第39話 砂塵の魔道士
無事ウキワの複製体に勝利を収めた俺は、一方通行に整備された道を進み続ける。
「うーん……」
心の底から湧いてくるやるせない気持ちが自分を襲う。結局、守護霊頼りで個人の力じゃ何も出来なかったのが気に触ったのだろう。レベルやスキルの差は言い訳にしたくない。実質負けだ。
それに加えて景色が変わらないのがすッッッッッッごい苦痛でしかない。そう感じるのは、きっと賞金が懸かっていないからだろう。
クエストをクリアする事が無意味――までとは行かないが、心理的に億劫にならざるを得ない。
このクエストは、出口のないトンネルを進み続けるようなもので、作業ゲーだということも関係あるかも知れないな。
加えてラルメロに関しては、いくら俺が話しかけても「ぬ゛」しか言わなくなったし、おちょくろうにもおちょくれない。
「はぁ……」
抱えた思いを吐き出すかのように、大きなため息を吐きつつ、脳死で前進コマンドを入力し続ける。
その間に現れるゴーレムの首を切り、その頭で全身をかち割り続けること二十分。ようやく目の前に白色の光が見えた。
「おっ……きったあぁぁぁぁぁ!」
いままでに出したことのないような声量で叫ぶと同時に駆け出す。蓄積された疲労ゲージが足を踏み出すたびに回復していくの実感しつつ、仮面の奥から笑みが零れる。あとはゴールテープを切るだけの簡単な仕事だ。
ついに、ここまで来たんだと幾度となく紡いできた思いを足取りに込める。
そして、光を通り抜けた瞬間……
「あっ」
さっきの笑みはどこへ言ったのやら、状況を直ぐに察した。俺の目に映ったのは、砂岩の台座に乗り、砂の杖を持った人間のような造形のモンスターとそれを見上げていたウキワだったのだ。
ウキワは音で気づいたのか俺を一瞥すると「手伝え」と言わんばかりの目つきで威嚇する。何が言いたいのか大体察しがついた。
「もう……わかったよ」
何故かは分からないが勝負に勝って、試合に負けたような気持ちを心に抱きつつ、特に何も考えずに突撃する。
名は『砂塵の魔道士』。レベルは65。全身は砂で構成されており、ローブのようなものを羽織っている。身長は、140センチ程だろうか。何かの像にしか見えないそれは、台座の上で目を瞑り、直立不動で待機している。
「ムーンスラッシュ」
一切躊躇せず、スライドさせるようにして一文字に切り裂く。しかし、一切感触がなかった。砂に対して刀が貫通しただけのことだ。なるほど、これが砂の強みか……
つまり、ウキワが戦わず砂塵の魔道士を凝視していたのは、攻撃が通らないのを知っていたからと言うわけだ。じゃあなんで睨んだんだよという話だが、考えるほどの気力も無かった。
「なあ、コイツどうやって倒すんだよ」
「知ーらないっ」
「他人事かよ」
「はい? 事実を述べただけで何が悪いわけ?」
やっぱ本物は根本的に何かが違う。AIが人間に勝てない理由が少しわかった気がする。
さて、気を取り直してこっからどうするか。再度『砂塵の魔道士』に切り替えると、あることに気がつく。
「あれ、コイツ……HPゲージ無くね?」
「知ってる。だから倒せないって言ってる」
「ふむ、でウェブの奴は?」
「今来たみたいだよ」
ウキワは腕を組むと、ヒナウェーブが歩いてくる方向に焦点を合わせる。
「もしかして、待たせた?」
「いや、全然。それより……」
俺が、例の複製体について語ろうとしたところで、地面に異変が起こる。
ウキワはその意味を理解したのか、鎌を回転させ戦闘モードに移行した。
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