第41話 砂も積もれば山となる

 即座にスピードブーストを使い、武器を交えた結果「意外と行けるぞ」と感じたのもつかの間、相手もスピードブーストを使用してきたことで、それは無に返されることとなった。


 この魔道士は自分からスキルを使おうとしない。ウキワの戦闘から見ても、相手がスキルを使えばオウム返しで応えるタイプなのは間違い無さそうだ。


 すなわち、1対1で攻撃スキルを使用すれば、致命傷になりかねない。それに、俺たち三人の長所がAIの戦闘技術に踏襲されているため、たとえスキルを温存し続けたとしても、勝ち目は無いと言える。


 それでもウキワは余裕そうな表情で戦っていた。見るのと実践するのでは天と地の差があるという訳か。


 今の俺は永遠に耐え続けるだけのサンドバッグと化している。インフィニティ・アタックで殴られまくったサンドバッグ君の気持ちがよくわかるよ全く。


「よし、あと頼む!」


「ちょっ、ねぇ?」


 俺は魔道士のヘイトをヒナウェーブに擦り付ける。理由は後で考えておこう。


「か弱い女の子に託すとか最低だね」


 ウキワがボソッと呟く。


「か弱い? あの動きを見て、本当にそう言えるか?」


「んー、言えないかもね」


 射撃で牽制しつつ、銃を剣のように扱い、鎌をブロック。その隙の時間で瞬時にリロードを挟み、攻撃――という今まで見たことの無い戦闘スタイルを実際に目の当たりにする。


 狙撃手スナイパーは近接的な攻撃に弱い。スキルによっては何とかなるかもしれないが、詰められたら即終了と考えるのが妥当だろう。


 しかし、その明確な弱点をヒナウェーブは実力で補完している。狙撃手スナイパーとしての腕だけでなく、接近戦もここまでだとは思ってもいなかった。


「もう限界!」


 ヒナウェーブはウキワにヘイトを受け継ぐ。なんでかは知らん。


「あのさぁ……協力すれば済むことでしょ!」


 ウキワは、再び対峙しつつ叫ぶ。


「最初に擦り付けてきたお前が言うことかよ」


「結局一周して同罪になっちゃったけどね……」


 俺が、ヒナウェーブに魔道士を受け渡したのは、作戦を立てるための時間を稼ぐためである。まあ、無意識に考えていただけで、後付け何だけども。


 それはともかく、ウキワが俺に引き渡したのは作戦を練る時間が欲しかったのだと思う。ヒナウェーブは何も考えてなさそうな顔だが、きっと策を抱えている事だろう。


 そろそろケリをつけるとするか……


「ちょっくら倒してくる。一旦スキルは使わないで、牽制だけ頼む!」


「え、あ! うん!」


 コイツを攻略する鍵となるのは、スキルを使わないこと――ではなく、スキルを使って隙を作ることにある。


 というのも、俺がスピードブーストを使用した時は、俺と魔道士との間に多少のラグがあった。恐らく、俺がスキルを使用してから一秒後だったはずだ。


 その前に、あれを試してみるとするか……


引力遊戯いんりょくゆうぎ


 握りしめた刀が引きつけられるのを感じる。これ、使い方によっちゃ邪魔になりかねないな……


 しばらく、様子を伺ってみたが特に何も起こらなかった。


「守護霊は適用されないのか……」


 まあ、元々好んで使う気は無い。これは最後の手段だ。自分の手で倒した方が、楽しいに決まっている。


「本気の勝負と行こうか」


 俺は地面を蹴り上げ、推進し肉薄する。ウキワの動きを見つつ、交互に振り下ろし息を合わせる。今のところ上手くいっているようだ。正直、自分でもびっくりしている。


「何か作戦でもあんのか?」


「ある……けど任せる。多分、私と考えてる事と同じな気がするから」


「ふん、やってやんよ」


 スキルを使わなければ、何も怖くない。その間は準備期間だ。


「ウェブ、フラッシュバーストをウキワに向けて撃ってくれ!」


「おっけー! フラッシュバースト」


 ヒナウェーブの銃口が神々しく光を発すると、一秒後、魔道士の頭に付いている銃口も連動して光る。ちょっとおもろいなこれ。


冥界鏡めいかいきょう頼んだ!」


「分かってる」


 チャージ完了まで残り十秒。それまで、俺とウキワは猛攻する。魔道士は砂でできていることを加味すると、銃を引っこ抜いてぶっぱなしてくると予想しているが、殺られる前に殺れば関係ない。


 5…………………………


 4……………………


 3………………


 2…………


 1……


「来るぞ」


冥界鏡めいかいきょう設置」


 ウキワは一時的に戦闘から離脱すると目の前に鏡を設置する。そして……


「発射!」


 轟音と共に光を率いて鏡に吸い込まれる弾丸。


 通じていたのは俺の目の前に洗われた鏡であった。


 魔道士はそれに合わせて冥界鏡めいかいきょうを設置し、逃げようとするが――不可能であった。


 冥界鏡めいかいきょうの性質として、一つ目の主となる鏡は目の前に設置され、それに繋がるもう一つの鏡は自分で場所を選択出来るというものである。


 つまり、二つ目の鏡は展開できても、一つ目の鏡はプレイヤー、もしくはオブジェクトが目の前にある場合、どうやら塵となって消えるらしい。


 この性質に関しては完全に想定外だった。自分の持っているスキルは自分が一番詳しいもんな。そんなの知るわけが無い。


 ともかく、結果オーライ。想定より楽に倒せそうだ。


「終わりだ、コピペ野郎!」


 ウキワのフラッシュバーストが命中し、魔道士はよろける。そして、芋ずる式に自身のフラッシュバーストも爆発し、無惨な姿へ変わり果てた。


 残りのHPはほぼ残っていなかった。


 俺は発動し得る全てのバフを発動し、決着をつける。


「――蒼月一閃」


 砂塵の魔道士は元の砂に戻り、サラサラと音を立てながら崩れ落ちる。


 一つの砂の山を残して――


『【幻想の開拓者】をクリアしました』


『50万Gを獲得しました』


『砂人の羅針盤を獲得しました』

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