マニック・マンデー 8

 嘘である。

 いたさなかったのではなく、いたせなかったのだ。タクミのタクミは、助走どころかとっくに大空へ羽ばたき、すでに第二宇宙速度を超え、天元突破もすぐそこまで来ている状態だった。

 触れるまでもなく半ばイキかけていた。

 伊豆へ。——ではなく、天国ヘヴンへ。

 しかし今日のために買ったばかりの感動パンツ(商品名)を汚すわけにはいかない。やわなボクサーパンツぐらいで食い止められるほど、この欲望は弱くない。

 だからクールダウンするため、アムから距離を取り、仁王立ちした。だが、先程口にした通り、背中と腰の描く曲線も、しれっと覗く生肌もいやらしく、その光景にまた速度を増してしまいそうになっていた。太陽系をも飛び出しそうなほどに。

 このまま果ててしまってもいいかも、とタクミは一瞬考えた。高身長のアムは、顔は小さいが全体的にしっかりとしていて、華奢なイメージはまるでない。出るとこは出て、なんというか外国人のようなスタイルだった。その量感豊かな尻。

 叩きたい、いや、できれば己の息子をべちんと打ちつけたい、だが打ちつければそこで終了なのだ。感動パンツも、この出会いも。それは避けたい。

 となれば、その張り詰めた山のてっぺん——いや双子山のふもとの小さなYeah!(大草原www)に自らを慰めてぶっかけたい、これなら終了にはならない……!

 欲望は巡る。

 しかし、アムの表情も見てみたいし、なんならあの柔らかそうな唇へも飛沫しぶきたい——タクミの中は欲望と妄想で自分でもわけのわからないことになっていた。混沌。それはまさに這いずり回る混沌だった……!

 息をゆっくりと吐き、吸い、呼吸を整えながら、先ほどまで息がかかるほど間近に見ていたアムの鼠蹊そけい部に挟まれた三角州デルタを思い出してしまった。

 真っ白なストレッチパンツの、ぴったりと肌に吸い付いているであろうのびのび具合と、微かに……薄墨をさっと滑らせたような灰色の一本のスリット

 もはや幻覚だったかもしれないそれを、またなぞってみたくもあった。つつ、と指を滑らせて上へと、下へと——しかし、それもロスタイムなしの終焉おわりの始まりである。


 踊り子さんに手を触れてはいけません。


 タクミの脳裏に天啓があった。

 ならば足では?

 ならば舌では?

「アムさん、おうかがいしたいことがあります!」

 腰をくねらせるようにして首をねじるアム。指の隙間から半分ほど眼は覗いているが表情まではわからない。

「……なに?」

「手を触れないかわりに舌で」

 小さく悲鳴をあげてアムはベッドへ飛び移った。ガードするように枕を抱えて、完全に不審者を見るときの目だった。いわゆる、ジト目というやつである。

「そんな! 一休さんじゃないんだから! トンチきかせてエッチなことをするのはダメッ! 大体、踊り子さんペロッてしたら、良くて出禁、普通に警察にごやっかいよ!」

 ぷんぷんと怒るアムだったが、紅潮した頬が、とがらせる唇が、また色っぽい。

「なら足では……?」

「ダイヤに目が眩んでもいないのに⁉︎ 暴力ダメ! 絶対! 申すまでもなく禁止!」

「ぼ、暴力なんてとんでもない! 足でさわさわ、足でぷにぷにとか——」

「手でなければいいというわけではないのよ、ほんとはあなたもわかってるはず!」

 しゅん、とした表情になったタクミを見て、アムの胸がキュンとした。もっと苛めたいような、庇護したいような。

 そんな表情なのにも関わらず、パンツの上からでもわかるほど張り切っているタクミのタクミも、また愛おしい。自分を見て、自分に触りたいと思って、ああなっているのだ。

 ふう、とアムは溜息を吐いて、枕をそっと脇に置いた。腕を伸ばして、迎え入れる形をとる。

「おいで、タッキー! 今回は初回拡大解釈スペシャルよ! ギュッってして、いいよ」

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