第42話 忍び寄る影

 俺たちは、砂塵の魔導師を倒した後、見慣れた謎の光によって転移された。ふむ、ここは未開の砂漠で間違い無さそうだ。


「お、ちゃんと戻って来たね」


「ああそれにしても、あそこまで作戦が刺さるとは思ってなかったな」


「ダウト。想定してた作戦じゃなくてたまたまだったし」


「え、そうなの?」


「まあそうだけど、別に勝てればどうだっていいだろ」


 左右から嫌な視線をひしひしと感じるが、空想上の絶対防御障壁でガードしつつ、無理やり話を進める。


「てか、レジェンドクエストの割に報酬しょぼくね? 一律50万Gは超ありがたいけどさ」


「確かに、いまいち……なのかな? ウキちゃんはどう思う?」


「多分、エリアボスとレジェンドクエストが合算されてるからだと思う。アイテム一個は流石に有り得ないからね」


 よく分からんが、ウキワが言うのならそういうことなのだろう。気になるのはそののアイテムだ。一瞬で転移されたから、確認する暇なかったんだよな。


 ・砂人の羅針盤

 砂漠に迷いし少女【サーリャ】の方角を示す羅針盤。


 ――ん、あれ……?


「なあ【サーリャ】ってもしかしてお前が言ってた交易できるNPCの事か?」


「間違い無いね」


「て事は、NPCを探す手間が省ける……ってことか!」


「えー! 神アイテムじゃん!」


 蓋を開けてみたら、しょぼいなんてことは無かった。むしろ、このエリアで誰もが欲しいであろう最強のアイテムである。未開の砂漠RTAなら必須レベルの代物だ。


 いやマジか。あまりにもタイムリーすぎる。それに、手のひらを返さざるを得ない。ああ、さっきのしょぼい発言今すぐにでも撤回させてくれ。あとで天罰が下るのだけは勘弁してよ。


「で、その方角は?」


「え、ああ。……北東だ」


「でも10分たったら別のところに行っちゃうんだよね?」


「だから、ルアにやってもらう」


 ウキワはウィンドウを操作し始める。数秒経ち、送られてきたのは交易に使う素材だった。


「交易して、次の街に繋がるゲートをインベントリに入れる。で、戻ってきて。私たちの位置はヒナちゃんが合図するから」


「おーけー、速攻で終わらせてくる」


「あ、一応言っておくけど、そのゲートは絶対にインベントリから出さないで。7秒で破損して使えなくなるから」


「心配性かよ。あと俺がそんなヘマすると思うか?」


「思う」


「何でだよ」


 ウキワは幾度となく真顔でそう言った。いつもより冷静沈着な気がするが、そんな事を考えている場合では無い。見飽きた砂漠をいち早く脱出して、次のステップに行こうじゃないか。


 俺はスピードブーストを使用し、爆速で少女の元へと向かった。


 ――あのギルドが近くに居ることを知る由もなく。


 ◆


「番長、アイツらが俺を倒したギルドの奴らだぜ」


「ああ、間違いないようだな」


「さっさとぶっ倒しちゃおうよー。私たちの計画を邪魔されたんだしさぁ!」


 砂漠のちょっとした岩陰に隠れ、身を潜める三人のプレイヤー。その目線の先には、ルア、ウキワ、ヒナウェーブの名前が映し出されていた。


「お前は落ち着きが無さすぎるんだよ馬鹿」


「油断してヘッドショット食らった馬鹿に馬鹿って言われたくないね」


「正論言われちゃ、何も言い返せねぇな」


「ふふっ」


「見ろ、一人なんか持ってどっか行ったぞ」


「アイツは俺と睨み合っただけの子猫ちゃんだな」


「あの猫の人、賞金ランキング一位の人じゃない?」


「ああ、あん時は強そうに見えなかったが、俺は見くびっていたようだ」


「で、お前を倒したのはどいつだ」


「ヒナウェーブ……アイツだ」


「確か、女子高生プロゲーマー何だっけ?」


「そうだ。銃ゲーの世界大会にも出場してたらしい」


「ふふーん。って事は強いって事だよね!」


「俺は、別にそうは思わないけどな。接近戦に持ち込めれば余裕だろ」


「馬鹿だから、頭も筋肉で出来てるんじゃない?」


「ちっ、さっきからやかましいんだよ」


「どうでもいいからお前らさっさと戦ってこい。俺からの命令だ」


「番長はどうするんですか」


「俺は一旦街に戻る。それに、ここで死んだら元の子もないからな」


「確かに、ギルドリーダーだもんね!」


「それもあるが、他にやることがあるからな」


「じゃあなんで着いてきたんすか」


「アイツらを一目見たかっただけだ」


 そう言い残すと、番長と呼ばれる男は速やかに去っていった。


「珍しいね。番長があそこまで目を引くなんて」


「ああ、余程魅力的なんだろうな。俺の筋肉には見向きもしないくせに」


「誰も興味無いでしょ。ほとんどが賞金を志してるクレージーなんだから」


「ふん、そうだな」


 害悪ギルド鬼怒哀楽のメンバーとして名を馳せるキユウとヴァリーレバレットは岩陰からタイミングを伺っていた。

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