第35話 砂漠の掃除屋

「犯人とっ捕まえて何たらかんたら言ってたけど、どうやって見つけんだよ」


 黙々と歩みを進めるウキワに対して、俺は問い掛けるが、振り向く様子もなければ、反応すらしなかった。


「そうだよ……ルア君の言う通り、無謀だよ……」


「…………」


 ダメだ。この状態のウキワは手が付けられない。まるで時計の針のように永遠と進み続けている。


「足跡でも残ってれば、わんちゃんあったのにな」


「……足跡?」


 俺がふと呟くと、ヒナウェーブは何かに気づいた様子で後ろを振り向く。


「ん、どうかしたか?」


「……私たちの足跡消えてない?」


「いやいや、そんなまさかな……」


 ヒナウェーブから視線を地面に移し、足跡を観察すると、外側から砂が押し寄せ、十秒足らずで平らになるのが見て取れた。


 他のことに気を取られていたのもあって、ここまで全く気が付かなかったのだ。


「ナニコレ」


「さあ?」


 現実世界でも、砂が風に流され足跡が消えると言うのは有り得る話ではある。しかし、未開の砂漠では不可解なことに、一切風が吹いていないのだ。それに、生き物も見当たらない。


 このことから、自然現象では無いということが分かる。だからなんぞやという話ではあるが、頭の中に入れておいて損は無いだろう。


「確かに……足跡が無かったのはそれが原因か」


 ウキワが足を緩めるとそう呟いた。


「普通にゲームの仕様って可能性は?」


「無い……とは言いきれんよな……」


「でも私が最初に来た時、歩き回った足跡があった気がするけどな」


「おっと?」


「怖っ……」


 ウキワの発言によって、心電図が上がって下がって上がった訳だが、とりあえず深呼吸。決してビビってるとかそういうわけじゃ無い。何となくだ、何となく。


「まあ、気にしててもしょうがないよな」


「だね。さっさとNPC探そ」


「いやいや、先に犯人探さないと」


「だから、無謀だっつってんだろ!」


 そんなこんな言い合っていると――


「…………………………」


 全員何かを察したのか、会話が止まる。


 ――足が動かない。


 砂と靴の裏が超接着剤で固定されているような、足だけに何千万倍もの重量がのしかかっているような……。


「何、これ……」


「罠……とかじゃないよな?」


「ちょっとまずいかもね……」


 脱出出来そうなスキル、脱出出来そうなスキル……。


「ウェブ、フラッシュバーストを地面に打て」


「わ、分かった」


 ヒナウェーブはインベントリからスナイパーライフルを取り出し、地面に銃を構える。


「【フラッシュバースト】」


 銃口に光が集まって行く。あまりにも眩しいので、目を瞑り時を待つ。当たり前だが、ギルドのメンバー同士の攻撃は全て無効化される。


 デスしないと頭では理解しているものの、緊張感が走る。自分で指図したものの、ここまで近距離だと怖い越えてフライ(?)だな。


「発射!」


 チャージ時間はおよそ二十秒。放出された大質量の光線は、轟音と共に掻き消される。


 ◆


「どこだよここ……」


 気がつけば、俺はダンジョンのような場所にいた。橙色の砂岩で作られた壁に囲まれ、迷宮の洞窟のように入り組んでいる。それに、水の滴る音も聞こえる。先程まで近くにいたウキワやヒナウェーブの姿も見当たらない。


 バウクロには、フレンドとの通話、チャットが出来る。両方試してみるが、通話は繋がらないし、チャットも送れないような設定になっていた。


「やべぇ事になっちまったな……」


 訳の分からないままそう呟くと同時に、ウィンドウが自動的に開く。


『レジェンドクエスト【幻想の開拓者】を開始しました』


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