第49話 サーバーパンク

「あー疲れた。あーめっちゃ疲れた」


「あのさぁ余計疲れるから黙ってくれない?」


「言葉に出せば和らぐだろ? 暑さにやられた時に暑いって言えばちょっと気が楽になるあれだよ」


「あー疲れた、二つの意味で疲れた」


「なんか増殖しちゃったよ……」


 ゲートを潜ると繋がっていたのは水族館のトンネルのような場所だった。


 白と青の発光色がプレイヤーを囲むように輝きを放っており、定期的に外側から流れてくる光のラインが子供心を擽ってくる。


 宇宙というか、近未来感というか……ゲームであることを忘れて、テーマパークに来たのかと錯覚してしまうほど粋な演出だ。


「俺ら絶対また鬼怒哀楽に狙われるよなぁ。あいつら何とかしないとまた面倒なことになるぞ」


「うん……さすが害悪ギルドなだけあるよねぇ……」


 ヒナウェーブは眉を顰める。その様子を一瞥したウキワは何かを読み取ったのか口を開く。


「ここまで来れば、一旦アイツらの事を考える必要はないよ。次のエリアはまだ解放されてないから」


「ん? この街を抜けた先のエリアで周回してたんじゃないのか」


「次の街に着いた後、説明する」








「なんじゃこりゃあ……!」


「凄い綺麗……」


 意外と長かった道の先には、ネオンライトが煌めく大都市の景色が広がっていた。いわゆるサイバーパンクと言うやつだろうか。


 ブルーホワイトで彩られた幻想的な構造物は、現実では感じられない胸の高鳴りを生み出してくれる。面白みもない砂漠からの綺麗な街並みという落差で、いつの間にか疲れも吹っ飛んでいた。


 この【タトゥロ】という近未来都市はバウクロ第4の街として知られている。ここで販売されている武器やアイテム――防具などは、他の町と比べ物にならないほど、良い物が揃っているらしい。


「とりあえず着いてきて……言っておきたいことが……」


 ウキワが俺とヒナウェーブに何か伝えようとした途中で、ピコンという音がウィンドウから聞こえた。


『皆さーん! バウクロ楽しんでますかー!』


 明るい声と共に、ウィンドウから画面が表示されると、そこに座っていたのは明るい衣装を身にまとった女性だった。


「この人……ゲームの実況解説で有名な……」


 ヒナウェーブは思い出したかのように呟く。もちろん、俺はそんな情報知るはずもなかった。


『さて、ここからは私――美坂晴子がバウクロに関する最新情報をお伝えしまーす!』


(ふむふむ……そういう系ね)


『最初はこちら! ギルドバンクのランキング発表です! 今回は出場権が認められる一位から四位までの順位を公開します!』


 俺とヒナウェーブは息を飲む。対してウキワは何か分かりきったような表情をしていた。


 そして画面上に4チームのギルドの名前と合計金額が映し出される。


「まあ、そうだよな……」


「ちょっと期待しすぎたかも……」


 俺らのギルドの名前はなかった。にしてもボーダーが高い。最低でも一千万Gは必要になってくるだろう。


 その後、次のエリアの解放予定日や、どんな不具合を改善したのかと言うお知らせを聞かされ……


『賞金を目指すプレイヤーの皆さん! 頑張って下さいね!』


 第一回バウクロニュースは幕を閉じたのだった。


「間に合うのかよこれ……」


 俺はウキワに問いかける。ウキワは真顔でウィンドウを操作して何かを読んでいた。


「ちょっと怪しいかもね。周回が出来なくなったっぽいから」


「ほんとだ、お知らせに書いてあるね」


「お知らせ?」


 俺は、ヒナウェーブの画面を覗く。


「多分、これじゃない?」


 ヒナウェーブが指を差す文を読むと、「タトゥロの扉で行けるクエストが、ランダムではなく同じクエストが発生してしまう事象を修正しました」と書かれていた。


「結局、バグだったんかい……」


「本来だったら三位だったはずだけど、その時に獲得したGはいつの間にか全部回収されてたっぽい」


「それまずくね?」


「うん、まずいね。でも全員が全員死力を尽くせば、必ず出場できるはず」


「めちゃくちゃ精神論じゃねーか」


「いや、実際そうでしょ。てかそれしかないんだから」


 ――ウキワは至って真剣だった。


 俺は賞金のため、ヒナウェーブは戦いの技術を上げるためにこのトーナメントに出場しようとしている。


 しかし、ウキワがこの大会に執着している目的は未だに分からない。


 考えても仕方ないことなのは理解している。だがしかし、気になって夜しか眠れないのだ。


「ウキちゃん、作戦とかあるの?」


「タトゥロに出現する扉に入り続けてクエストをクリアしまくることくらいかな。多分効率はいいと思う。クリア出来ればの話だけど」


「私たち三人で協力すれば余裕じゃない?」


「いや、扉に入れるのは一人までだから単独行動だね」


「よし、分かった。そうと決まれば、もう挑戦してくるわ!」


「あ、私も!」


「はぁ、まだ言いたいことあったのに……全く……」


 ウキワはため息をついて肩をすぼめると、チャットに入力をし始めた。

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