第33話 ウキワの策略
「それにしても、ひっでぇ戦い方だったなー」
「……煽られたんだから、当然でしょ? それに、私がいつもやってる事だし」
「ああ、一応自覚はあったんだ……」
「何、なんか言った?」
「いや、何も」
俺はすまし顔で誤魔化すも、仮面を着けてるため、意味の無いことに気づき、無理やり戻す。
「でも折角なら、報酬貰っとけば良かったのに……」
「それは同感。だって320万G(ゴールド)だぜ? てか、その為に引き受けたんじゃなかったのかよ」
「あんた達が言ってる事は正論だし、勿論そのつもりだった。けど、途中で気が変わった。多分カッコつけたかっただけなんだと思う」
「なんだよそれ」
ウキワのプライドなのか知らないが、どうやらそういうことらしい。正直、俺には意味がよく分からなかった。だが、紛れもなくサイコパスだという事は分かる。
それに、俺には一つだけ気がかりな点があった。
かつて、ウキワと1V1を繰り広げた「デュアル・ネクサス・アドバンス」――通称DNA。
そこで、俺は惨敗した。あの時の俺はルシラスと同じように地に這いつくばり、罵倒を浴びせられたのだ。そこまでは今のウキワと何ら変わりない。違いは、手を抜いたか手を抜いてないかである。
ウキワは手加減をしなかった。そう思ってすらいなかったと思う。視線や動きを見れば一目瞭然だった。俺と戦った時の彼女は紛れもなく本気だったのだ。
これが何を意味するのか――たった今ようやく理解出来たような気がする。ウキワは俺の強さを認めているのだ。賞金という言葉で釣り、俺をギルドに引き入れたのも辻褄が合う。
でも煽ったのは恨むからな。まじで覚えとけよ。
「で、その――周回するっていうレジェンドクエストって何処にあるの?」
「2個先のエリアだね。ギルドルームでそう話したはずだけど」
「あはは、忘れてた……」
ヒナウェーブは、下手な作り笑いを浮かべる。察するに、先ほどの衝撃的な試合で記憶が抜け落ちてしまったのだろう。そうなるのも無理はない。
「つまり、一度攻略済みって事だろ? 今から通り抜ける【未開の砂漠】は、楽に突破出来るってことだよな?」
「それも、ギルドルームで言った!」
ウキワは叱るように怒鳴る。その形相はまさしく鬼であった。
「あ、ハイ。そうっすね」
決して忘れていたわけじゃない。今まで蓄積されてきた煽りの借金を返済するための、ちょっとしたジョーク的なやつである。
ウキワが【ダラワ】に戻ってこれたのは、彼女が安全なルートを開拓したからであって……と自身の口からそう聞かされたからな。
未開なのに、開拓できるんかいというツッコミをしたくなるが、それはともかく――先駆者でありながら実力者でもあるウキワから、その言葉を聞いてもなお、俺は楽に攻略できると思っていない。
その理由として、今まで攻略してきた二つエリアが理不尽要素込みで難しいということ。これは言わずもがなである。
もう一つは、ギルドを組んだことによるPKが可能となったことにある。
狙うも良し、狙われるも良し(?)のPKシステムは、あらゆる可能性を網羅しているのだ。
それを踏まえたからと言って何か変わるかと言われれば、何も変わらないだろう。
つまり、臨機応変――これに尽きる。基本的に想定外の事が起こるバウクロならではの必勝法だ。
「しっかり着いてきてよ」
「着いてきてるじぇ……」
一応、俺の中に隠れてろとしつけしておいたラルメロが、仰向けで顔だけチラつかせてそう言った。
「あんたに言ってない! それに気持ち悪いわ!」
――俺は、新たなるエリア【未開の砂漠】に踏み入れる。
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