第34話 マーキングキラー
「未開の砂漠」を簡単に言い表すなら、だだっ広い普通の砂漠である。歩けば足跡が付く、風が吹けば、砂煙が舞う。未開と言うだけあって、一切人の手が加わっていないのが分かる。
そもそも砂漠というものは、その環境故に、開拓のしようがない。だがそれはリアルの話であって、ゲーム――いわば、仮想空間なら話は別だ。
このエリアを自由リメイクしてくださいと言われれば、テーマに沿って構築する人と現実とかけ離れた構築をする人に分けられる。ちなみに俺は後者を選ぶ。
つまり、このエリアを攻略するには、自分自身が開拓者になれば良い。いや、知らんけど。
「やられた……」
ウキワはしゃがみ込み、さらさらとした砂に触れるとそう呟いた。
――嫌な予感がする。
「やられたって何がだよ」
「マーキングが消された」
「まーきんぐ?」
「私が開拓した道のことだよ」
「「え?」」
俺とヒナウェーブは全てを察してた挙句、シンクロする。
これはめんどくさいことになった。というのも、このエリアは自分の位置情報がマップに映らないようなシステムになっているからである。
適当に歩き続ければ、いつか街に着くのでは?と思ったが、それはウキワの発言によって無に帰された。
「この砂漠は永遠に続いてるから、幾ら歩いたって街にたどり着くことはないよ」
「……ん? じゃあどうやって街に行くんだ?」
「ゲ……」
「ゲートをつくるのだじぇ……」
いつのまにか、俺の右肩に乗っていたラルメロが口を挟む。
「ねえ、この猫どうにかしてしばけないの? うっとうしいんだけど」
ウキワは、珍しく半ギレする。いいぞラルメロ、もっとやれ。
「とは言っても幽霊だからなぁ……。何かしらの方法で復活させるとかしない限り無理だろ」
「確かに、でもそんな事出来るのかな」
それが可能なら良いが……あまり期待はしないでおこう。守護霊という設定が崩れかねないだろうからな。
「そのクソガキの話はもういい」
「猫に対してクソガキは世界初だろ」
「こんな可愛いのに、それは言い過ぎじゃない?」
ラルメロは首を縦に振り、ヒナウェーブが困り顔でウキワに目線を合わせる。
「はぁ……」
ウキワは疲れきった表情で大きくため息を付く。俺は心の中でガッツポーズを掲げる。
「で、そのゲートを作るにはまず、未開の砂漠でしか取れないアイテムを集めてNPCと物々交換をしなきゃ行けないんだけど……」
「もしかしてさっきのマーキングがNPCの位置って事か?」
「そう、だからめんどくさいって話。素材は余ってるから後はNPCを見つけるだけ」
「メロちゃんに聞いたらNPCの位置教えてくれるんじゃないの?」
「確かに、洞窟のルートも教えてくれたしな」
ウキワとヒナウェーブはラルメロを睨みつけ、俺は横目で様子を伺う。
「それは無理だじぇ」
「はぁ?」
「十分毎にランダムで出現するからだじぇ」
「じゃあ、私のマーキング意味なかったんかい!」
何だか今日はドーパミン大放出案件だな。ログアウトしたらクラッカーでも鳴らそうか。
「てことは、ウキワのマーキングを消した奴も次の街にたどり着いてないって可能性もあるよな」
「確かにね……」
「よし、決めた。そいつ特定して、けちょんけちょんにした後、煽ってやろう。そっから……」
「悪どい! 笑みが悪どい!」
「あはは……」
「そうと決まれば、早く行くよ。じゃないと逃げられるから」
俺にはわかる。この発言はNPCの事ではなく、マーキングを消したプレイヤーの事を指しているという事を……。
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