第40話 三大合体!

 砂で作られた人間の子供らしき造形。その右手には杖を携えており、先端には土星を縮小したようなものが付いている。


 地に積もった砂の粒が細かく揺れると、それに呼応するかの如く、砂で出来た杖は鮮やかな輝きを放つ。砂の粒子は、振動により中心に集められていき、次第に砂塵の魔道士を包み込むようにして竜巻を発生させた。


 風圧は、扇風機の上位互換程度。システムによる1ミリバリアのおかげで、舞った砂が目に入らないのは実に良心的だ。という事は、花粉症を持ち合わせている人も未然に防げるのだろうか。


 まあそれはともかく、今から何が起ころうとしているのか全く想像がつかない。いきなり化物に変身した後、暴走したりしてな……ははは。


 そんなことを考えていると、竜巻が前触れも無くスっと消える。その時、俺の目に映ったのは衝撃的な姿だった。


「なんか……きもくね……」


 一つ一つ整理しよう。まず猫のお面を付けている。色は若干違えど、俺の付けているものと同じやつだ。次いでに、ヒナウェーブのヘッドフォンも耳にかけている。そして、手に持っているのはウキワの武器である二つの鎌。


 すなわち、俺たち三人の合成体ということがひと目で分かる。問題は、合成体の完成度だ。


 ――なんで俺の刀とヒナウェーブの銃が頭に突き刺さってんだよ!


 ――普通、背中とか腰に装備するだろうが!


 ――服もなんか……チーター見たいな柄になってるしな!


「あははははははは! ちょっと待って……し、死ぬぅ……!」


 恐怖からの「死ぬぅ」ではなく、別の意味での「死ぬぅ」を頂戴する。ヒナウェーブはツボにハマったのか、銃を地面に突き立て支えにしつつ、空いた片手でお腹を抑えている。


 確かに、見方を変えれば面白くはあるが、疲労とか、賞金が無いのも含めて俺はそんな気分にはなれなかった。


 そんな中、ウキワは砂塵の魔道士のHPが表示されると同時に、駆け出していた。


 ウキワは死神ノ刃ラ・モール・エッジを起動し、容赦なく斬りかかりに行く。砂塵の魔道士は、殺意を向けた接近に気づき、相応の鎌で対抗する。


「あの魔道士……強いな」


 このクエストがレジェンドクエストに分類させられている理由が目に見えてわかる。あのウキワが少しづつ押されているのだから。


 クエストの内容は違えど、同じ難易度に分類されるレジェンドクエストを周回していたというウキワ。その件もあって、あいつ一人で余裕だと、勝手に思っていたが、今回ばかりはそうもいかないようだ。


 惜しみなくスキルを使用しているのを見るに、手を抜いているようには思えない。


 葬魂の爪痕そうこんのつめあとのような条件制で発動できるスキルでも準備していると考えるのが妥当か。


 それにしても、俺が戦った複製体より見違えるほど精密だ。ウキワの戦闘スタイルと俺の戦闘スタイルを混ぜたような……


「私の動きも混ざってそうだね」


 ドカ笑いから開放されたヒナウェーブは、さり気なく声をかけてくる。そうは見えなかったが、ヒナウェーブが言うのなら間違いないという信頼がある。


「うーん……」


 もう一度、変人と狂人の戦いに目を向けると、ある事に気がついた。


「飛び蹴りに回し蹴りねぇ……え?」


「デッドリー・クロスファイアって、ある程度対人戦も強くないと戦えないからね。自己流で練習してたらいつの間にかあんな風になっちゃった」


 ヒナウェーブは、こう見えてストイックな所もあるのか……。流石はトップを走るプロゲーマーだ。その努力を惜しまない精神力が強さの秘訣なのだろう。


「軽々しく言いますけど、大概えげつない動きしてますよ、あれ」


「いや、多分補正で盛られてるだけだと思うよ」


「というと?」


「あの魔道士は私たち三人の強みが一つに纏まった複製体。だから私の強みにルア君とウキワちゃんの強みが乗算で上乗せされてるって事」


「あーそういう事か」


 そう考えるとアイツが絶妙に押されてるのも納得だ。とはいえ、最初に対峙した複製体の事が気になる。見た目とスキルをコピーしただけで、戦い方は完全に別物でしか無かった。


 いやもしかして……


「ウェブも誰かの複製体と戦ったんだろ?」


「うん、そこにいる猫の仮面の人だね」


 間違いなく俺だ。まあどうでもいいとして。


「その時、完璧な複製体を作り出すために動きを見定めてたのかも」


「つまり、あの複製体は捨て駒だったって事?」


「ああ。憶測でしかないが、その可能性は高いと思う」


 で、どうしようかといったところでウキワが魔道士を引き連れて、俺たちに近づいてくる。いや訂正しよう。ではなく、完全に狙いだ。


「はいパス!」


 ウキワはスライドして、視界から外れるとヘイトが俺に切り替わった。


「あっぶっっっっ!」


 サイドから鎌に挟まれそうになるも、難ありで交わす。


「充分戦ったから、あとは宜しくねー」


「へ、へい……」


 一人じゃ、無……無理!

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