第14話 関係性
気が付けば夕暮れとなり、閉店時間となった。
夏休み期間という事もあり、顧客が増え、そこそこ多忙ではあったが、先輩の助けと気合いで難なく乗り越えた。
その先輩は途中で帰宅し、オーナーは二階で作業をしている。裏の部屋に残ったのは、俺と来葉のみ。
目の前には楕円形のテーブル。その上には、さっき俺が冷蔵庫から取り出した、ペットボトルのスポーツドリンク。その奥には、俺と向かい合わせになり、椅子に座っている来葉が顔を出す。
「さて、落ち着いたことだし、色々話を伺おうか」
事情聴取的な態度で、問い詰める。
それに対し来葉は、
「いいよ。なんでも答えてあげる」
と真面目な素振りで返答した。相変わらず肝が据わっている。いや、芯が強いと言うべきか。
「まず、『AI』優勝おめでとう! いやーすごいなあ」
軽く拍手をしつつ、かなり胡散臭い言い方で振る舞う。
「うん、スゴイうれしいよ! だってあのルアって人に逆転して勝ったんだもん!」
悪意のある満面の笑みで、見事なカウンターを披露する来葉。だが、俺はその記憶を消したことにして、話を変える。
「さ、本題といこうか。何故君がここでバイトをしているんだい……」
「楽しそうだから、以上」
コンマ0.5秒でそう言った。
「ダウト。顔でバレバレ」
「ちょっとしたネタに決まってんじゃん。まったく……これだから『AI』で私に負けるのよ」
来葉は、身振り手振りで残念がる演技をする。
「それのどこに因果関係があるのか教えてくれませんかねぇ?」
「無い」
「はい」
その後、来葉はポケットから携帯を取り出し、操作をし始める。数秒経つと、俺のポケットに入れていた携帯が振動する。通知の合図だ。
確認すると、来葉からたった一枚の写真が送られてきていた。
「ギルド対抗賞金トーナメント開催予定……」
ギルドバンクの金額が高い上位4チームが選ばれ、トーナメント形式で試合を行うとのことだ。
その選考は、サービス開始時から始まっているらしく、あと一週間ちょいで締切となるらしい。
「だから早く来て。そのためだけに、ギルドを組みたいから」
「何処に?」
「ダラワ」
記憶によれば、ダラワは確か、3つ目の街だったはずだ。
「てかなんで、俺から行かなきゃならねぇんだよ。お前から来いよ」
「無理なんだって。【ダラワ】の前のエリアは、即死の落とし穴が無限に設置されてるんだもん。ギルドバンクのためにも、デスペナルティでお金減らしたくないから」
来葉の言い方からして、それは本当のことらしい。
「はぁ? クソゲーじゃん」
「それは
「まあ、それはそう」
銃ゲー世界大会出場者のウェブがいれば、何とかなるだろうと思ってはいたが、これは険しい道のりになりそうだ。
「そもそも、俺はまだお前のギルドに入るなんて一言も言ってないからな」
「賞金要らないの……?」
悪魔の囁きを耳にする。
――賞金。
この言葉を聞いて、心が踊らないわけながない。
「ああ、もうわかったよ」
「ふふっ……ちゃんと連れてきてよ。ヒナウェーブちゃんを」
一瞬、聞き間違えかと耳を疑ったが、間違いなく「ヒナウェーブ」という単語が頭に入ってきた。
「は? お前……なんでその名前を……」
「だって私の友達だもん。しっかり情報は仕入れてるんだから」
あまりに衝撃的すぎて頭が真っ白になる。そことそこが繋がってるなんて思いもよらないことだ。
――落ち着け、本題を忘れるな。
と心に言い聞かせ、直ぐに持ち直す。
「で、結局お前がここのバイトを選んだ理由ってこれを伝えたかっただけ?」
「そんな訳ないでしょ。そもそも、チャットで会話できるんだし。それに、賞金トーナメントのことは後で送ろうと思ってたからついでに話しておきたかっただけ」
と、早口につらつらと述べる。
「じゃあなんなんだよ」
「本当にたまたまってやつよ……」
そう言って彼女はすました顔で席を立ち、帰って行った。
「嘘つくの下手だなぁ」
そう呟くと、俺はスポーツドリンクを一気に飲み干した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます