第26話 迷宮脱出

 俺とヒナウェーブは、研究所に戻り、博士を探すということで合致。そして、猫の霊であるラルメロは、いきなり眠くなったとか言い出して、俺の体に入ってしまった。全く……自由な奴だ。


 そんなわけで、来た道を引き返し、ハッチを開け、ハシゴを下ると、探すまでもなくラドリー博士が、待ち構えていた。研究所の床に足が着くと、ラドリー博士は、


「ちょっと着いてきてくれぬか」


 と言って背中を向け、歩き出す。


 博士に連れられて、案内されたのは、研究所の中心に位置する地底湖の真下。最初に、見上げたあのすっからかんだった湖である。しかし、その湖は見違えるほど変わっていた。


――多種多様な魚が優雅に泳いでいたのだ。


「凄ぇ……」


「何か……幻想的……」


水中に設置されているライトが、青色に輝く水に反射し、魚が踊る。形容するなら、水族館のプラネタリウム。そんな壮麗で心が安らかになる空間に進化していたのだった。


「お主らが鮫を倒した後、消滅していた湖の生き物が復活したんじゃよ」


やはり、原因はあの毒牙鮫だったようだ。


「じゃあ、洞窟の落とし穴は……」


ヒナウェーブが不安げに問いかける。


「ああ、元の洞窟に戻っているようじゃ。安心するといい」


「ホッ、良かったぁ……」


高所恐怖症のヒナウェーブは、安心しきった表情をしている。それは、俺も同じだった。ゲーム内とはいえ、命綱無しでのバンジージャンプは怖いに越したことはないのだから。


「ああ、そうそう。お礼と言ってはなんだが、これをやろう」


と言って、俺はラドリー博士から宝石のようなものを手渡しされた。


「何ですかこれ?」


「ワシが若い頃、洞窟で拾った石じゃ」


「へぇー」


光を透かすように、頭の高さまで持ち上げる。それは、地底湖の水のように澄んだ空色の石だった。


「それ、貰っていい?」


ヒナウェーブは目を輝かせて言う。


「うん、あげるよ」


売れば、結構な金になりそうだとは思ったが、何となくヒナウェーブに譲渡した。


「で、ラドリー博士はこれからどうするんですか?」


石をしみじみと見回すヒナウェーブを横目に、ラドリー博士に質問を投げかける。


「ワシは、死ぬまでここで研究を続けようと思うのじゃ」


「そうですか……」


「何か困ったことがあれば、いつでも来るといい」


「はい、ありがとうございます!」


その後、俺たちはラドリー博士が教えてくれたエレベーターで洞窟内と戻った。また、迷宮を彷徨う事になったのだ。


「敵も居ないし、落とし穴無くなったらただのめんどくさい迷路だな……」


「確かね……ギミックが無くなったはいいものの、抜けられる気がしないわ……」


先程の戦闘で疲れ切っていた俺とヒナウェーブは、無心で迷宮を進む。


――すると、


「ん……たぁ……よく寝たんだぜい」


ラルメロが背伸びをしつつ、俺の身体からスっと姿を現した。


「なあラルメロ……この迷路……」


「分かるぜい」


「えっ?」


「話は聞いてたぜい……着いてくるんだぜい」


尻尾を揺らしながら先導する。


――そして、十五分後。


「光だ……」


「メロちゃん優秀……!」


「ぬへへ……」


こうして、俺たちは光が差し込む出口に飛び込んだ。


――すると、


「なっ!」


そこに居たのは一人のプレイヤーだった――。

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