第46話 レインボーの男
明らかに、俺目当てでしかないそのプレイヤーの頭上を確認すると、ガエンという文字。
(うーん、聞いた事のない名前だな……)
キユウでもルシラスでもないガエンという男を形容するのなら、誰もが口を揃えて虹もしくはレインボーと言うだろう。それ以上でもそれ以下でもないのは確かだ。
虹色の帽子に、虹色のTシャツ、虹色の長ズボンに虹色のスニーカー。何もかも全身虹色に塗れたコーディネートはルシラスの服装と逆行している。
見るからに頭のネジが外れてそうなプレイヤーだが、取り敢えず攻撃してくる気配も無さそうだし、話しかけてみるとするか。
「あの、なんか用ですか?」
「僕は君に興味がある。是非一度は戦ってみたいと思ってね」
「そうっすか……」
賞金を手に入れ、ランキングに載ってからというもの、俺とヒナウェーブは、顕著に人目がつくようになった。
しかし、エリア内でむやみやたらに勝負を挑んでくるものはいない。
その理由は、PKし放題な代わりに報酬がそこまで美味しくないだとか、勝てないと見込んでいるからだとか、人によって様々な要素が含まれている。
掲示板では、目的もなく無差別PKを行うイカれたプレイヤーもいると聞いたが、キユウの一件を抜きにすれば会ったことすら無い。恐らくだが、ただ単に運がいいだけだと思う。
それらを加味した上で、ガエンという男はいきなり現れ、俺に宣戦布告を申し出た。
本当にただ戦いたいだけで、後をつけてきたとは表情からしても到底思えない。きっと何か別の理由があるはずだ。
「さあ、
ガエンは羅針盤をインベントリから取りだし、見せつけてくる。全身眩しすぎて、錆びきっていた羅針盤が輝いているように見えるな……
「なるほど……でも確か、PKされた場合所持金の一割持ってかれるんだったよな? インベントリからアイテムを抜き取るのはシステム上不可能だと思うが?」
「煌星遊戯宮のルーレットでたまたま一等を当ててさ、略奪の
「あー、そんな物もあったっけなぁ……」
過去の記憶から情報を引っ張り出すと、ガエンの言っていることは本当だと分かった。流石一等なだけあって破格なアイテム――ってこれまずいな。
交換用のアイテムはウキワのお陰で余裕はある。しかし、一番の懸念は、俺が
広大なエリアの中で擬態しているアイツを羅針盤無しで探し出すなど、あのクエストがどんな条件で発生するのかも分からない以上、しんどいにも程がある。
今思えば、手分けしたとしても二時間以上はくだらない作業をウキワは一人でこなしてたということか。
勉強は続かないが、ゲームなら集中できる理論が存在しているとはいえ、アイツの忍耐力はえげつない。
まあ、賞金補正で俺もやろうと思えば出来るんだけども。
「君が戦いを拒否するなら、退いてあげてもいいけど……どうする?」
選択肢は二つ。ウキワとヒナウェーブの元へ戻る(逃げる)か、どちらかが勝つか負けるまで戦うか。
もし負けたら大戦犯。そうなった場合、あの死神にリアルで半殺しにされそうだな……
――よしここは、安定を取るか。
「来ないなら、こっちから仕掛けてやるよオラァ!」
このゲームの大筋は"賞金"だ。
キユウのような害悪行為を楽しむイカれた連中もいるが、参加者の多くは賞金の為にバウクロをプレイしている。
ここで逃げ出すような奴は、賞金なんてもってのほかだ。それに、勝負は本気でやるから面白い……!
「……想像以上に狂ってるね、楽しみだ」
ガエンはそう呟くと同時に、ウィンドウを表示させノールックで操作し始める。
(詠唱しないタイプか……?)
スキルは、詠唱するかウィンドウに表示されているスキルの項目をタップすることで発動可能だ。
後者の強みとしては、スキル名を隠せること。弱点は操作時間による隙が生まれることにある。
でも、俺には関係ない。プレイヤーだろうが、モンスターだろうが、脳内で相手の動きを予測しながら戦うため、結局やる事は変わらないからである。
「おらぁぁぁああぁああ!」
スピードブーストを使い、右足を踏み切ってジャンプ――からの刀を垂直に振り下ろす直前、ガエンの足元からギュイーンと機械のような音が聴こえた。
「はぁ……?」
綺麗に空振ったかと思えば、ガエンは前傾姿勢になり、後方にスライドし回避していた。なんだその滑らかすぎる移動は……。まるで、足にタイヤでも着いてんのかってレベルだ。
「僕のスピードに着いてこれるかな?」
ガエンはドーナツ型の円盤のような武器を手に持ち、地面に接着すると四足歩行で肉薄する。
いやキモイわ!
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