第53話 ギルド対抗賞金トーナメント 其ノ弐

 ――とうとう、この日がやって来た。


 ギルド対抗賞金トーナメント当日である。


 マップの外れに特設された闘技場には、多種多様なプレイヤーが観戦席に集まり、大きな盛り上がりを見せていた。


「いやー、こんなところで試合するとは夢にも思わなかったなぁ」


 会場の様子をギルドルームでモニター越しに見ていた俺はそう呟く。すると、ソファーでくつろいでいたヒナウェーブが口を開いた。


「多分規模で言ったら、世界大会レベルじゃないかな?」


「へー、そうなんだ……ってマジかよ」


 この大会で優勝すれば賞金を獲得することが出来る。その話しを来葉から聞いた時、今までに経験したことの無いような胸の高鳴りを感じていた。もちろん今も同じだ。


 しかし、ヒナウェーブの言葉によって心臓の鼓動が加速し、一瞬のうちに高揚からちょっとした緊張に変わっていた。


「あ、そういえば……まだ出場順決めてなかったよね。うちは、どこでもいいけどルアくんは?」


「うーんじゃあ、俺は二番手」


「ウキちゃんはどうする?」


「私も二番手」


「おい、被せてくんじゃねぇ。てか、お前がこの中で一番強いんだからどう考えても三番手だろっ!」


 一番手も三番手もプレッシャーがかかる。その為、どうしても、二番手で出場したかった俺は適当な理由をつけて、ウキワに対抗した。


 だがしかし、ウキワは余裕の笑みを浮かべてこう返す。


「残念。順番は提出してるから、もう変えられないよ。だって私がギルドリーダーなんだから」


「……え?」


「な、なにぃ?」


 そういえば出場順は、ギルドリーダーが順番を指定して提出する決まりだったのをすっかり忘れていた。つまり、俺が何を言おうが無駄だったのだ。


「ちなみに順番は、ヒナちゃんが一番手、次に私、三番手をあんたにした」


「ちっ、俺がトリかよ……」


「じゃあ、そんな訳でよろしくー」


 ウキワはそれだけ言い残すと、ベッドで腕を組み、すやすやと寝てしまった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギルド対抗賞金トーナメントの初戦、断光VSファンキーナイトベアの戦いは、ギルドルームのモニターには移されなかった。


 また掲示板、チャット、通話などプレイヤーに備わっている情報ツールは全て封鎖されている。


 なぜ、そういうシステムになっているのかと言うと、恐らく対戦相手の情報を隠蔽するためだろう。まあ、そのギルドのプレイヤーと面識があれば、あまり関係は無いと思うが――ともかくそういう仕組みだ。


『月光輪VS鬼怒哀楽の試合がまもなく始まります!』


 実況の声とともに、突如として、モニターに闘技場の様子が映し出される。


「おっ……ようやく、出番が回ってきたか」


「もう、待ちくたびれたよ……」


 ヒナウェーブは、腕を伸ばしながら立ち上がると、準備運動を始めた。


「あんな奴らに絶対負けんなよ」


「何、全勝しろってこと?」


「もちろん」


「ふふっ、難しいことを言うね」


 ヒナウェーブは、微笑を浮かべながら外していたヘッドフォンをインベントリから取りだし、身につける。


「やっぱそんな期待しないでおく。返ってプレッシャーになりそうだからな」


「いや、それは辞めてよ。逆にやる気無くなるって……」


 そんなたわいのない会話をしていると、ウキワがさりげなく会話に割り込んできた。


「別に負けても文句は言わないよ。このルアとかいう賞金にしか脳がない人以外はね」


「ああ、そうだな。文句はお前が負けた時に言ってやるよ」


「私が負けるとでも思ってる訳? ふーん、いい度胸してるねぇ」


 そんな俺とウキワの白熱した口論を横目で見ていたヒナウェーブは、スイッチを切り替えてモニターをじっと見つめていた。


『それでは第二試合、最初の対戦カードはこちらです』


「じゃあ、勝ってくる」


 俺は首を縦にふる。すると、ヒナウェーブは一瞬で姿を消したのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ヒナウェーブ、初戦はお前……か」


 鬼怒哀楽の一番手として出てきたキユウはニヤリと笑う。その形相は正しくであった。


「舐めないでもらえる? 言っとくけど、うちはあなたを二度も倒してるんだからね」


「ふん、その話しは番長から聞いたぜ。俺にヘッドショットをカマした奴がいるってな。奇襲とはいえ見事だった。弁解の余地は無い」


 キユウは顎に手を当て、空虚を見上げながら、そういった。


 妨害専門のクラン「鬼怒哀楽」に所属しているキユウは誰もが外道だと理解している。しかし、そういった一面もあったとは思ってもいなかった。そのためヒナウェーブは、照れくさくも素っ気ない感じで


「……それはどうも」


 と返す。


「今までのは、練習試合だ。正々堂々叩き潰してやるよ」


「随分と負けず嫌い見たいね。ここで終止符を打って終わらせてあげる」


 お互い意気込みを言い終えた直後、目の前にウィンドウが表示された。そこに映っていたのは自分のステータスと一分の制限時間。つまり、これは戦う前の調整時間である。


『さあ、両者準備が整ったところで、フィールドの抽選に入ります。抽選の結果は……砂漠です!!』


「砂漠か。俺のリベンジにピッタリの場所じゃねぇか」


「うちにも、ピッタリの場所だと思うけど?」


「ふん、それはどうかな」


『それでは鬼怒哀楽VS月光輪 第一試合開始!』


 その瞬間、闘技場のフィールドが砂漠に変化し、キユウとヒナウェーブはテレポートされたのだった。

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