第29話 二択は同義

「――………にゃぁ゛あぁ…………ほわぁ……」


 時刻は深夜1時半。ログアウトし、凝り固まった体をほぐすと、それに共鳴するかの如くあくびがでる。


 それにしても、このゲーム――異常に疲れる気がする。これまで数多くのVRゲームをプレイして来て、ある程度耐性のある俺が、倦怠感を覚えるのは、初めてに等しい。


「水……飯……」


 家族が眠りにつき、静まり返った深夜。吸い込まれるかのように、階段を降り、冷蔵庫を漁る。そこから冷やしておいた500mlのお茶を取り出し、ごくごくと飲む。


「くぅー! やっぱ飲み物は水かお茶に限るなぁ」


 VRゲームには、エナドリバフというものが存在する。カフェインによる覚醒により、パフォーマンスが上がるとか。


 ちなみに、俺は飲まない。いや、飲めないと言った方が明確だろうか。エナジードリンクを飲むと必ず腹痛に魘されてしまうからである。そのため、俺にとってはデバフでしかないのだ。


 水分補給で潤ったところで、お次は菓子パンエリアをゴソゴソと漁り、イチゴジャムパンを手に取る。右手にはペットボトル、左手にパンを携え、再び自室へと戻った。


 そして、机にお茶を置いたあと、ベッドに座り、菓子パンを頬張りつつ、『ギルド対抗賞金トーナメント』について頭の中で軽く復習する。


 とはいえ、説明されたのはバイトの時と同じ内容で、詳しいことはまた明日集まって伝えるとか言ってたっけ。まあ、深夜で俺含めみんな眠そうだったしな。


「とりあえず、優先すべきはG(ゴールド)稼ぎってとこか……」


 ギルドには、ギルドバンクと呼ばれるシステムが存在する。


 簡単に言えば、ギルド専用の銀行口座みたいなもので、バウクロの共有通貨であるG(ゴールド)を預けたり、引き出したりすることが可能である。


 このシステムにより、多く貯蓄した上位8つのギルドが『賞金トーナメント』の出場権を得ることが出来る訳だが――問題は、だ。


 G(ゴールド)はアイテムを売ったり、クエストのクリア報酬などで入手出来る。あとは、ギルドに所属している輩をPKする事くらいか……。


「PKねぇ……」


 確か、キルされると所持金の半分が譲渡されるんだったか。けど、バンクに預けられてたら元も子もない。つまり、弱肉強食理論で弱そうなギルドを狙えば……。


 ――いや、無理に狙う必要は無さそうだな。


 結局のところ、いい案は浮かばなかった。明日の会議で意見を聞くとしよう。


 いつの間にか、イチゴジャムパンを食べ終えていたことに気づき、寝る前にやるべき事を終わらせた後、俺は眠りについた。


 ◇◆◇


 今日も今日とてバウクロにログインすると、ギルドルーム内では、ウキワとヒナウェーブが飲み物片手に、談笑していた。


「はい、普通に遅れましたと……」


 俺は無理やり割り込み、さりげなく席に着く。


「ごめんなさいの「ご」の字も無いわけ?」


「ごめんなさいだじぇ……」


 俺の胸辺りから貫通し、出てきたのはラルメロであり、何故か謝ったのもラルメロである。そして、机の上に飛び乗ると、ぬいぐるみように座り込む。


「あれ? メロちゃん「ぜ」から「じぇ」になってない?」


 とヒナウェーブ。


「ほんとだ! じゃなくて、謝りなさい」


 どうしても謝らせたいウキワに対して、どうしても謝りたくなかった俺はそれを掻い潜る方法をふと思いつく。


「こいつと俺は一心同体見たいなもんだから良いだろ」


「はぁ……もういいや、めんどくさいので本題入りまーす」


 はい勝ち。何に勝ったかと言えば、不明ではあるが、俺は脳内でガッツポーズを掲げる。


「Gを稼いでギルドバンクに預ける。これが最優先事項なのは重々承知しているはず。けど……」


「それをどう稼ぐかって話だろ?」


 俺は、嫌がらせがてらウキワに被せる。


「ふっふっふ」


「絶対なんか隠してるでしょ!」


「間違いないじぇ……」


 ウキワの不自然な作り笑いから察したヒナウェーブはツッコミを入れると、ラルメロはそれに便乗した。


「選択肢は二つ。一つは、ギャンブル。もう一つは……レジェンドクエスト周回。けどギャンブルは現実味がないから却下かな」


「やろう……」


「え?」


「どっちもやろうって言ってんだよ」


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