第43話 それぞれの思惑

「なんでルアくんだけ行かせたの?」


「スピードブーストで制限時間内に辿り着ける可能性が上がるからね」


「だったら、少しでもついて行った方が効率よくない?」


「いや、ボコボコにするためだよ」


「え?」


 ヒナウェーブは脈絡のない言葉に対して、分かりやすく眉を顰めると、ウキワは砂漠の地面にすっぽりと埋まっている岩に視線を合わせる。


「岩の裏にプレイヤーが二人いる。多分、私のマーキングを壊した張本人だと思う」


 ヒナウェーブもちらりと岩の方向に目を向けると、角と兎の耳らしきものが動いているのを確認した。


 ある程度距離が離れているかつ話に夢中で、言われるまで気が付かなかったヒナウェーブは、頭隠して尻隠さずならぬ尻隠して頭隠さずという状況に苦笑いを浮かべつつ、ウキワに疑問を投げかける。


「た、確かに……人が隠れてるのは分かるんだけど……なんで犯人だと思うの?」


「いや、勘だよ」


「え、あ、ソウナノ?」


 ウキワは何もかも知り尽くしているように見えて、適当に言う癖がある。それが嘘なのか本当のことなのか分からないのが、ヒナウェーブにとって厄介な問題だった。


 しかし、その適当さが何を意味するのかを考えたことは無い。単純にちょっとしたジョークとして捉えているからである。


「まあ、だとしても関係ないんだけどね。私たちに手出すなら一千倍にして返してやるだけだから」


「そ、そうだね……」


 ――すると、岩陰から笛花火の音と共に発光弾が放たれる。


「来るよッ!」


「うん、分かってる」


 桃色に煌めく楕円上の光は、放物線の軌道を描いて、上空から急速に落下してくる。誰を狙っているのかは単純明快だった。まるで、隕石が落ちてくるかのような感情を抱きつつ、二手に分かれて、回避する。


 そして、謎の光はウキワとヒナウェーブが元いた場所にドカンと鈍い音で着弾すると、その中から現れたのは……


「ニャハハハハハハハ! 爆発からのー参上!」


「復讐しに来たぜ? ヒナウェーブ」


 一本橋の上で害悪行為を繰り返していたのにも関わらず、何故か生き残っているキユウ。その隣に立っていたのは、白いモコモコの服にうさ耳フードを深く被っているヴァリーレバレットというプレイヤーだった。


「ふーん、そういう事ね」


 ウキワは全てを察した――というより知ってたような表情で鎌をインベントリから取り出す。


「兎だ! 可愛い!」


「でしょでしょ!」


「はい! センスの塊ですね!」


「こんな筋肉馬鹿と比べて魅力しかないよね!」


「馬鹿馬鹿うるせぇんだよお前は」


 ヒナウェーブは、いつの間にかヴァリーレバレットのマスコットキャラクターのようなファッションに釘付けになっていた。


 それもそのはず、彼女は大の動物好きであり、その中でも兎はピラミッドの頂点に位置するほど愛しているのだ。


 家では、雪のように白い「ミルク」というペットの兎を飼っており、疲れた目を癒してくれるのだとか。


「で、私たちになんか用?」


「俺はヒナウェーブに復讐をしに来ただけだ」


「あっそう、でそこの兎は?」


「アンタを倒しに来ただけだよ、ニャハハ!」


「ん……私、なんかしたっけ。初対面なはずだけど」


「だって、紫で可愛くないんだもん」


「ああ、そう……」


 ウキワは次第に、鋭い眼光をレバレットに浴びせる。


「レバレット、そっちは任せるが俺の戦いに手出すなよ」


「あの子は私の魅力を分かってる。だから今回は殺さないであげる」


「ふん、行くぞ」


 余程やられ方が気に食わなかったのか、復讐を目論むキユウと兎の虜にされたヒナウェーブ。そして、戦闘狂の兎ヴァリーレバレットと狂人ウキワの戦いが火蓋を切って落とされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る