第31話 兄弟バトル

 ウキワが言うには、レジェンドクエストはG(ゴールド)も経験値も美味いらしい。


 そこに向かうべく、次のエリアを攻略しに足を運んでいると……


「お、奇遇だねぇ……」


「その声は……」


 一人の男が突如として現れ声をかけてきた。


 比較的高身長なアバターに黒の革ジャンとジーパン。ファンタジー感のない私服すぎる装いに、違和感しか感じない。


「……お前の知り合い?」


「うん、私の兄だよ」


「えっ? 兄弟いたんだ……」


「俺も今初めて聞いたわ」


【ルシラス】という男はウキワの「兄」との事。確かにイケメンだし、似てるとは思ったが、ほんとにそうだとは思わなかった。


「ウキワ……お前に用は無い。後ろの二人を渡せ」


 その言葉に俺とヒナウェーブは顔を見合わせる。


「無理。元々私が目付けてたんだから」


「じゃあ僕と1V1をして、お前が勝ったら、俺らのギルドが保有しているG(ゴールド)を全部くれてやると言ったらどうだ?」


「金額によっては普通に断るけど。それに、証拠がないじゃない」


「ふん、これが証拠だ」


 ルシラスはウィンドウを操作し、ゲーム内で撮影されたスクリーンショットをウキワに送った。


「320万Gねぇ……で私が負けたら、この二人を渡せと」


「流石は僕の妹だな。飲み込みが早くて助かる」


「分かった、やろう。けど……もし私が負けたとして、ギルドの解約金は払ってくれるの?」


「ああ、当たり前だろ?」


 そんなわけで、急遽、俺とヒナウェーブを賭けた対決が始まった。


 場所は【ダラワ】にある訓練場である。ここでは1V1はもちろん、様々なパターンで練習を積むことができるらしい。俺も更なる高みを目指して、今度練習しに来ようと思う。それくらい、設備が充実していた。


 今回は50レベル統一で三本先取の1V1。リスポーン地点はその場に設定され、デスペナルティもここでは発生しないようなシステムになっているそうだ。


「兄弟対決ねぇ……」


「どっちが勝つと思う?」


「どうだろう。相手の動きを見ないと分からんな」


 立ち姿から見て、強そうな雰囲気はあるがどうだろうか。


 個人的にはウキワがどんな戦い方をするのか楽しみではあった。


 ウキワは両手に鎌を携え、対するルシラスは漆黒の剣を見せつける。


 一戦目――


 先に動いたのはルシラス。


 ウキワは動じず、武器を構える。


「――日蝕エクリプスヴェール」


 接近しつつ、そう唱えると漆黒の剣が闇のオーラに包まれる。そして、単純に振り下ろす。


 ウキワは、その攻撃二本の鎌で受け止め、いなす。


 ルシラスは魔剣を振り続ける。しかし、攻撃は弾かれ、交わす。ウキワはスキルを使わず、個人技だけで勝負している。


「――ヴォイドステップ」


 ルシラスは新たなスキルを唱える。すると、ルシアスの体が、瞬間的に移動する。辛うじて目で追えはするが、体は反応出来ない程の速さであった。


「……残念こっちだ」


「――なッ!」


 バフで強化されているであろう漆黒の剣は、ウキワの脇腹を掠める。


「これで終わりだ」


 ルシラスの瞬間移動による猛攻は、ウキワのHPを一瞬で消させた。


「あいつ……まじで何してんだ」


「スキル、一回も使わなかったね……」


 俺とヒナウェーブが困惑するなか、すぐ二戦目が始まった――


 またしても、先に動いたのはルシラス。


日蝕エクリプスヴェール」


 肉薄しつつ、ルーティンの如くスキルを宣言する。


冥界鏡めいかいきょう設置」


 ウキワがスキルを宣言すると、ウキワの目の前に鏡が現れる。そのまま吸い込まれるように潜ると、繋がっていた先はルシラスの背後だった。


闇刃追尾あんじんついび


「……は、どこから……」


 ウキワの腹部にルシラスの魔剣が刺さり、ポリゴンが散る。


「――闇刃爆破あんじんばくは


 ――響くは轟音。両者は煙に包まれる。


 結果的に、ウキワのHPは全て消失し、ルシラスはノーダメージで二本目を制した。


「剣を真上に投げ、スキルで追尾か……なるほど」


「関心してる場合? あと一本取られたら終わりなんだよ?」


「なぁウェブ、ウキワの性格は?」


「良い……」


「なわけないだろ、あいつの性格は、最悪だぞ」


「まあ、そう……かもね? 」


「お前は、あいつの恐ろしさを知らない。あいつは……煽り厨だ」







「やっと本気を出したかと思えばこれか………」


 ルシラスは退屈そうに呟く。それに対して、ウキワは微笑を浮かべた。


「本気なわけないでしょ……こっから徹底的に叩きのめすための準備よ」


 鋭い視線はルシラスに突き刺さった。

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