第22話 VS毒牙鮫 中編

 無限湧きの小鮫は止まることを知らなかった。いくら倒しても、進まない現状に焦りを感じつつ、ひたすら無心で切り刻んでいく。


 このゲームは、敵を倒すと経験値が入る仕組みとなっている。その経験値は、最後に倒したプレイヤーに付与される。


 そのため、本来ならば確殺を担うヒナウェーブに経験値が入ることになるのだが、チラ見するに、レベルは一切変動していなかった。


 最低でも百匹以上は倒しているにも関わらず、レベルが上がらないのはありえない。つまり、この小鮫には、経験値が入らないような設定となっていることが分かる。


 このシステムが、俺たちを苦しめている一つの要因でもある。


「くっ、終わりが見えねぇ……」


 気がつけば、湖を一周していた。


 ――そこで気がついた事がある。


 俺たちが登ったハッチの近くで、傍観していたラドリー博士が姿ということを。


 研究所に戻ったのだろうか――。


 ともかく、今は目の前の敵に集中すべきだ。


 ――すると、


「あーあー、テステス」


 どこからか、反響したラドリー博士の声が聞こえる。それは、校内放送のような音質であった。


「ワシは今、研究所の監視室におる。状況を説明しよう。湖に底に眠っている巨大なサメは、消えたり、現れたりを繰り返しておるのじゃ」


「はぁ?」


「どういうことよ……」


 俺も、ヒナウェーブも頭が混乱していた。


「条件は、お主らが戦っている小鮫にある。この小鮫を一匹倒す事に、切り替わっておるのじゃ」


「なるほど、こいつらは嫌がらせ目的だけじゃなく、ちゃんとしたギミックがあったって訳か……」


「ああ、ルアよ……その通りじゃ」


「いや、俺の声そっちに聞こえてんのかい!」


 今まで、毒牙鮫に気を取られて気づかなかったが、水中や洞窟の側面にカメラが取り付けられている。どうやらそこから音を拾っているようだ。


 それはそうと……毒牙鮫を透過を解除しない事には始まらない。


 湖を観察している余裕がない以上、ヒナウェーブと博士との連携が必要条件となってくる。


「博士、タイミングを教えてください! 今はどっちですか!」


「今は、消えておるぞ」


「了解!」


 ヒナウェーブは、一匹の小鮫を撃ち殺した。


「指定伝達『ルア』」


 そして、すぐさま効果の切れていた指定伝達を使用する。


『とりあえず、今は実態化してるらしい。私は、一旦攻撃しないでおくね!』


「リョーかいっ」


「ルアは了解と言っておるぞ」


 ヒナウェーブ→俺→ラドリー博士→ヒナウェーブの順で情報が共有されていく。


 でもこれ……逆に増え続けて詰むだけじゃね……?


 俺の脳内では、そうなる未来しか見えなかった。


 一旦、後のことを考えるのは辞めよう。その時は、飛び込んでボスを狙いに行くしかない……。


 でも、俺泳げねぇんだよな……。


 ――クソっ!


 考えることが多すぎる!


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