第16話 死なない落とし穴

 俺は、基本的に攻略情報を見ないタイプだ。何故かって、そのゲームをより楽しめるし、アニメや映画のネタバレをされている感が否めないからである。


「一生グルグル回ってる気がするんだけど……」


「こればっかりは根性だな」


 俺とヒナウェーブは、第二のエリアである『迷宮の洞窟』で迷子になっていた。分岐した道をひたすら進み続けていたら、こうなってしまった。


 洞窟内の壁には、水色の輝きを放つ水晶が等間隔に埋め込まれており、薄暗い洞窟を照らしてくれている。


「この水晶……どうにかして取れないかなぁ……」


 ヒナウェーブは、一つの水晶を見つめながら呟いた。


「確かに、売れば結構な額になりそうだしな」


 この洞窟に入ってすぐ、水晶を回収できるかどうか試して見たものの、刀でもヒナウェーブの銃弾でもビクともしなかった。


 恐らく、破壊不能オブジェクトなのだろう。洞窟の灯りとして機能している以上、そうとしか考えられない。


「くぅ……目の前にあるのにぃ……」


「子供みたいなこと言ってないで、さっさと行くよ」


「えー絶対取れると思うんだけどなぁ」


 結局、渋々諦め、とぼとぼと俺の後をついてくるヒナウェーブ。


「もしかしてさ、水晶に固執してるのって、青色が好きだからでしょ」


「うん……まあ概ね正解。あの水晶で良いアクセサリー作れそうだなって思ってね」


「ふーん」


 平凡な会話をしつつ、先へ進む。それにしても、来葉の言っていた落とし穴の件が気に障る。


 一応警戒してはいるが、一行に現れる気配は無い。


 それに、敵MOBもここまで目にしていない。


 気味が悪いというか、嵐の前の静けさのようなものを感じる。


「そういえば、なんで猫の仮面なんかしてるの?」


 唐突に、ヒナウェーブから質問を投げかけられる。


「えーっとそれはだな……」


 このタイミングで、その質問が来るとは想定外だったため、動揺を隠せないでいた。正直、本音を言ったっていい。


 しかし、その話が例のに知れ渡る可能性があると思うと、どう考えても嫌すぎる。


「事情があるなら無理して言わなくてもいいけど?」


「まあ、別に大したことじゃないんだけど……言い難……!?」


 この瞬間、何が起きたのか直ぐに察した。なんの予備動作もなく、地面が消えたのだ。一切、反応できなかった。いや、反応はできても助かることは無いだろう。


 ――終わった。


 走馬灯のように、来葉の言葉が頭に浮かんでくる。『即死』という単語が……。


 ◆


「なんだァ……?」


 気がつけばうつ伏せになっていた。


「何が起こったの……」


 地面の感触と隣からヒナウェーブの声で理解した。


 ここは紛れもない洞窟である……と。


 宿屋のベッドでリスポーンする訳でもなく、何故か洞窟にいる。つまり、即死を免れたという事だ。


 このゲームには落下ダメージというものが存在する。この落とし穴だけ物理的法則に則っていないのは不可解。


 ――となるとバグを疑うしか……。


「とりあえず先に進むしかねぇよなぁ……」


「そうだね……バグなら、運営に報告かな」


 一方通行の道を確認した後、俺とヒナウェーブは上体を起こし、立ち上がる。それと同時にウィンドウが反応した。


《シークレットクエスト【ラドリー博士の試練】に挑戦しますか?》


《はい/いいえ》


「「シークレット!?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る