第23話 VS毒牙鮫 後編
俺は、運動神経の良い方だと自覚している。だがしかし、水泳だけは唯一の苦手分野であった。
何故苦手なのか。自己分析の結果、いくつかの課題を発見した。
・目に水が入る
・耳に水が入る
・鼻に水が入る
・口に水が入る
の計4つである。
そう、悪いのはそこそこ運動神経の良い俺ではなく『水』なのだ。
目は痛くなるわ、耳は詰まってうざいし、鼻も水が入って痛くなるし、口も……うざいし……。
って……痛いとうざいしかないな。
ともかく、それが俺の泳げない要因である。
正直、改善のしようが無い。これらは必然的に起きうる事象であるからだ。
まあ、ゴーグルやシュノーケルを着用すれば、目を守ることは可能だが――ときたま、侵入してくることもあるし、耳、鼻、口は防ぎようがないため、俺には意味が無いのと同義と言える。
そのため、俺は安易に湖へ飛び込むことはしない。それは最終手段であって、頭の中では毒牙鮫を、こちら側に引き込むことしか考えていなかった。
――すると、
『ちょっと行ってくる!』
といきなり、指定伝達で脳内に囁かれる。対角線上に居たヒナウェーブに目線を移すと、綺麗なフォームで飛び込んだのが見えた。
「あいつ……マジか」
驚きと心配が混合してしまったため、そう呟く。かと言って、俺も湖に飛び込むような真似は出来ない。小鮫のヘイト稼ぎという言い訳を付けて泳ぎたくないだけなのである。
しかしながら、ヒナウェーブの考えが見えない。湖に飛び込んで攻撃を仕掛けるしかないと思ったのか、それともなにか作戦があるのか……。
頭の中で思考を巡らせていると――。
『湖、入れるよ』
またしても脳内で声がした。
「は? どうやって喋ってんだよ」
何故か、水中にいるはずのヒナウェーブから連絡が来た。訳の分からない状況に、頭がこんがらがる。
『大丈夫だから、早く来て』
ヒナウェーブは、信用できる人間ではあった。嘘をつくタイプでは無いのは、これまでの冒険で知り得たことだ。そして、俺は決断した。
「ああ、もうどうにでもなれ!」
ここまで来たら、死ななきゃそれで良かった。許容するしかないと思い、俺はがむしゃらに飛び込んだ。
――水中の独特な音が聞こえた途端、目を開ける。
「これは……」
『全身に決壊が張られてる影響で、水が入らないシステムになってるのよ』
水しぶきで気づいたのか、ヒナウェーブの脳内再生が聞こえる。
「って、やべ!」
俺は、小鮫が追いかけてきていると思い、後ろを向いた。しかし、小鮫は追走してきていなかった。
「ふぅ……」
後先のことを何も考えずに飛び込んでしまったが、ひとまず安心だ。
『湖の真ん中で浮きながら、小鮫の様子を観察してたけど、あの子たち湖に帰ると消滅するみたいだね』
「なんだそりゃ……」
ここまでの作戦は、時間の無駄だったってわけだ。それなら、さっさと湖に飛び込めばよかった。まあ、結果論ではあるけども……。
『とりあえず、私のところに来てくれる?』
言われた通り、湖の中心へ上がる。それにしても、現実世界より簡単に泳げる。ステータスの兼ね合いもあるだろうが、水が入らないだけでこんなにも泳ぐのが楽しいとは思わなかった。
「指定伝達解除……っと」
「来たぞ」
なんか久々に顔を合わせた気がする。妙に不思議な感覚だ。
「で、作戦は?」
「え、いやそれを聞くために上がってきたんですが?」
「じゃあノープランで行く?」
彼女は呑気に言った。
「ここまで来て、脳筋な馬鹿があるかよ……」
「違う。そうじゃなくて、臨機応変にってこと」
「全然意味合い違うだろ!」
俺は、頭の中で思考を巡らせているのに対して、彼女は平常を保っている。橋で怯えていた時とは大違いだ。
「まあまあ、一旦落ち着こうよ。毒牙鮫も動いてないみたいだしさぁ」
そう言うと、彼女は底にいる影を指さす。確かに、動いていない。
「そういえば、博士は?」
「さあね、倒れたんじゃない?」
「サラッと縁起の悪いこと言うなよ……」
アドレナリンが出まくってるのか知らないが、現在の彼女はやけに毒舌だった。
「なあに、聞こえておるぞ」
うん、普通にいた。NPCがいきなり死ぬなんて、クソゲーでしかありえない理だからな。
「なあ博士、あの時の電気ショックみたいなやつ出来ねぇのか?」
「ああ、出来んな。あれは湖が大きすぎて電気が通らん」
考えてみればそりゃそうだ。そもそも、バウクロは、プレイスキルが問われるゲームであることをつくづく承知している。サポートして貰えるはずがないのだ。
「なるほど、NPCはあくまで、情報を伝えてくれるだけってことね」
「つまり、自分たちで倒せと……」
「元からそのつもりだから関係ないでしょ」
「……だな」
楽に倒せるとは思っていない。寧ろ負ける可能性の方が高い状況だ。けど、ヒナウェーブとなら、なんとかなる気がしていた。
「結局、作戦は臨機応変ってことで良い?」
「分かった。それで行こう」
「……え? さっきまで否定してたのに……」
「それしかないって気がついたんだよ」
堅牢堅固のスライムと同様に、敵が動かない時は、仕掛けるしか方法は無い。そこからは、未知の領域ではあるが、自分の技量に託すとしよう。
「先に言っとくけど、呼吸の代わりにスタミナが減るっぽい。だから、定期的に息継ぎしないと継続ダメージでやられるから気をつけて」
「ああ、そうなんだ……ん、まてよ?」
「……?」
「俺のスピードブーストは発動中、スタミナが無限になる。だから、最強かもなって……」
「は何それ、ズルじゃん」
「俺は、ズル超えてチートだと思ってるけどね」
俺は、
「で、心の準備は?」
「出来てるけど……その前に、ステータスポイントだけ振らせてくれ」
危ない危ない。後回しにしていたらまた忘れるところだった。
―――――――――――――――
【プレイヤーネーム】ルア
Lv.23
【職業】侍
【所持金】75050G
【HP】 50/50
【MP】 10→30
【ATK】55→75
【DEF】 5
【ST】 20
【DEX】35
【AGI】30
【CRI】10
【LUK】 30→35
守護霊:無し
スキル
・ムーンスラッシュ
・スピードブースト
・ラックカウンター
・月影返し
・蒼月一閃
・狂刃乱舞
【装備】
右手 日本刀
左手 無し
頭 猫の仮面(黒)
胴 ロングコート(黒赤)
腰 無し
足 無し
―――――――――――――――
溜まっていた、45ポイントをMPとATKに20ポイントずつ。余ったポイントをLUKに振り分けた。
「オッケー、準備万端だ」
「よし、接近戦は任せたよ」
ヒナウェーブは俺の肩をポンと叩く。
「――言われなくても分かってるよッ!」
そう言い残し、俺は水を蹴りあげ、深くまで推進した。
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