マニック・マンデー 7
鑑賞会が始まった。ベッドに手を着き、お尻を突き出す形で床に足を着けた格好のアムは、背後のタッキーの動向が気になって仕方がなかった。振り向こうとして身をよじるも、タッキーが「動かないで!」と叫ぶので「ひいっ」となる。
と、気配が不意に近づいた気がして、アムは声を上げた。「触ったら——」
部屋が一気に明るくなる。
伸ばされたタッキーの腕が照明を切り替えた、その気配だった。
「明るくないと、じっくり鑑賞できないですからね!」
「は、恥ずかしいんだけど……」
「アムちゃん……」
「は、はいっ」
「ベッドに着くのはヒジでお願いします。頭下がるし」
「は、はい……」
主導権を取られてしまった、ということに気づいて途端にアムは恥ずかしくなってきた。普段着ないぴっちりした服を身にまとい、今日初めて会う男に鑑賞されてしまっている。
——で、でも初めてといっても、タッキーのことはよくわかってるから! サボってばかりの大学生で、童貞で(どどどどーていちゃうわ!)、下ネタとか振ってくるくせに乗っかってあげるとすぐヘタれて……。
無言が怖い。怖いと同時に、怖さとは違うゾクゾクする感じがある。見られて——いや、視られているという気配が濃厚に伝わってくる。視られている部分が熱くなってきた気がして、思わず声をあげた。
「そ、そんなところばかりずっと視ないで!」
「……どんなところを?」
タッキーの声のトーンは少し低く、けれど上ずっている風でもあって複雑な音色だった。ホーミーかな?
「……見ながら実況しようか、ねえアム……」
「…………」
アムは顔を手で覆った。耳までが熱い。わたしが夢中になって鑑賞するタッキーを鑑賞するはずだったのに、という思いもある。こんな一方的に視られるなんて!
「!……」
熱い息を会陰に感じた。
「ダメ、息は吹きかけちゃそこで」
「吹きかけてないです、ただ近いだけです」
呼吸荒く、微かな振動すら感じるよう。吹きかけてはいないなら、十戒を破ったとは確かにいえない。
「……視てるの……?」
「ええ、張り詰めた弓のようなそなたの股間を……」
ぶふっ。アムは吹き出してしまった。なんだ、コイツ。だが、そういうところがあったから会ってみようと思ったのも事実だった。
体温が遠のく気配があって、アムは目蓋を開けた。指の隙間から、木の板でふさがれた窓といまは不可視の深海が描かれたクリーム色の壁が見えるだけだ。
まだタッキーは後ろにいる。いるが無言だ。数秒経っても変わらぬ気配。
「……タッキー?」
「いやあ、いいなあ、と思って」
「なにが……?」
「こう、カーディガンがずりさがって肩甲骨あたりまでしか隠せてないのと、背中のライン、それから少し見えてしまってるアムちゃんの生肌……ミクロとマクロの決視圏!」
「まだ、たってる……?」
「ビンビン神さまですよ!(筆者注:パチスロ四号機初の大量獲得機。なぜタクミが知ってるかは不明)」
「いたさないの……?」
「なに言ってんですか、アムちゃんだって見たいでしょ! 僕がいたすところも、終えるところも! いまはまだ滑空のための大いなる助走ですよ!」
途中から何をいっているかよくわからなかったが、アムは微笑んで、彼を選んだわたしの目に狂いはなかった、と思った。
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