第44話 戦慄

光明弾こうめいだん!」


 レバレットは右手に装備された小型のフレアガンを自分とウキワに向け発射する。


 弾丸を中心に纏わりつく光ではなく、弾丸が自発的に光を発しているような、ヒナウェーブとは違う種類の弾は放物線ではなく直線的にウキワの元に向かってくる。


 ウキワは反応し、斜め後ろに避けると、砂の地に着弾した閃光弾からもわもわとした桃色の煙が視界を覆う。


 すると、ウキワの元に着弾した煙の中から、二本の短剣が飛んでくる。


「――く……っ!」


 両手に持った鎌をクロスさせて短剣を弾くと、その中から煙を切り裂くように飛び出してきたのは、飛んできた短剣と同じものを片手に携え、赤い目を光らせた白い兎だった。


「よく反応できたね!」


「いや、さっきの登場である程度察しはつくでしょ」


 平然を装っていたウキワは内心焦っていた。というのも、


 小柄ならではの機動力を活かした独特なステップと、軽い短剣の強みを利用した投擲のコンビネーションは、大鎌の圧倒的なリーチを上手く補っている。


 ウキワの瞳孔に映っていたのは、プレイヤーではなく人間を狩る凶悪な兎そのものであった。





 一方、ウキワはキユウの刺々しい棍棒による猛攻を、持ち前の格闘スキルとスナイパーを使いこなし、ひたすら耐え続けていた。


狙撃手スナイパーの割には、なかなか動けるじゃねぇか」


「一応、プロゲーマーなんでね!」


 ヒナウェーブは、飛び蹴りを顔面目掛けて、叩き込もうと足を振るが、キユウは空いた手で、足首を掴む。すると、ヒナウェーブの視界が反転した。


「ふんっ、終わりだな――狂鬼の一撃テルムインパクト


 MPを大幅に消費する代わりに、ATKを一定期間二倍にするというステータスアップに加えて、武器に狂鬼の一撃テルムインパクトを発動したキユウは背中から大きく振りかぶり、叩きつけようとするが……


変遷空砲エアリスキャノン!」


 ヒナウェーブは、レベルアップによって手に入れたスキル変遷空砲エアリスキャノンを宣言すると、銃口を地面に向けて引き金を引いた。


 すると、上体が空気抵抗を受けつつ、スッと光の速さで宙に浮かぶ。そこからは一瞬の出来事だった。


「うっ、ぐっ……」


 気がつけばキユウは何が起こったのか理解出来ぬまま、雲ひとつない青空を見上げていた。そのうえ、声も発することすら許されない状況に呆然とする。


「弾速強化、ヘビーバラージ……からの零距離射撃【煌】」


 威力を上げるバフを全て積み、距離が近ければ近いほど攻撃倍率を上昇させるスキル零距離射撃【煌】を宣言すると同時に、額に当て引き金を引くと、軽い音が砂漠の荒野に響く。


「プロゲーマー……舐めてもらっちゃ困るよ」


 しばらくすると、キユウはポリゴンとなってあっさり消滅した。


 それから、ヒナウェーブは一度深呼吸をして呼吸を整えると独り言を呟く。


「いくら筋肉があっても、麻痺には敵わないものね」


 状態異常【麻痺】は、一時的に行動不能になるというものである。痺れが続く限り、声すら発することすら許されないシステムとなっているため、麻痺った時点で格好の的でしかない。


 麻痺になる条件として、キノコ系のモンスターによって噴出される胞子を浴びる。もしくは、そのモンスターを倒すことで手に入るアイテムをポーション化し、飲むor触れることで【麻痺】を得ることが出来る。


 しかし、ヒナウェーブは空砲で上空に上がると同時に、武器であるスナイパーを素早く振り下ろすキユウの肘に当てることで、ファニーボーン現象を誘発させ、麻痺を強制的に付与したのだ。


 かつて、ルアをストーカーしていた際、ヒナウェーブは不注意で肘が硬いスナイパーと接触し、軽い麻痺を起こしたというちょっとした事件があった。


 それを思い出し、ヒナウェーブは決死の作戦に挑んだのだ。


(あっちの戦いは終わったのかな……)


 先程まで、バコンバコンと鳴り響いていた音はいつの間にか静まり返っていた。ちょうどあっちも戦いが終わったのだろうと桃色の煙が立つ方向へ足を運ぶ。


 ヒナウェーブはウキワを心配すらしていなかった。どうせ勝つから大丈夫だろうと気にも留めず、目の前の戦いに最大限のパフォーマンスを注ぎ込んでいたのだ。


「はぁ……はぁ……」


 ヒナウェーブはスタミナの減少による疲労モーションを喰らいつつ、煙の近くまで寄って立ち止まる。


 すると、風によって煙が流され、徐々に人影が露になる。


「あれは……」


 ヒナウェーブは、そのシルエットに違和感を感じた。身長も武器もコスチュームも何もかもが

 ウキワと真反対でしかないのだ。


「そんな、ウキちゃんが……やられるなんて」


 全てを察し、頭の中が空白で埋まる。そんなはずないともう一人の自分が葛藤するも、目の前の情報に対して何一つ覆ることはなかった。


「討ち取ったりー! ニャハハハハ! 」


 満面の笑みで高笑いを見せるヴァリーレバレット。ヒナウェーブは、周りを必死に見渡すが、ウキワの姿は確認出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る