第52話 ギルド対抗賞金トーナメント 其ノ壱
ギルド対抗賞金トーナメントは、一体一で行われる。
事前に先鋒、中堅、大将を決めて、負ければ次のプレイヤーにチェンジするという形式だ。つまり、相手のギルドを全員倒すことが出来れば勝利となるのだが、一つだけ懸念しなければならないことがある。
例えば、準決勝の試合。先鋒の俺だけが負けて、中堅のヒナウェーブが3タテしたとしよう。その場合、ギルドとしては決勝戦に進むことはできる。しかしながら、負けた俺は試合に参加することは出来ない。
要約すると、一人でも欠ければたとえ決勝戦に行けたとしても、大幅なアドバンテージを取られる可能性があるということだ。
まあ、逆にアドバンテージを取れる可能性があるとも言えるが、兎にも角にも、決勝戦のために人数を残しておくに越したことはない。
と言った感じで、モニターの
その後、運営からメールBOXにより詳しい内容が書かれた文面が届いた。
「トーナメントは二日後か、ハードスケジュール極まってんな」
俺は、透明な板に書かれた文章を流し見しながら言った。
「ルアくんは、睡眠時間削って人一倍周回してたもんね……」
「意地でも賞金が欲しかったからな。優勝出来るかは別として、頑張ってよかったよ本当に」
ヒナウェーブはこくりと頷くと、ヒナウェーブは何かに気づいた様子で、周りを見渡し始める。
「あれ、そういえばウキちゃんは?」
「ほんとだ、確かに居ないな……」
ギルドルームを歩いて、隅々と探してみても、ウキワの姿は見えなかった。ラルメロに聞こうと思ったが、いつものようにぐっすりと眠っていた為、華麗にスルーした。
「まあ、あいつも疲れてたんだろ。いつも以上に口数も少なかった様な気がするしな」
「そうかもね……」
ウキワが何を考えているのかなんて、正直、どうでもよかった俺は、さりげなく話を変える。
「で、ウェブはこれからどうする? 俺は、一旦休憩した後、本番に向けて練習しようと思ってるんだけど」
「ルアくんは相変わらずストイックだね」
「でも、賞金がなきゃ何も出来ないけどな」
「ハハハ、うちもプロゲーマーとして、負けてられないね」
ヒナウェーブは、クスクスと笑う。俺も釣られて、愛想笑いで合わせようとすると、突如としてヒナウェーブの顔つきが変化した。
「だからさ、練習がてら勝負しようよ」
「なるほど、そう来たか」
「あれ、遠回しに誘ってたんじゃないの?」
「いや、別に一人でもAIと対戦できるし、それに迷惑かなと思ってから」
「そんな訳ないじゃん。うちだって、プロゲーマーを仕事にしてる以上、今よりもっと強くなりたいのは、当然でしょう?」
「そういう事なら、やってやろうじゃねぇか。30分後、訓練場に集合な」
「オッケー。ボコボコにしてあげるから、覚悟しなよ」
「ふん、それはこっちのセリフだ」
こうして、俺とヒナウェーブはログアウトしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ウキワこと
――株式会社レクイエル。
バウンティクロニクルを運営しているゲーム会社である。
関係者カードを通してオフィスに入ると、地味な服装の男が仁王立ちで待ち構えていた。その男はルシラスこと
「こうして、リアルで会うのは久しぶりだな」
「そんなのはどうだっていい。早く要件を言って」
「分かった、俺に着いてこい」
兄が背中を向け足を運ぶと、来葉はそれに引っ付くようについて行く。
「それにしても、よく出場できたな。さすがは俺の妹だ」
「私は上手く利用しただけで、別に何もしてない。あんただって、そうでしょ」
「さあ、どうだかねぇ」
和葉は、腕を頭の後ろに回して、しらばっくれるように言った。
「なんのために、ここまでして死力を尽くしたのか、本番で思い知らせてあげるから、覚悟しなよ」
「俺のギルドとお前のギルドは決勝戦で当たる可能性があるんだったか。でも、勝つのは俺たちだ。そう簡単に譲るとでも?」
「その実力で、よく言えたものね」
「へっ、ほら着いたぞ」
目の前に現れた重厚な鉄の扉の横には、パスコードが付いていた。和葉が、四桁のパスワードを入力すると、「ガチャッ」という音がした。
来葉と和葉を最初に出迎えたのは、数え切れないほどのモニターと、ぐちゃぐちゃになったあやとりのように配線。
それを目に焼き付けた来葉は、ここがどういう場所なのか、すぐに理解した。
「ここは、バウンティクロニクルの核が備わっている。いわば、管理室だな。普段は
「うん、知ってる。ていうか、なんであんたがここの暗証番号を知ってるわけ」
「親父から許可が降りたんだよ。お前にこれを見せるためにな」
和葉は、「そこのモニターを見ろ」と首や手を動かして催促する。来葉は、不貞腐れたような顔で近くに寄ると、モニターをじっと見つめた。
映っていたのは、赤文字で書かれたエラーメッセージであった。
「これを私に見せてどうしろって言うの」
「別に、なんとも言わない。お前一人で、なんとかなる問題じゃないからな。何者かが何らかの目的で、バウンティクロニクルを乗っ取ろうとしている。ただその事実を伝えたかっただけだ」
「はぁ……」
来葉は、モニターの前で大きくため息をついた。
「興味無いし、どうだっていい。私はもう帰るね」
「……待て」
和葉は、呼び止める。来葉は、背中を受けて立ち止まった。
「もし乗っ取られれば、どうなるか……お前の頭なら分かるはずだ」
来葉は唇を強く噛み締めた後、何も言わずにその場を立ち去ったのだった。
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