第18話 怪奇現象
ラドリー博士は、元々この湖の生態系について、研究をしていた第一人者であり、五十年ほど前までは数多くの研究者が、ここで自給自足をして生活していたらしい。
しかし、突如湖から生き物が居なくなったことによって、洞窟内に異変が起き始めた。それがなんの前触れもなく、地面に穴が開き、死を誘うという不可解な現象である。
その現象が起きてしまったことにより、研究所に残っていた人々は、安全に街へ戻れなくなってしまった。
元々自給自足で生活していた研究者達は、その場に残り、生態系の研究から、謎の現象の解明にシフトしたとの事。
結果的に、解明までは至らず、年月が経つにつれ、バタバタと研究者達が寿命やら病気やらで倒れていき、ラドリー博士が一人生き残ったというのが今の状況だ。
「なるほど……洞窟のあれは、そういうことだったのね……」
「別に確定というわけじゃあない。その可能性が高いと言うだけじゃ」
「そ、そうですか……」
「それにしても凄い設定……じゃなくて、なんというか深いですね……」
「何? 地下の研究所と掛けてんの?」
「いや、掛けてねぇわ!」
「ふぉふぉふぉ。愉快で何よりじゃな。なんだか懐かしいわい」
怪訝な顔が柔らかくなり、高らかに笑う博士。相手は人工知能なのにも関わらず、感情移入してしまいそうだ。
「それで、私たちは何をすれば良いのでしょうか」
「ワシの『最後』の研究を手伝って欲しいのじゃ」
「『最後』の研究?」
「こっちじゃ」
再び、ラドリー博士の後を追う。そして、扉を開け、中に入るとそこは大きめな部屋だった。
等間隔に、長机と椅子が綺麗に並んでいる。その机の上にはパソコンが置かれていて、床にはケーブルが張り巡らされている。
いかにも、研究してますよ感満載の部屋だった。
ラドリー博士は、机と机の合間を縫って進む。そして、博士が見せてきたのは、水槽だった。
「これは……サメですか?」
ヒナウェーブが博士に質問を投げかける。
「もちのろんじゃ」
いきいきと水槽の中で泳いでいるサメ。ホオジロザメやジンベイザメなんかと比べ物にならないくらい小さい。見る分にはなんの驚異にもならないただの小鮫だ。
「さっき、湖の生物が全員消えたって言いましたよね。研究対象の生き物は消えてないってことですか?」
「いや、違う。こやつは生き物が消えた後、この地底湖に現れたサメなんじゃよ。これがどういう意味か分かるかね?」
「えっと、つまり……怪奇現象って事ですか?」
「ああ、そうじゃな」
あれ、今ホラゲーやってる?
俺は、そう認識せざるを得なかった。いやな空気感を感じる。
こういうのって、何かのフラグだったりするんだよなぁ――
「では、『最後』の研究に取り掛かろう」
そう言って、博士は近くの椅子に腰かけ、キーボードをカタカタと鳴らし始めた。画面上にはプログラミングか何かのよく分からない羅列が表示されていた。そして、数秒たち、博士はEnterを押す。
――すると、
「サメが!」
「死んだ……?」
一言ずつ発した後、俺とヒナウェーブは、唐突の出来事に唖然とする。あまりにも想定外すぎたからだ。
「死んではおらん。電気ショックで弱らせただけじゃ」
「どういうことですか博士!」
博士に向かって、叫ぶヒナウェーブはあからさまに困惑していた。ちなみに、俺もそうだ。これも研究の一部なのだろうか。
「そのサメを殺すのじゃ……」
「はぁ?」
「おいおい、研究のし過ぎで頭でもイカれたのか?」
急展開すぎて、はてなマークが絶えない。冗談を言ったのは平常心を保つためだ。
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