第55話 ギルド対抗賞金トーナメント 其の肆
キユウに勝利したヒナウェーブは、闘技場に戻ってくると、拍手喝采とともに歓声の嵐に包み込まれる。
しかし、この熱気は、ただ勝利を収めたからでは無い。『鬼怒哀楽』という害悪ギルドが、数多くのプレイヤーに恨まれていたからである。
観客はあまりの嬉しさに声を上げているのだ。
ヒナウェーブが、両手を高く上げて観客の声援に応えていると、次の刺客がやって来た。
「ヴァリーレバレット……」
ヒナウェーブは、キユウと入れ替わりで堂々と登場してきた小柄のウサギを睨みつけ、唇を噛み締める。
「また会えて嬉しいよヒナちゃん」
ヴァリーレバレットは、フレンドリーに接すると、近づいてきて片手を差し出し、握手を求めてきた。しかし、ヒナウェーブはその穢れた手を振り払った。
「どの口が言ってんの。うちは、許してないんだけど」
『未開の砂漠』で突然起こった『鬼怒哀楽』との抗争。
そこで、ヒナウェーブはヴァリーレバレットに騙され、敗北した。
結果的に、ウキワの活躍によって試合には勝ったものの、卑劣なやり方で負けたことをずっと引きづっていたのだ。
「ごめんねヒナちゃん。でも騙される方が悪いよ。だって私たちは敵同士でしょ?」
「確かにその通りね。でも、もう決めたから。この舞台でアンタに勝って、ケジメをつけるってね」
「ニャハハハハハハ! じゃあ、次はじっくり切り刻んであげるよ!」
不愉快な高笑いを披露したヴァリーレバレットは、自ら身を引いて準備を始める。
そして、フィールドの抽選が行われた。
『抽選結果は……湖です!』
ヒナウェーブは三回ほど深呼吸をして、ヴァリーレバレットを見据える。感情論で戦えば、パフォーマンスが落ちる事を知っているため、気持ちを落ち着かせているのだ。
「よし、絶対勝つ」
『それでは、第二試合の開幕です!』
すると、ヒナウェーブとヴァリーレバレットはフィールドに転移された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここってまさか……」
ヒナウェーブが転移した場所は湖の中ではなく陸地だった。でも、ただの陸地では無い。あの毒牙鮫を倒した研究所の水槽だ。
これを湖と言えるのかという疑問は放棄して、とりあえず、銃を構えながら辺りを隅々まで見回してみる。どうやら、ヴァリーレバレットは近くに居ないようだ。
となれば、消去法で位置を炙り出すことが出来る。
「そこにいるんでしょ」
ヒナウェーブは水面に向けて銃口を向けながら問う。
すると、桃色のモヤモヤとした煙が浮かび上がってきた。ウキワと戦っていた際、多用していたカモフラージュ用の煙だ。
「フラッシュバースト【煌】」
ヒナウェーブはすぐさま水槽の壁面に向けて放つと、大きな水しぶきと共に爆発する。
これで煙幕を無効化できたかと思えたが、ヴァリーレバレットはそれすらも利用して来た。
「ニャハハハハ!」
水のカーテンが靡く奥で、例の高笑いが聞こえた瞬間、ヒナウェーブの元に短剣が投げつけられる。
「速っ……」
ヒナウェーブは弾の入っていないスナイパーライフルを振って弾き飛ばす。続けて、迫ってくる二本目の短剣は、ローリングで回避し、元々ヒナウェーブが立っていた後方に突き刺さった。
すると、ヒナウェーブの周りにまたしても桃色の弾幕が飛んでくる。
だがしかし、ヒナウェーブ冷静だった。即座に水の中へ避難し、水槽の底へ向かったのだ。
「逃がさないよヒナちゃん!」
速やかに短剣を回収した、ヴァリーレバレットは、追いかけるように放物線を描いて飛び込んだ。
「弾速強化」
しっかり背後から着いてきているのを確認したヒナウェーブは、体を反転させた後、スキルを使用し、カウンターを放つ。
一心不乱に近づいてくるヴァリーレバレットに対しての
しかし、ヴァリーレバレットはバフ込みの弾丸を二本の短剣のみで、抑えて見せたのだ。
「そう簡単には、倒させてくれそうにないみたいね」
かつて、ヴァリーレバレットと一線を交えたウキワは「戦闘技術がずば抜けている」と言っていた。
いつも、人を蔑んでばかりいるウキワが勝負を放棄して、初見殺しに持ち込んだのは、ヴァリーレバレットの強さが合ってこそだったのだ。
その為、地上で戦うのではなく、水の中に引き込めれば、勝算は見込めると思っていたが、想像以上に彼女の強さを実感していた。
「待っててヒナちゃん! 絶対、グサグサしてあげるから!」
この厄介なうさぎを倒す方法は、ただ一つ。
人が予想出来ないような
この手法を使えば、どんな手強いプレイヤーでも倒せる可能性があるというのは事実だが、この
上級者は、常に想定外を懸念しながら、行動に移しているからである。
つまり、初見殺しという切り札を存分に発揮する為には、プレイヤーが油断という一瞬の隙を見せた時にしか真の力を発揮することは出来ないのだ。
しかし、相手からしても同じような考え方ができる。
でも、今回の相手は
だから、ヒナウェーブは賭けてみることにした。自らの手で欺き、自ら油断という状況を作り出し、自らの切り札で仕留める。
――そう心に決めたのだ。
「ニャハハハハハハハハハハハハハ!」
スキルを使わず、二本の短剣で真剣勝負に持ち込んでくるヴァリーレバレットをたった一本のスナイパーライフルで抵抗し続ける。
だが、動きにくい水中ということもあり、圧倒的に手数が足りず、得意の武術が通用していない。
それどころか、徐々に押されていき、いつの間にか一方的に攻撃され続けていた。
「気分はどう? ヒナちゃん!」
「…………」
ヒナウェーブは、血の代わりにあらゆるところから吹き出すオレンジ色のポリゴンと少しずつ減っていくHPを確認しながらタイミングを図る。
「ちょっと待って」
いきなり呼び止めると、ヴァリーレバレットは切り刻むのをすんなり辞めた。
「あれ、どうしたのヒナちゃん」
「うちの負けは認める。けど、ひとつ聞かせて欲しい。アナタは何のために戦っているの」
「とにかく、滅多刺しにして……殺したいからかな? 普段出来ないことだし!」
相変わらずニヤニヤしながら、悪い笑みを浮かべるヴァリーレバレットは、誰がどう見てもイカれていた。
「じゃあ、精神科にでも行ったらどうかな」
「その心配は必要ないよ。だって私病気だもん」
「え?」
ヒナウェーブは、動揺して手に持っていた銃を手放す。
その刹那。
ヴァリーレバレットはすかさず短剣を伸ばし、ヒナウェーブの腹部を刺しながら、
「まあ、嘘だけどね!」
と言った。
もちろん、ヒナウェーブはこうなる未来を予測していた。ヴァリーレバレットに騙された事があるからだ。
――もう、彼女のことは信用出来ない。
――だから、こっちも騙す。
――それだけの事だ。
「なんで、なんで……」
ヴァリーレバレットは、何度刺してもHPが残り続ける現状に顔を強ばらせる。
「双兎斬、ロードバレット……!」
焦りを抱えたヴァリーレバレットはスキルを次々と使うも、やはり、HPは1で止まったままだった。
スキル【残命の執念】は、自分で使用しなくとも、自動で発動するスキルで、HPが1の時に攻撃を喰らうと一定期間相手の攻撃を無効化するというものである。
ヒナウェーブは、ヴァリーレバレットが攻撃スキルを使ってこないことを分かっていた上で、頭の中でダメージを計算し、調整していたのだ。
「アナタは攻撃系のスキルしか持っていない。そうでしょ」
「ぬ゛ぁ、グッ……」
足を巻き付け、首を絞められたヴァリーレバレットは抵抗を示すが、身動きが取れずにいた。
「もう何も言うことは無いよね」
ヒナウェーブはインベントリから新たに取り出したスナイパーを右手に構え、ヴァリーレバレットの頭にセットする。
「ゲホッ、ゴホッ……ゆ、許さない」
それはこっちのセリフだと思いながらも、ヒナウェーブは特に何も言わずにスキルを使用した。
「集中砲火【轟】」
カチッと引き金を引くと、その場で爆散し、予め落としておいたスナイパーからも、次々と弾が発射されていく。
そして、ヴァリーレバレットの体は徐々にポリゴンへと変化して行き、消滅したのだった。
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