第47話 油断大敵
ガエンという男は全てにおいて特殊だ。ファッションセンス然り戦い方然り、独特な何かを持っている。
――でもな。
人力自動車はどう考えてもおかしいだろ……っ!
「さぁ、避けれるかな?」
ガエンは人力自動車モードで一定の距離まで近づくと、ローラースケートモードに戻し、前輪代わりにしていた武器をフリスビーのように投げつける。
風を斬る音と回転速度から察するに、少しでも掠っただけで致命傷になりそうだ。
「あの武器……多分チャクラムだな」
中学か高校か忘れたが、歴史の授業で習った時ことを思い出す。だとしたら職業は何だ。インド人か?
いや、精査するのは辞めておこう。無駄なことは考えるな。
――飛び道具武器。
この距離なら不手際がない限り、簡単に避けれる。よし、この際検証してみるとするか。
まず、真っ先に俺の元へ辿り着いたチャクラムAを半身になって交わす。
狙いは――チャクラムB。
「――蒼月一閃!」
足に力をグッと込めて刀を腹側に寄せ、素早く振り下ろす。タイミングは完璧。
だが……
「ぐっ……なんだこれっ……!」
重い。前に押し出せない。簡単にぶった斬れるだろうと思ったら、凄まじい回転速度と硬度で上回ってくる。
ただ投げるだけじゃ、ここまで回転しないはずだ。あの時、ウィンドウで操作したスキルの補正が入っているのだろう。
違和感を感じ、反射で繰り出したスキルではあったが、併せて正解だったようだな。
「僕のドーナツ……戻ってきなさい」
「だろうなぁ……!」
もちろんそのくらい想定済みだ。こういう武器はブーメラン系という暗黙の了解というか、そんな鉄則がある。
そうと決まれば、ここは一旦立て直す事にしよう。
「お前は元の家に帰るんだな」
俺はチャクラムBに対しての攻撃を緩め、受け流すと、背後から音を立てて戻ってきたチャクラムAをローリングで回避する。チャクラムBは俺の軌道から外れ、
「ホーミング式じゃない把握」
それが分かったところで、特に意味はない。果敢に詰め寄っても、ローラースケートモードで一定の距離を保ち続けているからである。
「くそっ……全然近づけねぇ……」
正直言ってズルいし、不正だし、卑怯だ。相手は電動ローラースケーター&車なのに対して、こっちは生身の人間。機械に勝てる筈が無い。
ガエンは、自分から勝負を仕掛けてきた割には、なかなかに堅実――ではなく害悪である。
遠距離からチクチクする一定のプレイヤーから嫌われるタイプのアレだ。
もしかしたら、プレイスタイルと職業的に、近接戦闘では勝つ算段が見当たらないから、距離を取って牽制しているのではないだろうか。
もしそうだとすれば、接近戦に持ち込むことで俺の勝利は手堅い。しかし、問題はどうやって俺の射程圏内におびき寄せるかである。
このままでは、不毛オブ不毛。ただの体力勝負になってしまう。
「お前、はよこっち来いや!」
当たるはずもないチャクラムを交わしつつ、俺は叫ぶ。すると、ガエンは苦笑いを浮かべる。
(待てよ……追いかける必要なんて無くね?)
肝心なことを忘れていた。俺がやるべき事はウキワとヒナウェーブの元へゲートを届けることだろうが。
相手がその気なら、こっちも逃げればいい。何せ
「じゃあなレインボー野郎!」
俺は、急ブレーキを掛けると逆方向へ疾走する。
(やべ、どっち方向だ?)
このエリアはマップが機能しない。これ、キツイな。こっからじゃ、ヒナウェーブの合図なんて届くわけが無い。
取り敢えず、今は逃げることに専念しよう。
「くそっ……燃料切れか」
スピードブーストの効果が切れると、足取りが重くなったような気がした。肩身に重力がドンとのしかかったような感じだ。
「やっぱり追いかけてきてんな」
凄まじいスピードで後をつけているのが音で分かる。
――ってもう追いつかれたな。
「やっと勝負する気になったか!」
俺は体を反転させ、砂を蹴り上げる。ガエンと再度対峙する形となったその瞬間、目の前に待っていたのは巨大化したチャクラムであった。
例えるならカスタネットからシンバルになったようなものだ。次いでにと言ってはなんだが、リーチも負けている。
「これを待ってたのさ……僕の巨大ドーナツを喰らいなさい!」
スピードブーストが切れたこと、そして目の前で投擲された事により、受け流す猶予が存在しなかった……
「――狂刃乱舞ッ!」
油断した。完全に油断した。
スキルで強化したであろう、チャクラムの赤いエフェクトが目に焼き付けられる。
「――無明剣舞ッ!」
胸あたりに投げ込まれたチャクラムをスキルによる連撃で何とか耐えてはいるが、徐々に押されていく。
連撃のバフが入って尚これかよ……
「よっと……気分はどうだい?」
俺の真横にしゃがみこみ、下から俺を見上げるガエン。その刹那――俺は帽子についていたエンブレムに気がつく。
「お前っ……鬼怒哀楽のメンバー……だったのか!」
鬼が兜を被っているエンブレムには見覚えがった。橋で構えていたキユウの胸元についていたものと同じ物であると。
「ちなみに、僕が番長……ギルドリーダーってわけさ」
逃げ続けてたのはスピードブーストの効果を切らすため。接近戦は出来ないとアピールし、そう思い込ませれたというわけか。
害悪ではなかった。コイツの戦闘スタイルは知的だったのだ。
「俺の……負けだな……」
「楽しかったよ、ルアくんっ!」
俺はガエンの持つチャクラムBの一閃によって、首が吹っ飛ぶと同時にチャクラムAによって体が半分に分断された。
(ボコボコにされるだろうな……アイツに……)
最悪だ――と心の中で項垂れていた最中、聞き覚えのある声が俺の耳に入る。
「残念……私たちの勝ちだ」
――その声は、ここに居るはずのないウキワの声であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます