渡す限りの砂漠だった。
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