第24話 VS毒牙鮫 EX編

 狙うは、毒牙鮫ただ一匹。一旦様子見でスキルをぶち込んでやろうと、考えていると、後方からの閃光を感じ取る。


「フラッシュバーストか」


 ヒナウェーブの思考は相変わらず読みにくい。


 この攻撃だって、最初に話を合わせて置けば、それで良かったはず。しかし、彼女は『臨機応変』とだけ言い張った。


「なるほど……そういう事か……」


 俺は、相手の動きを脳内にインプットしてから、弱点を突くというプレイスタイルである。彼女は、俺の強みを活かそうとしているのだ。


 つまり……


「――連携攻撃ってことだなッ!」


 水中を光と共に切り裂く弾丸は、俺の真上を掠め、毒牙鮫に着弾すると同時に爆発。眩いに、視界を妨げられるも、肉薄し、攻撃を試みる。


「ムーンスラッシュ!」


 三日月のように弧を描き、攻撃するスキルムーンスラッシュ。しかし、当たった感触がない。


『後ろ……!』


 すると指定伝達で、司令塔ヒナウェーブによる、情報が即座に伝えられる。


「マジかよッ……」


 振り向くと消えたかのように見えた毒牙鮫は、左回りに旋回。ターゲットを俺に定めると、口を大きく開け、凄まじい速度で突進してくる。


「スピードブースト!」


 俺は、スタミナが尽きるギリギリまで引き付けて、使用しようと思っていたスピードブーストを、惜しみなく切り、水面を蹴りあげ、横に避ける。


「危っぶねぇ……」


 スピードブーストを使わなければ、致命傷――否、間違いなく即死していただろう。今の判断を自分で褒め称えたいくらいだが、それはコイツを調理してからだ。


『もっかい来るよ!』


 今度は右に迂回し、先程と同じモーションで、毒牙鮫は突進してくる。


「……月影返し!」


 地面を蹴りあげ下に回避し、上空を通過する毒牙鮫のタイミングを見計らって刀を振るう。しかし、刃は通らない。


「あずきバーくらい硬ぇなッ!」


 いやほんとに。水中とはいえ、スピードブーストによる効果も乗っているはずだ。しかし、HPは全く減らない。1ゲージの半分持ってくのも怪しいレベルである。


 永遠に突進&噛みつき攻撃を繰り返す毒牙鮫。それを、一心不乱に交わしまくり、合間を縫って斬る。


「ヒナウェーブのやつは何してんだ……」


 もう十回くらい交わしただろうか。司令塔ヒナウェーブによる指示は一切来ない。


 まさか……小鮫が出てきてやられたんじゃ……。


 焦りと不安が湧き上がる。


 すると、


『なるほど……試してみる価値はありそうね』


 良かった。ひとまず、生きてたようで安心した。


「ん、なんて?」


 俺は、目の前の敵に集中しすぎて、よく聞き取れなかった。


『こっちに毒牙鮫を引き付けてくれない?』


「あいつ何言ってんだ……」


 毒牙鮫のヘイトを俺が稼いで攻撃しつつ、ヒナウェーブも加勢するというシナリオを頭の中で描いていたが、最初以降、彼女は撃たなかった。


 ――なにか狙いがあるのは確かであろう。


「分かったよ……全く。死んだら罰金だからな!」


 俺は、水中を下から蹴りあげ、上空へ向かう。後ろを振り向くと、毒牙鮫が追ってきているのを確認した。


 上を見上げると、ヒナウェーブがスナイパーを構え、待機している。


「連れてきたぞ!」


 すると、ヒナウェーブは少し微笑む。


「……任せな!」


 俺は、タイミングを合わせて右に逸れる。鮫は一直線上で攻撃を繰り返す


「零距離射撃【煌】!」


 ヒナウェーブはスキルを叫び、引き金を引いた。


 ――すると、


「スタンした……それにHPも……」


 今までの攻撃が嘘だったかのような、削り具合に慄く。どういうことだろうか。


「弱点は鼻よ。今のうちに攻撃して!」


「了解、やってみる」


 動きが止まった毒牙鮫に肉薄し、


「蒼月一閃!」


 とスキル名を唱える。刀がブルームーンのように輝きを放つのを感じつつ、鼻目掛けて一閃。


 すると、毒牙鮫は悶え苦しむ。


 ――すると、


「なんだその動き……」


 1ゲージを持っていくと、毒牙鮫は、最下層まで潜り、俺たちから距離を取った。今まで、突進と噛みつき攻撃を繰り返していたあの毒牙鮫がだ。


「小鮫が増えていく……」


 小鮫はこちら側を向き、水中で待機している。


「嫌な予感しかしないんだが?」


 そして、ちょうど二十匹ほど増えたところで、小鮫は素早い動きで向かってくる。その光景は、まるで魚雷だ。


「細かいのは私に任せて!」


 と言い放ち、ヒナウェーブは俺の前に出る。


「弾速強化……からの伝染雷撃!」


 撃ちはなった弾丸は、小鮫1に直撃すると、電気の光が次々と伝染していく。水中ということもあり、その威力は凄まじく、小鮫は爆発して行き、全て消滅した。


「こんな隠し球を持ってたとは……ってそれ俺が追われてた時に使えよ!」


「いや……タイミングがズレたら困ると思って使わなかったんだけどね……」


「ふーん」


 俺は、ヒナウェーブを蔑む。


「と、とにかく、邪魔は消えたからさ……ねっ?」


 彼女は何かを悟ったのか、許してと言わんばかりに、目を丸くさせる。


「なあ、ウェブ」


「ギグッ……」


「俺も、良い作戦思いついたから、ちょっくら行ってくるわ」


「ど、どうぞ?」


 何故かヒナウェーブは、おどおどしていた気がするが、まあいい。


「一瞬でケリつけて来るから待ってろ」


 俺は、そう言い残すと、水面を蹴りあげ湖の底へ向かう。


 しばらくすると、下からいかつい面で俺を見上げる鮫と目が合う。


 毒牙鮫はやはり、突進からの口を大きく開けた噛みつき攻撃を試みる。


「……ここだぁ!」


 食われる直前で、俺は水を蹴りあげる。そして、毒牙鮫の身体の中に侵入したのだ。


 鮫の鼻は刀だと当てるのは難しい。そのため、体内に侵入することで、殴り放題というシンプルかつ脳筋の作戦を思いついたのだ。


「作戦成功……そんじゃ、解体ショーと行きますかァ!」


 俺は、内側の皮膚に刀を振り下ろし、赤いエフェクトが出たのを確認する。


 ――そして、


「ムーンスラッシュ、月影返し、蒼月一閃――からの狂刃乱舞!」


 徐々に、赤いエフェクトが浸透しているのを、脳に焼き付け、現段階で持っている全ての攻撃技を放った。


 今まで、スキルを温存する戦い方をしていた分、この連続攻撃は、爽快感を感じずにはいられない。


「はぁはぁ……よっしゃあ!」


 毒牙鮫がポリゴンとなり、消滅した途端、俺は、水の中で叫んだ。今までに体験したことの無い達成感に喜びを隠せない。


『これが臨機応変の真骨頂なのね……』


 ヒナウェーブが指定伝達で囁いた。


「って――やっべぇ、死ぬぅ!」


 スピードブーストによる、スタミナ無限の効果が切れると同時に、継続ダメージが発生し、俺は、手と足をばたつかせて、急いで湖を上がるのであった。


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