第27話 月光輪

 紫色に染められたロングヘア―、紫色の冷酷な目、紫色のローブを身に纏っている――彼女の頭上に表示されていたのは【ウキワ】という文字だった。


「いやー遅かったねぇ。何かあったのかなぁ……?」


 ウキワはわざとらしく言った。俺は、絶対言うまいと口を閉ざしていると、ヒナウェーブが口を開く。


「実は、シークレットクエストに遭遇しちゃって……」


 ヒナウェーブは、隠すことなく事実を伝えた。口止めをすべきだったかと若干後悔するも、明らかに何か知っている素振りだったため、意味の無いことを悟る。


「ふーん。って事は足元に居るその猫も関係ありそうだねぇ……」


 ウキワはそう言って、俺の足元で毛ずくろいをしているラルメロを指差す。


「ちぇ、見えてたのかよ……」


 俺の見解では、あのクエストをクリアしたものにしか見えないのだと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。一応、霊なはずなんだけどな……。


「まあ、そこら辺は後で聞くとして……ほい」


 ウキワは、ウィンドウを開きポチポチと手を動かす。


 ――すると、俺とヒナウェーブのウィンドウが自動的に開く。


《ウキワからギルドの招待が届きました》


《はい/いいえ》


(くぅ……押したくねぇ……)


 賞金に釣られ、やむを得ず約束をしたとはいえ、いざこの画面が目の前に出されると、少し躊躇する。何と言うか、ウキワに負けたような感覚が押し寄せてくるのだ。


 しかし、このゲームにおいてギルドに入るメリットはとてつもなく大きい。故に、入ることを余儀なくされている。


 隣を横目で見ると、ヒナウェーブは既に選択をしていた。


 ――俺は、ウキワの鋭い視線を察知し、恐る恐るタップする。


「で、ギルドを立てるのに10万Gかかるんだけど割り勘にしない?」


「いや、割り切れないが?」


 俺は、提案にツッコミを入れると、ウキワは微笑する。


「私とヒナが1万ずつで、あんたが8万出せば解決じゃん」


「いや計算どうなってんだよ……」


「じょーだん。私が払うに決まってるでしょ。そのくらい余裕で払える額だし。それに、君らを引き入れたのは私だから」


「マイケル?」


 毛ずくろいが終わり、地べたでゴロゴロしていたラルメロは言った。


「ちょっとお前は黙れ」




「じゃあ、ギルドルームに来てね」


 ウキワは軽々しく、言うとウィンドウをポチポチと操作して姿を消した。


「それにしてもAIの上位3人でギルドかぁ……何か良いね」


 ヒナウェーブはそう呟くと逃げように姿を消した。


「全くそうは思わないねぇ……!」


 続いて俺もウィンドウを操作し、ギルドルームの項目が追加されていること確認する。それをタップすると光に包み込まれる。


 ――ギルドルームは、例えるなら近未来チックなカフェテリアという印象だ。木を基調とした大きめの机と椅子が所々点在しており、ギルドルームの中心には、円形の透明なパネルが浮遊している。そこにはマップが映っていた。


「とりあえず、ギルドの名前を決めよっか。何か案出して」


 ウキワが主体となり、場を仕切る。


「インフィニティアタック最強チーム!」


 ヒナウェーブは、意気揚々と答えた。いや適当すぎない?


「はい次!」


 俺に、向けられる目線。案を出させたいんだろうなという強い意志を受け取る。


「ラルメロ……なんか案ないか?」


 コソッとラルメロに聞くも、そっぽを向いてスルーされた。こいつ……逃げやがった……。


「えー、じゃあ月光輪げっこうりんで」


「おっ、それいいね」


 ヒナウェーブが食いつく。


「え?」


「はい、決定!」


「いやいや、もうちょっと考えない? 適当言っただけだからさぁ!」


「あ、もうそれにしたよ」


 こうして、俺らのギルドは【月光輪】となった。

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